『球場ラヴァーズ〜私を野球につれてって〜』(石田敦子/少年画報社)
野球を「観客席」「ファン」の視点から描いた新しい「プロ野球漫画」。『球場ラヴァーズ〜私が野球に行く理由〜』に続いて新章開幕!

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《この真っ赤な応援は 21年むくわれていない 私と情けない同い年 広島東洋カープ》

球史に残る開幕スタートを見せた巨人に対して、いきなりつまずいた格好の広島カープ。開幕後8試合を終わってわずか2勝。今年もまたむくわれないのだろうか……。
冒頭の台詞は、プロ野球を「応援席」「ファン」の視点から描いた広島カープ応援漫画『球場ラヴァーズ』最新1巻の冒頭に登場する。
「21年」は去年のお話なので、2013年はもう「22年むくわれていない球団」、それが広島東洋カープだ。

さて、「最新1巻」と書いたけれど、『球場ラヴァーズ』は2010年から連載されている漫画。
主人の女子高生(その後女子大生)・松田実央が、広島カープを応援するキッカケでもあった「赤い帽子の人」を探す旅が終わり、物語に一区切りがついたのが『球場ラヴァーズ〜私が野球に行く理由〜』第6巻での出来事。
でも、ペナントレースも広島カープの戦いももちろん終わらない。
主人公を女子大生・太田日南子にスイッチし、『球場ラヴァーズ〜私を野球につれてって〜』として『ヤングキングアワーズ』誌上で2012年から新章開幕! 2013年のプロ野球開幕日にあわせ、第1巻が発売されたのだ。

新たな主人公・太田日南子は、カープが前回優勝した1991年生まれの21歳(連載開始時)。両親が離婚したのは巨人ファンの父と、ヤクルトファンの母との「野球愛のもつれ」だと思い込み、野球を毛嫌いしている女子大生。そんな彼女が人探しのために始めた東京ドームでの売り子バイトを通して、プロ野球と広島カープの切ない魅力に取り付かれていく過程が描かれていく。

この作品、カープ応援漫画ではあるものの、対象がカープなだけで、野球ファンであれば思わずグッとくるフレーズやシチュエーションが満載だ。
《球場は 何万人もの片思いを 受けとめてるもの》
《横浜と広島? いつも5位と6位だっけ? 何を?どう?応援してんの!?》
《野球はねぇ 毎年新しくはじめられるから いいんだよっ》 
野球でつながる親子、会社の先輩・後輩、学校の友だち……さまざまな縁がつながっていく。

作者の石田敦子は、やはりというか当然というか広島出身。小さな頃からカープファンとカープグッズに囲まれ、野球が日常にある中で育った人。狂おしいまでのカープ愛と野球への情熱が全話を通して描かれている。
制作にあたっては広島カープからの名称使用許可は受けているものの、肖像権の関係で選手の顔やプレー描写は描かれない。あるのは、グッズや広告に描かれた選手を見せたり、オーロラビジョンに映った選手を「背景」として描いたり、選手の背中を見せたりといったチラリズム。でも、それがまた味わいとなっている。

特に広島カープには背中で語る選手が多く、そして語るべき要素も多い。
・たる募金
・失った市民球場
・残されたV戦士:前田
・炎のストッパー:津田
・球団創設から初優勝まで26年
・イチロー1人の年俸がカープ全員より上
・毎年出ていくエース、4番。誰が言ったか、球界のビニールハウス、カープ牧場……それらを飲み込んで、踏み越えて、それでも尚カープを応援し続ける理由の先に、野球を観戦する楽しさ、日常からの開放感、球場でしかえられない爽快感が描かれていく。野球・カープに限らず、何かを応援したい人とに取って励みになる物語だ。

野球の見方がわからない、という人なら前作『球場ラヴァーズ〜私が野球に行く理由〜』から読み直してみるのもオススメ。
《私わかったんです。打順と背番号って一緒じゃないんですね》など、素人(野球ルーキー)ならではの「あるある」も随所に描かれ、読むことで野球観戦だけじゃなく、野球の基本も教えてくれる。

先日発売された『月刊ヤングキング』5月号では、新たなる物語『球場ラヴァーズ〜だって野球が好きじゃけん〜』もスタート。こちらの主人公は、ラヴァーズファンにはおなじみの勝子姐さん。
主人公を変え、同時並行で描かれていく3つの「カープの物語」。ペナントの行方と物語が連動しているので、リアルタイムで追いかけたほうがカープ同様間違いなく深くのめり込むことができるハズ。

そんな新たな主人公のひとり、勝子姐さんの言葉を借りて、いま最下位に沈むカープファンへのエールをおくりたいと思います。
《カープがプロ野球に在籍している限り優勝の可能性はゼロじゃないの 戦えば先はあるの 目をそらしていたら負けを観なくていいけど価値も見逃す。 観なきゃ 今を》

(オグマナオト)