『ハイスコアガール』が著作権を侵害しているとして、SNKプレイモアがスクウェア・エニックスを刑事告訴するという騒動が起こっている。いろいろややこしく難しい著作権法。その中で(C)マルシーマークはどんな役割をはたしているのか?

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90年代の懐かしゲームが実名で登場する、アーケードゲームに夢中になった少年と少女の青春を描いた漫画『ハイスコアガール』(押切蓮介著)。コミックスは5巻まで発売されており、2012年「ブロスコミックアワード」大賞や2013年「このマンガがすごい!」オトコ編2位なども受賞している。アニメ化も決定していた。
そんな人気作に、大きな問題が起こっていたことが、8月6日に発表された。SNKプレイモアが、『ハイスコアガール』出版元のスクウェア・エニックスを刑事告訴したのだという。
告訴の趣旨は「著作権侵害」。『ハイスコアガール』が「当社(SNKプレイモア)の許諾を受けることなく、当社が著作権を有する多数のゲームプログラムのキャラクターを複製使用」していたとして訴え出たのである。

『ハイスコアガール』はレトロゲームネタやレトロゲームのゲーム画面などが話と密接に関わっている。SNKブランドの「ザ・キング・オブ・ファイターズ(KOF)」や「サムライスピリッツ」は90年代に大ヒットしていたのもあって、何度も登場している。
コミックスの巻末には、登場したゲームの開発元の名前が(C)(本来はマルの中にCが入っている)という著作権表示付きで記載されていた。そのため、読者は「許可は取っているのだろう」と考えていた。
しかし実際は、許可は取られていなかった。カプコン、セガ、バンダイナムコゲームスの3社の許諾は少なくとも受けていたようだが、SNKプレイモアからは許諾を得ていなかったのだ。
SNKプレイモアは、単行本・電子書籍・雑誌などの販売の即時停止を要求。「(スク・エニ側から)なんら誠意ある対応がなされませんでした」として刑事告訴に至ったと、公式サイトで発表している。
これを受けて、スク・エニは『ハイスコアガール』の単行本自主回収、電子書籍版の配信中止を決定(連載中止やアニメ化中止はないとしている)。ただし、SNKプレイモア側とスク・エニ側では主張が一致しておらず、今後の発表を待つ形になるだろう。

基本的に、日本のコンテンツホルダー(出版社・新聞社・テレビ局・映画会社など)は、著作権について大きく争わない方針を取っている。著作権は現行の法では「親告罪」であり、著作権者が訴え出ないかぎり罪には問われない。訴え出ない理由は、いわばもちつもたれつの関係にあるからだ。加えて、著作権法では「引用」も認められている。正当な範囲内であれば、他人の著作物を利用していい。

かといって、使いたい放題というわけではない。「これは引用の範囲を超えるかもしれない」「著作権を侵害するかもしれない」と感じた場合は、先方に許可をとる慣例ができている。
他作品のパロディネタが多い「銀魂」は、こまめに許可を取っている一例。他社の作品や、社会的なイメージを重要視している作品(子供向けアニメなど)を扱う場合は慎重になるのが一般的だ。

この慣例をスク・エニ側が知らなかったとは思えない。現に『ハイスコアガール』も一律に許諾を受けていなかったわけではなく、いくつかの企業から許可を得ている。SNKプレイモアから許可をとるさいに、なんらかの過失や行き違い、齟齬が生じていたのだろう。
また、SNKプレイモアは現状著作権管理会社であり(旧SNKは倒産している)、著作権の管理については他社よりも厳しいということも、両者の関係の悪化を招いたのかもしれない。

スク・エニの広報担当者は、ITmediaの取材を受けて「著作権侵害という指摘について、事実という認識はない」と回答している。これはおそらく、「あくまでも引用の範囲である」とするか、もしくは「好意的に取り上げているので、紹介の意図が大きく、重大な違反行為とは考えない」ということだろうか。
ただし、もし裁判になった場合、スク・エニ側はかなり不利な立場にある。なぜなら、巻末に(C)とともにSNKプレイモアの名を挙げているからだ。

(C)マークは、実は重要ではない。日本では(また、多くの地域では)著作権は著作物がつくられた瞬間に発生するので、わざわざ記載する必要はない。ただし、ひとつ効力を発揮するのは、「善意の侵害者」に対してだ。この場合の「善意」は「よかれと思って」という意味ではなく、「著作権があることを知らずに侵害してしまった」という意味だ。
(C)マークが表示されていると、一般に「著作権があることを知らなかった」と主張することはできない。今回のケースは、侵害している(とされる)側が自分から「著作権はSNKプレイモアにある」と主張しているので、「わかっていて侵害した」と見られてしまいかねない。

また、業界の慣例もある。先述のとおり、(C)マークは法的にはほぼ意味がないが、「許可がついたものにだけつけられる」という慣例がある。そのため、先方に相談なく「(C)○○」と書くと、「許可を出した覚えはない!」と怒られるケースが多い。今回のケースは、まさにそれに当てはまっていそうだ。

SNKプレイモア(または旧SNK)が過去に出したゲームを取り上げて、「そちらだって著作権侵害をしているじゃないか!」と憤慨しているファンもいる。ただし、そのゲームが出た当時とは、著作権についての意識が大きく変化しているのは事実だ。憤慨する気持ちをおさえて成り行きを見守っていきたい。大野さんはとてもかわいい。
(青柳美帆子)