どちらかというと木佐貫投手の潜在能力を買っている方なので純粋に戦力的な得失として論じたいのだが、同一リーグということや契約交渉合意後間髪容れずということを考えるとやはり、トレードというよりは、日本ハムが糸井選手を放出したと受け取るのが妥当である。
 ポスティングシステムを使ったメジャーリーグ挑戦に途を開いてはいるが、誰でもいつでもという訳ではありませんよ。周囲が納得し、何よりチームに貢献する成績を一定程度収めて初めて球団は検討するのですよ。行きたい気持ちはそれとして、希望すればゴネれば行けるという例は作りません―というスタンスをあらためて示したといえるのだろう。その姿勢は当然、遠からずメジャー挑戦が具体化するであろう大谷選手にも向けられることになる。

 糸井選手はいまやリーグを代表する外野手である。均整のとれた大型選手で身体能力が高い。4年連続3割を打ち、レーザービームは言われるほど凄いとは思わないが強肩でゴールデングラブ賞4回。俊足で盗塁数も稼げ、4割に近い出塁率を誇る。言動・キャラもプロらしい。但し、入団8年、打者転向してから6年、実働4年半。
 入団した年から戦力となり、2年目から6年間毎年25試合・200イニング近くを投げて二ケタ勝利を続け、7年通算で93勝・勝率7割1分、防御率1.99をマークしたダルビッシュは、入団4年目で2億、6年目3億3千万、7年目で5億という年俸が示す高い評価を受け、これ以上の高額年俸はきついという球団の事情はあったにせよ、気持ちよくポスティングシステムで送り出された。
 球団としては、ダルビッシュほどの実績と貢献とはいかなくとも、それに遠からぬところにポスティング希望を取り上げるかどうかの基準を置いているのではないか。糸井選手はそこに達していないという判断だったが故の放出劇だったのではないか。

 加えて糸井選手の場合、2012シーズンは打率・本塁打数・打点・出塁率・盗塁数とも、ハイレベルでの僅かな数字だが前年度の成績を下回った。契約更改での球団側の1千万円の微増(2億円)提示はここを踏まえてのものだろう。連続で3割打てばその都度年俸が上がるという考え方も、3割打った実績をベースに払っているから成績の上積みがなければ年俸は増えないという考え方も、私はどちらもアリだと思うが、途中から交渉に代理人を入れてそのあたりの認識に齟齬をきたしたのか?そこに1年後の大リーグ挑戦という希望が絡んでこじれ、ゴネているという心証が増幅されたのか?

 いずれにせよ、日本ハム球団は糸井選手のポスティングシステム利用を認めることなく、自由契約とすることもなく、その判断をオリックスに委ねた。冷厳にして厳格かつ明確なフロント流儀というしかない。
 かつて、同様にポスティングを訴えてジャイアンツから放出された入来祐作投手を、日本ハムは確か2年後にメジャー挑戦を認めるという条件付きで受け入れ、その通り計らった。立場を逆にしてこれと同じ話がオリックスとの間でついているかどうかは分からないが、糸井選手にとって状況は厳しいだろう。
 彼にしてみれば「年齢的にもいま行かないと」という気持ちだろう。それは理解できるが、あたらミスターファイターズに手の届く地位を棒に振る結果になったのは、ファン或いは本人も残念なことだろう。単にコミュニケーションの綾だったのか、それとも選手契約のあり方をあらためて考える契機とすべきなのか、答えを出すのは容易ではない。