日本酒の造り手“杜氏”の現在

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 古いようで、実は新しいお酒。それが日本酒だ。
 各地でデビューする新しい米や酵母、醸造技術の発達とともに開発された新しい製法、次々に台頭する若い作り手たち。
 ひと昔前と比べて、現在の日本酒の香りや味わいは大きく変わってきているという。

 そんな奥深い日本酒の世界を紹介しているのが、本書『大人の探検 日本酒』(松崎晴雄/著、有楽出版社/刊)だ。
 本書では、最近日本酒にハマりはじめた大人の探検取材班・編集の佐藤くんが、日本酒研究家・きき酒名人の松崎晴雄先生と、飲んだ蔵は1580蔵の日本酒オタク・丸西さんに弟子入りし、日本酒の歴史や基礎知識、酒好きならば絶対に外せない厳選152蔵のおすすめ銘柄から、微生物たちによる酒造の工程、さらにはきき酵母に酒器の楽しみ方まで紹介する一冊だ。

 いわく、日本酒を知るには、まず造り手を知ることらしい。
 造り手を知るには、まず杜氏だ。杜氏とは酒造り職人をまとめる人で、今風にいうと、製造責任者となる。ちなみに現場で働く人たちを蔵人という。蔵人には、麹担当の麹氏、もと(*漢字は酒へんに元/酒母のこと)を管理するもと廻りなど、それぞれ担当分野によって名前がついている。
 杜氏制度が生まれた江戸時代中頃には、日本酒造りは大規模な仕事になっていた。この頃になると秋から春に造る「寒酒造り」が主流になっていたので、蔵人には秋から春の農閑期でヒマになった農民を雇うことができた。彼らをまとめて、蔵元と契約していたのが杜氏だ。つまり、杜氏が酒造りのディレクター。蔵元がプロデューサーとなる。杜氏と契約し、資金調達や販売などを指揮するのが蔵元だ。ただ、近年は蔵元が杜氏を兼ねるケースも増えている。

 最近は新しいスタイルの杜氏も出てきているという。蔵元、つまり会社の社員になるというサラリーマン化。そして、江戸時代以降、酒造りは女人禁制とされてきたが、女性の杜氏や蔵人も誕生している。ただし、女性は全体の2%ほどだという。
 杜氏たちは、さらに杜氏集団としてまとまっているのが普通。地域の杜氏たちがゆるやかに連合を作り、品評会を開いたり組合を組織したりしている。杜氏集団が確立したのも、江戸時代中期。中でも、岩手県の南部杜氏、新潟の越後杜氏、兵庫県の但馬杜氏を三大杜氏ともいう。
 江戸時代のように杜氏は酒造りの時期、10月から5月は泊まり込みで仕事をし、一方には新時代の日本酒を模索している蔵元たちもいる。伝統と革新。そして情熱によって美味い酒が完成するということだ。

 昔からの伝統に敬意を払い、守りつつも、進化も続けている日本酒の世界。ただ飲むだけでなく、日本酒の知識や歴史、造り手たちの熱意などを知って、改めて日本酒を楽しみながら飲んでみてはどうだろうか。新しい発見もあるかもしれない。
(新刊JP編集部)