キャリア縛りからユーザーを解放するApple SIMは、スマホ通信業界に激震をもたらす?

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2014年10月16日にアップルが発表した新しいiPadシリーズ。6.1ミリと極限まで薄くなったiPad Air 2や、指紋認証機能が搭載されたiPad mini 3はこの冬イチオシのタブレットとしてヒットすることは間違いないだろう。だが今回のアップルの発表会ではふれられなかった新しい機能に今、世界中から注目が集まっている。それが「Apple SIM」だ。

●いつでもどこでも、キャリアを切り替えられる? ショップレスで短期契約できるApple SIM衝撃
SIMカードはスマホやタブレットでLTEや3G通信をするときに必ず必要になる認証カードだ。ドコモでiPhoneを買えばドコモのSIMカードがはいっているし、ソフトバンクでiPadのセルラー版を買えばソフトバンクのSIMカードが入っている。

つまりこれまでiPhoneやiPadのセルラー版を買う場合は、最初に「どのキャリアと契約するか」を考えてからショップに出向いて購入しているわけだ。

ところが今回からアップルが提供を始めるApple SIMは、「どのキャリアと契約するか」を考えたり、キャリアショップに出向いたりする必要がなくなるのである。
Apple SIMの入ったiPadを購入するだけで、あとはLTE回線を使いたいときだけキャリアと契約できてしまうのだ。

アップルによると、Apple SIMは1週間や1ヶ月などの短期契約ができるとのこと。これも驚きだ。


Apple SIMの入ったiPad Air 2。後からキャリアと短期契約が可能。また自由に契約を切り替えできる


これが、どのくらい便利なことなのか、具体的な例でみてみよう。
例えば、普段は会社と自宅のWi-Fiだけで利用している人が、1週間の出張に出かける場合。
自分のiPadを1週間だけキャリアと契約して使うことができるので、普段使っているWi-Fi環境の無い移動中や移動先でも通信を利用する、ということが可能になるわけだ。それも、わざわざキャリアショップに出向くことなく、行えるのだ。

また今回の発表によると、現時点でもアメリカの3社とイギリスの1社のキャリアが利用できる。
つまり急にイギリス旅行やアメリカ出張になったとしても、現地に到着後、イギリスやアメリカのキャリアと1週間や1ヶ月だけ契約して通信できてしまうわけだ。もちろん現地のキャリアのお店に行く必要はない。自分のiPadの画面上から簡単に短期契約ができてしまうのである。

●アップルストアでの面倒なキャリア契約が不要、気になる日本対応とメリットは?
Apple SIMは、まずはアメリカでiPad Air2などとセットで販売される。
そしてアップルストアでiPad Air 2を買うときは、面倒なキャリア契約は一切いらないのである。
iPad Air 2を購入後、セルラー機能をONにすると、画面上に複数のキャリアが表示され、自分の希望するキャリアとその場で契約できる。もちろんキャリアと契約せずにWi-Fiだけ使うことも可能だ。

こんなに便利になるApple SIMだが、気になるのが日本のセルラー版への対応だ。
当然だが、利用できるキャリアはアップルだけでは決めらない。ドコモやソフトバンクモバイル、auがアップルとApple SIM利用で協力する必要がある。

もし日本のキャリア3社がApple SIMに対応すれば、日本でもiPadを買う時、キャリアショップやアップルストアで回線契約のために時間をかける必要はなくなる。ただiPadを購入するだけでよくなる。もう長時間、店舗で待つことはなくなるのだ。利用者は購入後、iPadのセルラー機能をONにして、各キャリアの中から使いたいキャリアを選べば直ぐに使えるというわけだ。

さらに、購入時の時短だけでなく1つのiPadでキャリアを選べるメリットがApple SIMにはある。
それは、3キャリアの中から、安い料金や特典の多いキャリアが選べたり、自宅で一番電波の強いキャリアを選べたりと、使う人が最適な契約をできるということだ。

そして日本国外に出るときにも大きなメリットがある。
例えば、日本で購入したApple SIM対応のiPadであれば、アメリカに旅行や出張する場合、今使用しているiPadをそのままアメリカに持っていき、現地でアメリカのキャリアと短期契約するだけで使えてしまうのだ。
もう料金が高い国際ローミングや、現地でプリペイドSIMやWi-Fiルーターを手配とか通信環境をどうしようかといった心配をする必要はなくなるわけだ。

●キャリアに縛られずに通信を選べる! Apple SIMは、通信選択の自由化をもたらす?
Apple SIMの普及が広がれば、キャリアと顧客の関係は大きくかわるだろう。
ユーザーはキャリアに縛られることがなく、ユーザーがキャリアを自由に選べるようになるからだ。

例えば、今後Apple SIMがセットされた新しいiPhoneが日本で発売されれば、1つのキャリアではなく、もっとも魅力ある料金やサービスを提供したキャリア選べばよいのだ。しかも、より安い料金がほかのキャリアが提供すれば、iPhone上からキャリアを簡単に変更できるのだ。

ただ、Apple SIMも良いことだけではない。
注意しなくてはならないのは、Apple SIMを利用する場合、キャリアのインセンティブが無いことだ。
このため、現在日本で一般的に使われている割引販売は適用されないことだ。

つまり、キャリア契約をしてiPadを安く購入、2年間毎月基本料金を支払い続けるか。Apple SIM契約で、好きなキャリアを選ぶか、という選択を迫られるかもしれない。

Apple SIMは、キャリアのSIMロックスマホとSIMフリースマホの選択と同様に、利用者の使い方、選択次第ということだ。たまにしかLTE通信を使わない人や国内外の移動が多い人にとってはApple SIMのほうがトータルコストは安上がりになる。逆に国内でLTE通信が中心の人であれば、これまで通りキャリア専属契約がお得だろう。

いずれにせよ、好きな時にキャリアと契約できるというApple SIMは、これまでのキャリア主体のスマホやタブレット販売や料金体制を大きく変えるものになるだろう。


山根康宏