醒めながら見る夢
監督 辻仁成
出演 堂珍嘉邦 高梨臨 石橋杏奈 村井良大 松岡充 高橋ひとみ ほか
5月17日(土) 新宿武蔵野館ほかにて全国順次ロードショー

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5月17日公開、辻仁成監督の「醒めながら見る夢」は、京都を舞台にした幻想的なラブストーリー。何かに囚われて先に進めない主人公・優児(堂珍嘉邦)がいて、彼を取り巻く人たちも各々何かに悩んでいる。古都・京都は、出口の光を探して彷徨い続ける人々にぴったりの迷宮だ。
朝ドラ「花子とアン」で花子のご学友・醍醐さんを演じている高梨臨が、幻想性の中心を担う役を演じているところも注目ポイント。
この作品の舞台版にも出演していた村井良大の演じる文哉は、感情が顔に出ない青年。陽菜(石橋杏奈)という女性に出会ったことで、感情が育っていく様を瑞々しく演じ、時間の止まったような場所に風穴を開ける。
インタビュー前編では、今回の役作りのことを中心に話を聞いた。偶然がもたらした名場面の話には興味津々!

───今年の頭に村井さんが出演した舞台「真田十勇士」、面白かったです。海野六郎役のイメージを「ロッテンマイヤーさん」と作家のマキノノゾミさんから言われてとまどわれたとか。
村井 「女性?」と思いながら(笑)。本番でかけていたメガネのアイデアは、現場でできたんですよ。堤幸彦監督に「メガネかけて」と言われたんです。真田十勇士の中にはメガネキャラがひとりもいなかったので、ひとりぐらいいても良いだろうということで。特に、海野はあまり戦わないので、そういう部分をわかりやすくしようと思ってメガネをかけました。途中で、急に堤さんが「分かりました! 海野はコナン君(名探偵コナン)です!」と言い出して、それから海野のイメージはコナン君になりました(笑)。
───「名探偵コナン」は日本テレビで放送されているアニメーションで、「真田十勇士」の主催は日本テレビだから、そのつながりですかね。
村井 そうなんですかね?(笑)「ハリーポッターかどちらか」って言われて、結局コナンになりました(笑)。
───村井さん、お忙しいですよね。「真田十勇士」が終わってすぐに「弱虫ペダル」の舞台もあって。「醒めながら見る夢」は去年(13年)の夏に撮られていたとうかがったんですが。ちょうど祇園祭(7月)の頃だったと。
村井 ちょうどそうですね。でも、僕が撮影していた時は終わった後だったかな? だから、僕は、祇園祭を見ていないんです。
───それは残念でしたね。あ、村井さんって東京の方で、京都の方ではないですよね?
村井 はい。東京出身です。
───映画で京都弁をしゃべっていましたよね。練習されていたのですか?
村井 いちおう京都弁で台詞をしゃべっているボイスサンプルをいただきまして、それで勉強しました。ただ、京都弁を指導してくれる方が女性の方だったので、「俺がこのトーン通りにやったらオカマになるな」と思って(笑)。それで、いかにナチュラルなトーンにするか、いろいろ試行錯誤しました。しかも、あまりしゃべらない役だったので、京都弁独特の感情の豊かさが出ないように、なるべくフラットにやろうと意識しました。
───村井さんが演じる文哉という人物は、最初、「感情がでない」みたいなことを陽菜に言われて、それが徐々に「感情を知っていく」という感じですか?
村井 そうですね、自分の中に心がある、ということを少しずつ分かっていくようになって。今まで生きていく上で、そんなに感情を出す必要がなかったから、無感情みたいになっていたんだと思います。過去に重い傷があって……それで人間不信まではいかないですけど、「そういう意味で、少し人と距離を保つようになってしまったんだ」と自分の中では思っていました。それが陽菜と会うことで、自分の中にある感情というものが少しずつ出てくるんです。でも、その感情をどう理解して良いかが分からないから、余計に混乱してしまう。だから、この映画は、文哉としては成長物語かなと思います。
───堂珍さん演じる主人公の時間が止まっている分、文哉の時間が動くのが救いのような気がしました。ネタバレになる部分ですが、文哉の感情がマックスになる部分が、いったいどうしてこんなことに? という感じですよね。
村井 辻さんの中では、映画では描かれていない文哉の裏話があるそうで、「文哉が主役の小説も書いている」と言っていたんですよ。そこには、謎の部分も書いてあるそうで、それを教えていただいて、僕の中では「なるほど。そういうサイドストーリーがちゃんとあるんだな」と納得した上で演じています。
───文哉が主役の小説もどこかで読めるのですか?
村井 小説版の「醒めながら見る夢」は、章ごとに語り部が変わる構成で、第2章は文哉目線の章になっているそうです。文哉が孤児だったという話も、辻さんから教えていただきました。それで、幼い頃に両親をなくして、他人に引き取られたことで、少しだけ人間不信みたいになってしまうのかなと思いました。孤児の気持ちって、やっぱり本当になった人しか分からないと思いますし。それをなるだけ、表現というか感じたいなと思いながらやりました。役作りで、なるだけ「ひとりでいる」ようにしていたんですね。現場でも、宿泊しているホテルとかでも、なるだけひとりでいて、何にもしてなかった。ずっと寝ていて、本当に寂しかったですよ(笑)。その甲斐あって、人が近づいて来ても目をそむけちゃう感じがすごく分かりました。「ひとりぼっちの感情」というのが少し芽生えて、勉強になったなと思いながら演じていました。
───そうだったんですか。せっかく京都ロケだったけれど、あまり楽しまずに。
村井 何にも楽しんでなかったです。行ったとしても近くのうどん屋さんぐらいでした。
───そうですか(笑)。京都はもともと好きだったり、よく行ったりしますか?
村井 あんまりないですね。昔、金閣寺にちょっと遊びに行ったぐらいです。
───修学旅行で?
村井 修学旅行とかで。それぐらいだったので、今は全然分からないですね。しかも今回のロケしたところも、京都の中心から離れた、本当に普通の住宅街で、京都らしい感じでもなかったんですよ。
───観光地っぽくはなかったですね。
村井 観光地っぽい場面もありますが、僕に限っては、本当に裏通りみたいなところばっかりでやっていました。
───その裏通りで、陽菜を追いかけて行くシーンがあるじゃないですか? あれ、けっこう良いなと思ったんですね。
村井 あれを良いなと思ったんですか?(笑)
───ストーカー的なところはちょっとやばいですけど、絵的に良いなって思ったんです(笑)。
村井 ああ、絵的にはきれいですよね(笑)。いやあ、あそこは怖いなあと(笑)。撮っている時は何となく淡々とやっていましたが、いざ見てみると「……怖えな」と。
───それも、文哉が、いろいろな感情がわかってなくて、夜の道で、黙って女性を追いかけていったら、やばいってことがわからないんですかね。
村井 そうですよね……いや、やばいってことは分かっているけれど、止められない、というのもあるんですよね。普通に声かけて話せば良いのに、それもできないっていう。いろんな選択肢は、心の中にあるけれど、それが外に出せない人間なんだと僕は思っていました。
───行動に出せないんですね。
村井 一歩先に行けないというイメージですかね。
───歩いている時に一瞬つまずく時があるじゃないですか。あれは演出ですか?
村井 いや、あれは偶然です。僕は陽菜のことばかり見ていたんですよ。ずーっと一点凝視で。で、意外と陽菜(石橋杏奈)は歩くのが速かったんですね。「速いなー」と思いながら追いかけていったら、本当に転びそうになっちゃって、「やばい」と思うと同時に、「あ、これは逆に良いかもな」とも思いながら(笑)。そしたら、監督がそこを切り取ってくれて。
───非常に良いフックになっていました。追っかけて行って「あ!」ってなっちゃう感じが。
村井 けつまずいちゃうところが、ある意味けなげというか。
───ああいう偶然こそが、お芝居していておもしろいと思います。
村井 あれがあることで、本当にストーカーしているわけではなくて、単純に気になってあとをつけているというのがすごく伝わりやすくなったと思いますね。
───ああ、確かに。夢中になっている感じがありますよね。
村井 ジブリとかで良くありますよね。
───ジブリ?
村井 ジブリのアニメって、よく、キャラがこけるじゃないですか。一生懸命でね。そんな感じかなと思いました。
───すごい。ジブリ的演出が取り入れられている作品(笑)。
村井 完全なる偶然ですけれど(笑)。
(木俣冬)
後編に続く

*正確には、辻仁成の「辻」のしんにょうの点(、)はひとつ