樹徳高等学校(群馬)【前編】

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 今年の秋季関東大会において花咲徳栄と接戦を演じた樹徳(試合レポート)。桐生市に位置する樹徳は長年、群馬をリードする強豪として注目されてきたが、今回、秋季群馬県大会優勝を果たし、勢いに乗っている樹徳を追った。

近年の躍進の理由は選手の自主性を尊重したから

全体練習後のミーティング(樹徳高等学校)

 群馬県内では強豪校の一角として認知され常に上位に進出しながらも、92年の夏の全国選手権大会に出場して以来、あと一歩のところで甲子園へ届かずにいた樹徳高校。しかし、今夏は初戦で第1シードの前橋育英を下してベスト8。今秋の群馬県大会では初優勝を飾るなど、さらなる躍進の時を感じさせる活躍を見せている。この好成績の理由の一つに挙げられるのは、昨年10月から指揮を執る木村 喜文監督の存在だろう。

 就任以降、木村監督はチームでの指導方針を大きく変えた。以前は、ベンチに掲げられている「闘志なき者は去れ 礼節をわきまえぬ者は去れ」という言葉からもうかがえるように、厳しく細かい指導が行われていた。だが、今は厳しさをそのまま残しつつも、選手の自主性に重きを置いている。

 実際の練習メニューも各選手に任されている部分があり、木村監督は「今、ピッチャーは走り込みをしているんですが、走る本数は決めていなくて個人の自由なんです。もちろん、サボっている選手にはグラウンド脇の70〜80mある坂道を『100本走れ』とか、無理な本数を課す事もあります。そして、それを実際にやらされると『100本走るくらいなら、普段から20本を進んで走った方が楽だ』と選手も考えるようになるので、そうやって意識付けをしてきました」

 また、全体練習はだいたい19時までだが、その後は自主練習の時間にあてられ、選手は気が済むまでグラウンドや室内練習場を使って良いのだという。「指導者がやらせるのは簡単ですが、やらされている間は進歩もないですから、『自分たちで率先してやらないとダメだ』と話しています。それで、たまに『今日の個人練習は何をするの?』と選手に聞くんですよ。その時、すぐに答えが帰ってこなかったら『今日は帰れ』と言います。全体練習が終わってから『何をやろうかな』って考えているようでは上手くならないですから」(木村監督)

 これにより選手の意識は高まった。主将の嶋田 翔(2年)選手は「毎日、どんな練習をやったのかをノートに書いて、次の日の個人練習のメニューを事前に決めています。自分の場合は『これをやる』と決めたら、その一つの事を徹底して練習するようにしていて、例えばウエイトトレーニングを20分やるんだったら、その20分に集中し、短い時間でどれだけ追い込めるかをテーマにやっています」

 副主将を務める高橋 将幸(2年)選手も「遅い時は10時くらいまで自主練習をしている選手がいますし、オフの日でもグラウンドに来て、バッティング練習をやったりしています。自主練習が多くなってから、スイングする本数はむしろ増えていると思います」

[page_break:自主性を育むために木村監督が工夫してきたことは?]自主性を育むために木村監督が工夫してきたことは?

木村 喜文監督(樹徳高等学校)

 こうした自主性を育てる為、木村監督は様々な工夫をしてきた。

「選手たちに『なぜ、この練習をしているの?』と聞いて、練習の意味や効果を考えさせるようにしています。それから、これまでだったら練習中に静かになると、全員を集めて『元気を出せ』『声を出してやれ』と檄を飛ばしていましたけれど、今は言わずに我慢していますね。その代わり『元気がないけれど、これでいいのか?』と選手に問いかける事で、選手同士が意見を言い合えるように促しているんです」

 嶋田主将は「練習では自分たちの悪いところを指摘しあい、大会ではコミュニケーションを取って声を掛け合うというチーム作りができているので、明るく、楽しんで試合ができています。それも監督がプレーしやすい環境を作ってくれているからだと思います」と効果を感じており、チーム方針の変更は多くの好影響をチームに及ぼした。

「選手にプレッシャーやストレスが掛からないようにした雰囲気作りが本当に上手くいきました。秋の公式戦でも、緊張して実力を出せなかったという選手はほとんどいませんでしたね。また、選手同士で気付いた事を言わせるようにしていたら、自然と厳しい声を掛け合えるようになりました。そして、それがチーム内の競争意識を高める事にも繋がったんです」(木村監督)

 自主性を促すため、時に厳しい言葉をかけた木村監督の試みにより、選手たちの意識は少しずつ高まっていったのだ。後編では意識が高まった選手たちの秋季大会の戦いぶりを振り返っていきます。 

(取材・文=大平 明)

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