アメリカは自国でシェールガスを安価に採取できるようになったため、他国からの購入価格も大幅に下落。天然ガスは気体のため、量の単位は熱量だ。出典はBP統計から

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アメリカがついにシェールガスの対日輸出を解禁した(http://wpb.shueisha.co.jp/2013/05/30/19363/)。

現在、高額な天然ガスの輸入価格が日本の貿易赤字の原因となっており、もしシェールガスを安く輸入できるようになれば、エネルギーコストが下がり日本経済は大きな恩恵を受ける。

対日輸出が始まる2017年が待ち遠しい……と言いたいところだが、残念ながらそう単純な話ではないようだ。

経済産業省のキャリア官僚、T氏がエネルギー外交の複雑さを教えてくれた。

アメリカシェールガスの輸出を外交戦略上のカードとして使うつもりです。単純に資源を輸出して利益を上げようなんていう、中東諸国のような単純な考えではないということです。

アメリカシェールガス採取技術の開発に多額の投資をしてきました。そのかいあって、コストは実用化レベルに達してきた。しかし同時に、自国で産出できる強みを利用して他国からの在来型天然ガスの輸入価格を引き下げる交渉を行ない、見事に成功させた。輸入したほうが自国生産よりも安価な状態をつくり上げたのです。

現在、アメリカは100万BTU当たり約3ドルで天然ガスを輸入できている。従って、それ以上の価格で自国産のガスを他国に売り、投資額を回収すると同時に採取技術向上を図り、さらなる価格競争力のアップを狙っている。

アメリカが主な売り先として考えているのは韓国や台湾、そして日本です」

日本は今、100万BTU当たり約17ドルという異常ともいえる高価格で天然ガスを買わされている。

アメリカは自国産のガスを日本に高価格で売りたいに違いない。しかし、無理してまで売りたいというほどではない。

一方、原発を稼働できない状況の日本は、少しでも安価なエネルギーを買いたい。つまり、交渉は明らかに日本が不利です。アメリカはしたたかな国ですから、TPP交渉において、自分たちに有利な条件を日本がのめばシェールガスを輸出してもいいよと交渉するでしょう。

その条件を具体的にいうと、おそらく日本車に対してアメリカは関税をかけることができ、日本の医療や保険の市場を開放させることじゃないですかね。

日本はコメだけは守れるかもしれませんが、金額ベースで見ればとても不釣り合いな条件を要求され、残念ながら安倍首相はあっさりのんじゃうような気がします……」(経産官僚T氏)

日本が初参加となる7月のTPP交渉で、アメリカはどんな条件を出してくるのか。夢の新エネルギー・シェールガスの輸入は、大きな犠牲と引き換えになるかもしれない。

(取材・文/菅沼 慶 興山英雄)