『男の鳥肌名言集』米光一成編著/角川書店
気持ちを奮い立たせ、おのれの道を進むためのつかえる名言が128

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先日、「大人力養成講座」などで知られるライター・石原壮一郎さんの誕生パーティーに出向いた折、会場にいらっしゃったエキサイトレビューの顔役レビュアーでもあるゲームデザイナーの米光一成さんがすれ違いざま、僕の耳元にこう囁いた。

「……今度、名言集を出すんだよ」

ひっ、と息が漏れた。これはヤバいと直感した。僕はこれまで『名言力 人生を変えるためのすごい言葉』(ソフトバンク新書)と『平成の名言200 勇気がもらえるあの人の言葉』(宝島SUGOI文庫)という2冊の名言集を上梓している。テレビに出たり、新聞にコメントを出したりもした。いわば“名言のプロ”だ。しかし、米光さんのような鋭くて仕事の早い人が名言ライター界に参入してきたら、僕の仕事は激減してしまう……。

そんなわけで、米光さんの著書『男の鳥肌名言集』(角川書店)を震えながら手にとってみた。

本書は、「立ち上がるためにッ!」「迷ったっていいんだよね。」「自分軸をブレさせんなよッ!」「とにかくヤってやんよッ!」「仲間と熱く抱き合えればッ!」「本気の力を見せてやるよッ!」など全14パート、合計128の名言を収録している。

これらの章タイトルを見ればわかるように、この名言集はとにかく熱い。各パートの最後にはコラムが挟まれているが、これもまた熱い。畳みかけるような語尾を駆使して読者を煽りまくる。タイトルにもなっている「鳥肌」とは生理現象だ。一読して「うーん」と考え込むような言葉ではなく、もっとストレートに身体に響くような言葉、脳髄にカーンと杭を打ち込むような言葉が選ばれている。

くじけそうになったとき。もっとやらなきゃならないとき。仲間をひっぱっていくとき。力を合わせるとき。
ふしめふしめで、おまえ達を、勇気づけ、励まし、仲間になってくれる名言をごっそり集めた。

たとえば、こんな感じだ。

文句は言わせない。
「お前も、やれば?」ってね、
言ってやる。
 矢沢永吉

未来に前例などない。
迷ったら新しいほうを選ぼう!
 山本寛斎

極太ゴチックの威勢のいい文字でこんなこと言われたら、そりゃやる気になるよね。

名言の主は、相田みつを、斎藤一人、武者小路実篤、立川談志らのような名言集の定番の人選から、イチロー、伊坂幸太郎、高橋歩ら現代の名言メイカーたちまで多士済々。ジャーナリストの津田大介やタレントの春名風花らの言葉も採用しているので、正しく現代的な名言集のルックになっている。コミックから抜粋した名言も数多い。

矢沢永吉の言葉が大切なポイントで何度も登場するのが象徴的だが、本書にはいわゆる“ヤンキー成分”がかなり多く含まれている。哀川翔、長渕剛、尾崎豊らのほか、「天空落とし」で有名なラーメン職人・中村栄利や「鬼」という名前のラッパーが含まれているあたりもヤンキー成分強めである。

正直者はバカを見る
でもね
夢も見るんだよ。
 瓜田純士

ヤンキーたちが持つ(あるいはかつて持っていた)、理屈より行動を重んじる突破力、祭り好きの高揚感、大胆不敵さ、周囲を気にしない俺イズム、仲間を大切に思う気持ちなどを、名言という形のサプリメントに凝縮し、閉塞した状況を突破するための武器にしてしまおうというのが著者の魂胆なのかもしれない。赤と黒と銀の表紙も、文化系というよりはヤンキー成分強めのザックリ系デザインだ。

ヤンキー成分という表現がわかりにくいなら、“『ONE PIECE』感”と言ったほうが今の読者にはしっくりくるのかもしれない。『ONE PIECE』の言葉そのものは含まれていないけど、行間や先に挙げたパートタイトルなんかからも『ONE PIECE』感が溢れだしている。夢、仲間、行動、熱さ、冒険。

夢見ることができるなら、
どんなことでも実現できる。
 ウォルト・ディズニー

これなんて『ONE PIECE』のセリフっぽい。その一方で、従来の名言集にありがちな、いわゆる経営者らのビジネス系の名言はほとんど選ばれていない。そもそもお金にまつわる名言自体あまり入っていない。大切なのはお金じゃない。行動なんだ。ブレない軸なんだ。この名言集はそう高らかに謳っている。でも、ブレない軸って何だ? 最近は嘘つき政治家しか「ブレない」って言わない気がするぞ。

何がほしいんだ。
何が言いたいんだ。
それを、いつもはっきりさせたいんだ。
 矢沢永吉

ほしいものをはっきりさせたとき、それがその人の軸となる。そういえば『ONE PIECE』のルフィも、「海賊王に俺はなる!」というシンプルな宣言で冒険の旅に出かけていた。心と体が重くてなんだかしゃっきりしないとき、ダイレクトに効くような名言集だ。ちなみに僕の本とも共通する名言もいくつかあるので、興味ある人は探してみてください。
(大山くまお)