2014年05月19日
TEXT:小川 浩(シリアルアントレプレナー)

前回のコラムでは、Webサイト構築サービスが業界としてアツい、ということを紹介した。

インターネットの歴史をひもとくと、まずNetscapeがマルチメディアに対応し、誰でも簡単にインターネット上の情報が閲覧できるWebブラウザを普及させた。これによりインターネットは市民権を得た。

さらに、Yahoo!が急増するWebサイトをインデックス(ポータルともいう)して情報の整理に手を付け、さらにGoogleが本格的に機能する検索エンジンとして人気を集めたことで、“情報を見る”という意味においてはほぼ現在と同じ環境が成立した。1990年代後半のことだ。

しかしながら、インターネット上で情報を発信するという点では、HTMLを直書きするしかない状況はしばらく続き、情報の受信と発信のバランスは悪いままだった。

もちろんホームページ・ビルダーやDreamweaverなどのWebオーサリングソフトはあったが、使い方自体を覚えるのがたいへんなうえ、最低限のHTML知識が必要とされた。また、1990〜2000年代において絶対的な市場シェアを誇ったMicrosoftのInternet ExplorerがW3Cの標準規定を無視した独自仕様をたびたび採用したことで、Web制作者はつねに複数のWebブラウザによる表示チェックを強いられていた。インターネット上で情報を発信するには、相当高いハードルがあったのだ。

この状況を変えたのが、ブログだ。HTMLやCSSなどの知識が原則不要で、テキストのみならず画像などのリッチコンテンツが投稿できる。さらに、いまでは当たり前となったパーマリンクを採用し、検索されやすい整然としたデータ構造を有することで、HTMLを直書きするよりもはるかに効率よく情報発信できるようになったのだ。

当時はブログをオンライン日記サービスとしてとらえる向きが多かったが、やがて個人だけでなく、メディアや企業もコーポレートサービスへの利用を考えはじめた。それまでのWebサイトは見た目の美しさやユニークさなどが優先されていたため、Flashなどの多用や画像化する必要がないテキスト部分までGIF画像にしたりと、更新性を重視しないつくりだった。そんななか、多くの企業人が更新しやすく最新情報も配信しやすいブログをみて触発されたのだ。それがいわゆるビジネスブログと呼ばれる考え方だし、ブログを簡易CMSとしてとらえるようになったということである。僕は当時日立製作所でBOXERというプロジェクトを指揮していたが、そのときおよそ日本初となるSix ApartのMovableTypeベースとなる本格的Webサイト(http://boxer.ne.jp/)をつくった。いまだにほぼ当時の形のままで残っているのが愉快でもある。余談だが、僕が2001〜2005年に日立製作所へ在籍していた期間中、ビジネスブログや企業向けRSSリーダーなどの普及に努めていたときのログ(http://boxer.ne.jp/information/publicized_list/)が残っており、感慨深い。

このように、まずは個人のための情報パブリッシングツールとして生まれたブログが、徐々に企業向けの簡易CMSとして進化していくなかで、MovableTypeよりもさらに簡単であるうえに、商用であっても無償で利用できるWordPressが台頭することで一気に企業ユースのポジションを獲得していく。いまでは大企業の多くがWordPressを常用しているし、ニュースメディアのほとんどがブログベースである。

(後編に続く)


MovableType

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[筆者プロフィール]
おがわ・ひろ●シリアルアントレプレナー。著書に『ビジネスブログブック』シリーズ(毎日コミュニケーションズ)、『Web2.0BOOK』(インプレス)、『仕事で使える!「Twitter」超入門』(青春出版社)、『ソーシャルメディアマーケティング』(ソフトバンククリエイティブ/共著)などがある。
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