集団行動の魅力とは。齋藤里菜へのインタビューで紐解く

 3人組バンドの集団行動が6月28日に、デビューアルバム『集団行動』をリリースした。元相対性理論の真部脩一(Gt)が、盟友・西浦謙助(Dr)とともに結成。ボーカルには、講談社主催のオーディション『ミスiD 2016』のファイナリストである齋藤里菜を抜擢。どこか懐かしい雰囲気を持ったノスタルジックなギターサウンドと、それに重なる気だるいボーカル。真部のつくる音楽らしさがありながら、相対性理論とは異なる世界観で聴かせる集団行動の音楽について、齋藤は「相対性理論と比べられたくない」と話す。体育学部出身で音楽素人だった彼女が、ボーカルに抜擢された理由とは? 「真部さんの曲には齋藤里菜の声が必要不可欠と言われるまでになりたい」と強い意気込みを持つ齋藤を通して、集団行動の魅力を探った。

失礼なことに「真部さんって誰?」という感じでした

齋藤里菜

――齋藤さんは『ミスiD 2016』のファイナリストに選ばれた経験がありますが、もともとアーティストを目指していたのですか?

 いえ、そういうわけではなくて。モデル、女優、タレントなど様々なジャンルがある中で、やりたい順位を付けるとしたら、一番下になるくらい音楽には興味がありませんでした(笑)。

――それが、どうしてやることに?

 昨年の3月に集団行動のボーカルオーディションを受けたのですが、正式にバンドへのお誘いをいただいた時、ちょうど受けていた会社の面接に落ちてしまって。「これは、音楽をやれということかな?」と、何かの思し召しと思って(笑)。

 それに真部さんは3年くらいボーカルを探していたそうで、ミスiD 2016のファイナリストからは、私以外にも何人かオーディションを受けていました。ミスiDは、みんなライバル意識を持っているので、もし私の知っている子に決まったら、単純にすごく悔しいと思ったし。ミスiDの選考委員長に相談したら、こういう機会は滅多にないし、真部さんと一緒にやりたい人はたくさんいると聞いて。「断る理由がない。チャレンジするべきだ」と、背中を押してもらって決断しました。

――齋藤さんご自身は、真部さんからどんなところを認めてもらったのだと思いますか?

 真部さんが言っていたのですが、「今までいろいろな音楽を聴いて歌い込んで来た人は、その音楽に関しては上手だけど、自分(真部)の作る音楽は他とは少し違うから、今までの経験があまり役に立たない。むしろ経験が邪魔になる」と。私の場合は、経験も積み上げて来たものも無いので、むしろそれが良いと。

――練習を積み重ねた歌の上手さとは違うものを求められていて、それが齋藤さんにはあったと。

 だと良いのですが。他には「癖がない」とも言われました。「嫌な部分がない」とも。私は、小さい時から「音痴」と言われて育ってきたので、私は音痴だと思っていたんです。でも真部さんは、「本当に音痴だったら誘ってない!」と。自分のしゃべり声の低さや、歌うという行為にずっとコンプレックスを感じていましたが、真部さんが「声質が良いね」と褒めてくれたので、徐々にコンプレックスが自信に変わっていきました。

 今もまだ、すごく自信満々というわけではないですが、真部さんが良いと言って下さっているのだから良いと、真部さんの言葉を信じて頑張ろうと思っています。

――真部さんが以前にやっていたバンド(相対性理論)のことは?

 正直知らなかったです。オーディションの時も、本当に失礼なことに「真部さんって誰?」という感じで。それにオーディションの日は、大学の実習期間と重なっていて、徹夜した流れで疲れ切った顔で行ってしまって。

 後で聞いたら、オーディションを受けた他の子からは「相対性理論の大ファンです!」「真部さんの曲が大好きです!」と、すごくアピールされたそうなのですが、私は疲れていたせいか応対が適当だったみたいで、その素の感じも良かったみたいです(笑)。

――集団行動に加入して一緒に音楽をやるようになり、今はどんなお気持ちですか?

 レコーディング前と後では、気持ちがまったく違っていますね。前は、足を引っ張らないようにとか、どう期待に応えるか、ということしか考えていませんでした。それが、レコーディングが進むにつれて、ベースがこうだからボーカルはこう歌いたいとか、自分のことだけじゃなく、他の楽器のことも絡めて考えられるようになりました。

 それにライブを何度かやっているのですが、最初のライブは「とりあえずやらなきゃ」という感じで、自分のことで精一杯でした。何度か重ねていくうちに、どうやったらお客さんが楽しいかや、どうパフォーマンスしたらいいかなど、だんだんお客さん目線でも考えられるようになってきました。

救命救急の勉強をしている大学の後輩に聴かせたい

齋藤里菜

――レコーディングはどうだったのですか?

 初めてスタジオに行った時は、マイクがぶら下がっていて、「テレビで見たことのあるやつだ!」と思って(笑)。

 でも、本当に緊張しました。自分なりにたくさん練習して臨んだのですが、いざマイクの前に立つと練習して来たことがなかなか発揮できなくて、どう歌ったら良いか分からなくなってしまって。

――曲のデモには、ガイドのボーカルが入っていたり?

 入っていたのは、「ホーミング・ユー」と「東京ミシュラン24時」の2曲だけです。「ホーミング・ユー」は、オーディションの課題曲みたいな感じだったので、仮歌が入っていて。

 他の曲は、真部さんのスタジオで一緒に作っていきました。真部さんがギターを弾いて歌うのを隣で聴いて、耳コピして覚えて歌って、それをどんどん録っていくという形です。すべてその場でなので、歌も練習していなくて「これで良いのかな?」と、不安に思いつつも、目の前でどんどん音が重なって曲ができていくのがすごくて。

――「AED」という曲もありますけど、これは自動体外式除細動器のこと?

 はい。3月まで大学の体育学部の学生で、救命救急士の勉強などもやっていて。真部さんといろいろお話しする中で、「私を象徴するような曲も作ってほしい」と、ノリでお願いして。救命士の勉強をしているし、それっぽい曲があったら良いなと。そうしたら、次にお会いしたときに、この曲ができていました。「本当に作ってくれたんだ!」という驚きもありつつ、すごく嬉しかったです。

 私はAEDを使ったことがあるし、どういうものかどういう使い方をするのかも知っているけど、普通の方で使ったことのある方は少ないと思います。どういう音がするとか、どういう衝撃があるとか。そういう分からない中で、ここまで歌詞を書けるのはすごいと思いました。

 歌詞は、単純にAEDのことを歌っているわけではなくて、恋に重ねていたり、単純にAEDのことを歌うこととは違う切り口になっていて。AEDは、こういう風にも捉えることができるんだなと。専門用語を使っているわけでもないのに、AEDを使ったことのある私が読んで「確かに!」と思うものになっていて。救命救急の勉強をしている、大学の後輩に聴かせたいです(笑)。

――「東京ミシュラン24時」は?

 <半チャーハン大盛り>という歌詞が出てきますが、それって普通盛りでは? と思ったりとか。やっぱり独特ですよね(笑)。

――本が好きな子などは、すごく楽しめる歌詞の世界が多いのかなと思いますが、齋藤さんは本をよく読みますか?

 もともと本を読むことは好きでしたが、音楽を始めてからは、もっとたくさん読むようになりました。今後いろいろ歌っていく上で、歌詞の気持ちがどこでオチてどこでアガるとか、そういう感情の波みたいなものを表現する上でも勉強になると思って。

 でも私、小3から20歳までずっとバレーボールをやっていたくらい、運動しかやって来なかったので、文系の課目が苦手で。国語のテストなどで「作者の気持ちを述べよ」と出題されても、「そんなの知らないよ」と思ってしまう人です。

 数学みたいに、ひとつの質問に答えは一つであって欲しいのですが、音楽も国語と同じように、答えは聴く人それぞれの中にあって。そういう意味で、音楽は苦手です(笑)。でも自分の中で、一つ答えを持ってさえいれば、後は受け取る側次第だと思うので。

メンバーの中では一番集団行動できる自信がある

齋藤里菜

――集団行動という名前は?

 決まったのは今年の2月くらいです。去年の5月から約9カ月は、名前がないままスタジオに入って曲作りをしていて、「そろそろ決めないとヤバイ」ということで、アー写を撮る日に決まりました。

 理由は最近になって知ったのですが、集団行動ができなさそうな人が、集団行動を目指してやって、できるようになったら面白いよね、という。

――集団行動と言えば、日体大名物のパフォーマンスにありますよね。齋藤さんは体育学部出身なので、集団行動は得意では?

 メンバーや周りの人からは、「集団行動が苦手そう」と言われますが、バンド内では私が一番集団行動できると思います! 部活でバレーボールをずっとやっていたし、体育会系なので、絶対に真部さんと西浦さんより集団行動できる自信があります!

 最初は「え? 本当にこの名前でいくの?」と思ったのですが、今ではすごく愛着が沸いています。集団行動と検索すると、やはり日体大が真っ先に出てくるので、いずれはその上に出るようになりたいですね。

――将来的にはどんな風に考えていますか?

 長期的な部分で考えているのは、集団行動というブランドと言うか、分かりやすい目印になるようなものを作っていきたいです。

 長年第一線で活躍されているアーティストさんは、ワンフレーズ聴いただけで「誰々の曲だ」とか「誰々の声だ」と分かる特徴があるので、そういうものを何年かかっても作っていきたいです。たとえばコンビニで流れて「あ、集団行動だ」と分かってもらえるように、たくさんの人に届く音楽にしたいです。

――今はまだ初期の相対性理論の延長上にあると思っている人が、多いと思いますが、そのあたりは?

 真部さんの曲には“やくしまるえつこ”さんの歌声が合うと思っている方は、きっとたくさんいると思います。でも正直、やっぱり比べられたくないですよね。真部さんとバンドをやるようになって、真部さんの作った音楽はすべて聴きました。相対性理論だけでなく、プロデュースされているタルトタタンさんなども全部。その上で、自分なりのものを模索しています。

 相対性理論とは別のバンドであると理解してもらえるまでには、それも時間がかかってしまうかもしれません。時間がかかっても、別ものと思ってもらえるまで頑張りたいです。音楽という土俵の上では、相対性理論も集団行動も同じだと思いますが、真部さんの作る音楽という土俵の上では、別ものでいたいです。

 今後どうなっていくのか、不安もありますが、すごく楽しみです。真部さんと西浦さんと一緒に、新しいものを作っていきたいです。

――集団行動というバンドの上で、齋藤さんはどんなスパイスでありたいですか?

 真部さんは、多くの人が聴いてくれるようにと思って作っていると思いますが、私としては「私の歌じゃなきゃ成立しない!」というくらいの強い気持ちでいます。「真部さんの曲には齋藤里菜の声が必要不可欠」と、言われるまでになりたいです。

 バラードやロックナンバーなどいろいろな曲調がある中で、曲ごとにその曲に合った最高のスパイスになれる存在でありたいです。私の声が乗ることで、真部さんのビジョンを上回るものになるような感じと言うか。

――カレーにガラムマサラが不可欠みたいな。

 集団行動は、みんなカレーとかエスニック料理が大好きなので、そういう感じの例えも良いですね。昨日もみんなでカレーを食べに行きました。スタジオに入る前にカルディコーヒーファームに寄って、パクチー入りの食べ物ばかり買い漁ってます(笑)。

(取材・撮影=榑林史章)

集団行動

 ◆集団行動とは 2006年から2012年まで相対性理論のコンポーザー/ベーシストとして活動し、その後さまざまなアーティストのプロデュースやバンド活動で、ポップマエストロと呼ばれる真部脩一(Gt)が、同じく元相対性理論のドラムスだった西浦謙助(Dr)、そして齋藤里菜(Vo)とともに結成。今年本格的に活動をスタートした。齋藤里菜は、現在23歳でミスiD2016のファイナリスト。現在メンバーも募集中とのこと。

齋藤里菜 齋藤里菜 齋藤里菜
齋藤里菜 集団行動の魅力とは。齋藤里菜へのインタビューで紐解く
作品情報

「集団行動」

集団行動
デビューアルバム『集団行動』
発売日:6月28日
価格:2000円(税抜)VICL-64801

01. ホーミング・ユー
02. ぐるぐる巻き
03. 東京ミシュラン24時
04. バイ・バイ・ブラックボード
05. 土星の環
06. AED
07. バックシート・フェアウェル公演情報▽リゾームライブラリーVI
8月14日 愛知・岡崎市図書館交流プラザ

▽集団行動の単独公演
9月13日 東京・渋谷WWW