「T2 トレインスポッティング」全力疾走しようにも脚が上がらないんだよ、人生がんばってんだよ

写真拡大

前作から20年。あのスコットランドのろくでなしたちがおっさんになって帰ってきた!


同一キャストで描く中年の悲哀


前作『トレインスポッティング』で金を持ち逃げして故郷リースを離れ、アムステルダムに飛んだ主人公レントン。しかしオランダでの結婚生活はままならず仕事もクビになり、46歳になった彼はリースに出戻ってくる。

レントンの人生も散々だけど、リースに取り残された3人の生活もグダグダ。スパッドは結婚して子供も生まれたものの離婚し、仕事もできない深刻なヤク中に。かつて「シックボーイ」と呼ばれたサイモンは叔母から継いだパブを経営する傍らブルガリア移民の愛人ベロニカと組んで強請りたかりのチンピラ稼業に精を出している。暴力中毒のベグビーに至っては刑務所に放り込まれ、悪知恵で脱獄を試みる。かつてレントンに裏切られた彼らは、当のレントンが出戻って来たことで感情を爆発させ、20年前に取り残されっぱなしだった関係が再び動きだす。

劇中では20年前の前作の映像や音楽が多数引用されるも、それらは盛り上がるタイミングにはたどり着かない。イギー・ポップの「Lust for life」はレコードに針を落とした瞬間に再生を止められ、「Born Slippy」も冒頭だけが控えめにボヤ〜ッと流れるのみ。昔のような無軌道な盛り上がりはすでになく、全力疾走しようにも脚が上がらない。

そんな中年のキツさを表現する上で威力を発揮しているのが、キャスト・スタッフともにほぼ前作と同じという点だ。ひょろひょろのジャンキーだったレントンは目尻に皺が目立つようになり、シックボーイの髪は薄くなり、スパッドに至っては完全に変なおじさんである。実際に同じ人間が20年分老けているので、生々しいことこの上ない。このキャストを使って、20年前に取り残された彼らの選択の結果を描く、いわば答え合わせにあたるのが「T2」と言える。いやしかし、人生って大変だなあ……。

『T2』はスパッドの物語か


前作では「未来を選べ」とヘラヘラしていられたレントンたちも、『T2』ではすでに選択肢がない。だから彼らは前作同様、金をだまし取ってはドラッグにつぎ込むことしかできない。そこにはもう自発的な選択はなく、「そういうふうにしか生きていけない」というだけだ。

そんな中、新たな役割に目覚めるのがスパッドである。彼は劇中、とある理由からこれまでに自分たちのまわりで起こった出来事を大量に書き記す。もう何かを選択することはできないけど、選択とその結果を誰かに物語ることはできるのだ。そして彼は『T2』で唯一、最終的な選択をする人物となる。レントンの物語だった前作と異なり群像劇の側面の強い『T2』だけど、敢えて言えば「スパッドの変化を主軸にした映画」ということになるだろう。さらりと描かれる彼の物語は、前作でのスパッドも考え合わせるとなかなか感動的だ。

こういう内容の映画なので、正直な話『トレインスポッティング』と『T2 トレインスポッティング』は2本セットで見て欲しい。未見の場合、できれば前作を見てから映画館に行くことをおすすめする。2本連続で初めて見ても大丈夫。また20年後にもう一度『T2』を見れば、それはそれで違った味わいがあるはず。それくらいの強度は充分にある作品だ。