ソフトバンク・松坂大輔【写真:荒川祐史】

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ソフトバンクが退団発表、「平成の怪物」はどこへ

 日本一を目指し、日本シリーズを戦っている最中のソフトバンクに衝撃のニュースが流れた。2年ぶり8度目の日本一が決まった4日の第6戦の朝のことだった。松坂大輔投手が今季限りで退団し、他球団への移籍を模索することを決断した、というものだった。

 日本シリーズが終わった翌日の5日に退団が正式に発表された。球団を通じて松坂は「ソフトバンクホークス関係者の皆様、ホークスファンの皆様、この3年間期待に応えられず申し訳ありませんでした。出来ることなら胸を張ってチームの歓喜の話の中に入っていたかったです…。最後の瞬間までリハビリに付き添っていただいたスタッフの皆さん、いつも私に真剣に向き合ってくださった工藤監督、コーチ、選手の皆さん、何よりも暖かい声援を送ってくれたファンの皆様の1つ1つの声に私は支えられてきました。いくら言葉にしても足りないくらいの感謝の想いを伝えるのは、1軍のマウンドだと思っています。またいつかグラウンドでファンの皆様、チームメートに再会できることを信じて、前を向き続けていきたいと思います」とコメントを寄せた。

 2015年に米MLBメッツから3年契約でソフトバンクに加わった右腕。復帰1年目から右肩に異変を訴え、8月には手術に踏み切った。長く険しいリハビリを経て、昨季の最終戦でようやく復帰初登板を果たしたが、結局1軍登板はこの1試合のみに終わった。3年目の今季、3月25日のオープン戦・広島戦(ヤフオクD)で7回無安打無失点の投球を見せたが、その後に再び右肩の違和感を訴え、リハビリへと逆戻り。実戦のマウンドに上がることは出来なかった。

 ソフトバンクは復活を目指す松坂の意志を尊重し、来季も契約を結ぶ方針にあった。ただ、チーム編成も考慮し、70人の枠がある支配下登録からは外れ、コーチ契約を結んだ上で、復帰を目指す道筋を提示したようだ。1996年にソフトバンクに加わり、右肩故障のため、2011年からの3年間、「三軍リハビリ担当コーチ」として選手復帰を目指した斉藤和巳氏と同様の方式を提案されたが、松坂は、あくまで選手として復帰を目指す道を選択し、退団の道を選ぶことになった。

松坂獲得によるメリットは?

 では、果たして、松坂はどこへ行くのか?

 もちろん、最良の選択肢はNPBの他球団への移籍だろう。ただ、現実的には厳しいとは言わざるを得ない。3年間で1軍での登板は1試合、1イニングのみ。それどころか、今季は2軍での登板もなかった。現在は右肩の状態も上向いてきており、一時の全く投げられない状態ではない。ブルペンでの投球練習も行っているが、ただ、どれほどのボールが投げられるかは未知数である。果たして、その状況で手を挙げる球団があるかといえば、難しい。

 ただ、松坂獲得によるメリットがないわけではない。その絶大な知名度は、今でも球界トップクラス。広告効果、営業効果という面で敵う選手はそうはいない。現にソフトバンクでも春の宮崎キャンプでは2年目、3年目になっても、松坂人気は凄まじかったし、1軍登板はなくとも、グッズなどの売り上げも相当あったようである。

 仮に復帰後初勝利ともなれば、全新聞が1面で扱い、スポーツニュースでもトップニュースとなるはず。アンチの多さもさることながら、松坂復活を願っているファンも多い。横浜高校での甲子園春夏連覇、西武での活躍、WBC2大会連続優勝、そして2大会連続MVPに輝き、レッドソックスでワールドシリーズ制覇と輝かしい成績を残してきた。松坂大輔プロ野球を知らない人でも知っているスーパースターなのである。

米独立リーグも選択肢の一つ?

 ソフトバンクと結んでいた3年推定12億円のような大型契約はもちろんあり得ない。例えば年俸1000万円、インセンティブで1億円といったような基本年俸を抑え、出来高に特化した、リスクヘッジされた契約ならば、オファーするだけの価値はあるだろうし、費用対効果も見込める。現状、戦力として計算するのは難しい。松坂自身にとっては厳しい言い方にはなるが、ビジネスの観点で言えば、獲得するメリットはある。

 それでも、投げられるか分からない状況でのNPB復帰は険しい道のりだろう。この状況下で、関係者が予想するところでは、アメリカの独立リーグでのプレーの可能性もあるという。松坂ほどの実績と代理人のネットワークがあり、条件を問わないのではあれば、米独立リーグならば移籍は十分に可能性がある。年俸を受けるのではなく、逆に球団側に松坂サイドが資金を払う形にしたとすれば、間違いなく受け入れる米独立リーグのチームがあるという。

 米独立リーグは、元メジャーリーガーも多くプレーしている。日本人も、マック鈴木や仁志敏久、佐野慈紀、伊良部秀輝、大家友和、渡辺俊介など数多くプレーしており、日本人へのハードルも決して高くない。まずは米独立リーグで投げられることを証明し、そこから日本球界復帰を目指す道のりもある。

 日本のプロ野球球団で手を挙げる球団はあるのだろうか。はたまた、アメリカから再スタートの一歩を切るのか。果たして「平成の怪物」はどこへ行く。(福谷佑介 / Yusuke Fukutani)