『ストレッチ』(アキリ/小学館・ビッグコミックススペシャル)
黒髪ショートの強気な慧子(微乳)とゆるふわロングの天然小悪魔・蘭(巨乳)のルームシェアストーリー。
慧子の昔のアダ名が「カミソリ慧子」だったのはここだけの話(でも男によって服装変わっちゃうかわいい女なんですよ)

写真拡大

「先輩はほとんど部活に顔を出さなかったし、二人で会話らしい会話をした回数なんて、両手で数えられる程度しかない。(…)大抵はとりとめのない、どうだっていいような内容だったんだろうと思う。ほとんど忘れちゃってるからね。」
そうそう、女子の会話ってそんな感じ。でも、それが楽しかったり、大切だったりするわけで。『ストレッチ』も、女子二人の会話が心地いいマンガだ。

高校で先輩後輩だった慧子と蘭。数年振りの再会をきっかけに、東京で働く慧子のマンションに医学生になった蘭がころがりこんできた。
おしゃべりしながら、酔っぱらいながら、二人は日々の疲れをストレッチでほぐしあう。

ストーリーの中に出てくるストレッチは、様々な専門書を参考に書かれていてかなり実践的。さらに医学生らしく蘭がストレッチの方法を補足する。
手を肩に当て、ひじを回しながら、
蘭「ひじで円を描くように交互に逆回転も」
慧子「……ちち」
背のびをしながら、
蘭「どうですかーー!?」
慧子「でけぇ〜〜」(胸をロックオン)
仰向けで片ひざを抱えながら、
蘭「大臀筋〜♪」
慧子「どこだよ」
蘭「ケツです」
時折胸やらお尻やらがズームされ、少々やらしいアングルになる(もっちりしてやわらかそう)。慧子がフロントヘッドロックからキャメルクラッチという合わせ技で蘭をお仕置きするのも、何か、えっろい。

ゆるゆるとした同居生活だが、暗黙のルールというのもある。それは、相手が帰ってきたら出迎えること。
慧子「ただ……いま。」
蘭「おか…どうしたんすか。」
慧子「今日ずっと…慣れない外回りで。あしが…」
蘭「あらあら。お靴脱がせてあげましょうね〜」
慧子「えっ いいよお、におうもん!!」
蘭「気にすることないです。がんばって働いた結果なんですから。」
慧子「蘭…」
蘭「うっ くっさ!!!」
じゃれあいもかわいい。

しかし、高校時代のようにふざけ合っていても、もう高校生じゃあない。
椅子が2脚あるダイニングセット、蘭がころがりこめるほど広い部屋、下腹部を抑えてうつむく慧子。元婚約者との間に何かあったことは間違いない。
それでも、「もうそんなに気にしてないから。」と慧子は笑うのだ。

そして、蘭もまた苦しみを抱えていることをにおわせる。
真っ暗闇の中、キャンドルを灯してのストレッチ。
蘭「ところで先輩、ゴールデンウィークって何か予定あるんですか?」
慧子「いやーーー 仕事だな…」
蘭「しょっぼいですねぇ!」
慧子「…どうしてそうむやみに挑発的なの?」
しばしの沈黙のあと、「帰るんだろ?」と切り出す慧子。
蘭「言ってましたっけ…?」
慧子「いや、聞いてないけど。そろそろ四十九日だなって」
鳴り響く緊急地震速報、電気のつかない部屋、テーブルの上に置かれた懐中電灯。彼女達の故郷からは海が見えた。

舞台はおそらく2011年。断片的・間接的にほのめかされるだけで、「あの日」のことは描かれない。それは「復興」や「再生」というストーリーを押し付けないという決意のよう。
同時に、知らないことが、渦中で苦しむ人を楽にすることもあると言っているようだ。だって心配されたら、平気な顔とか立ち直ったふりしなきゃいけないからね。

今日も慧子と蘭はストレッチをしながらばかばかしい会話をくりかえす。たとえ数年後、覚えていてもいなくても。

アキリ『ストレッチ』
やわスピで各話公開中
第1話はこちら。
(松澤夏織)