僕も含めたメディアは、どんな試合でも課題を探す。ただ、第三者的完成度の高いチームでも、課題は抱えているものだ。
「いつの時代も、どんなチームでも、課題はあると思う」と話すのは、なでしこジャパンのキャプテン宮間である。オーストラリアを3対0で退けた7月11日の試合後も、彼女たちは課題を口にした。

 ニュージーランドと引き分けたU−23日本代表の戦いぶりは、どうだっただろう。土壇場で引き分けに持ち込まれたのは、ロンドン五輪への課題として受け止めていいものか。

 失点直後に権田が浮かべた表情に、僕は2月のシリア戦を想起した。1対1のまま相手を突き放すことができず、後半終了間際のロングシュートで勝利を逃してしまう──今回は引き分けだったが、試合展開はシリア戦をなぞるようなものだった。

 シリア戦はドライブのかかったロングシュートにゴールを割られ、ニュージーランド戦は自分たちのミスが悲劇の引き金となった。ゴールへの過程は異なるもの、ゲームの最終盤の重要性は経験済みである。もっと言えば、Jリーグでもしばしば起こりうるものだ。

 ニュージーランド戦の失点をロンドン五輪への課題としたら、過去の教訓が生かされていないことになる。それが僕には不満だし、残念でならない。

 試合中にも教訓は得ている。前半開始早々に山口の横パスをカットされ、38分には鈴木が致命傷になりかねないパスミスを冒した。69分にも村松のパスを相手に奪われ、大津が警告覚悟で流れを断ち切った。

 U−23に先立って勝利を飾ったなでしこジャパンも、前半に同じようなミスを冒している。自陣でのパスミスから決定機を与えたが、過ちを繰り返すことはなかった。ゲームのなかでミスを修正していく意識が希薄だと言われても、U−23の選手たちは言い返せないだろう。

 戦略的な部分で気になったのは、右サイドバック酒井の生かし方である。1トップの大津と2列目の東、清武、永井の4人は、序盤からスピーディでスムーズに連動した。たとえば2人なら、少なくとも「1+1」のクオリティを弾き出した。「2」以上の拡がりを見せることもあった。前半のスタンドにしばしば駆け抜けた歓声は、彼らのコンビネーションがそれだけ意外性に満ちていたからだ。
 
 酒井の絡んだ連携は、状況が少しばかり違った。ボールを失わない意味では「1+1」や「1+1+1」の連携が結ばれていたが、人数=数字以上の拡がりはなかった。

 前半から積極的に飛び出しているし、得意のタイミングでボールを受けることもあったのが、この日は切り返したり持ち直したりが多かった。クロスの出し手となる彼と、受け手であるFWや2列目との呼吸が、いまひとつ合致しなかったからだ。

 52分の場面が分かりやすい。
 山口から敵陣中央付近で酒井がパスを受けた瞬間、ゴール前には永井と大津がいた。わずかに下がった位置には清武がいた。

 ここで、清武と永井は酒井へ寄っていく。大津はふたりのセンターバックに挟まれたままただった。酒井は清武とのワンツーを選択し、右サイド深くからのクロスがゴールラインを割ってしまう。

 柏レイソルから日本代表へ、さらにはハノーバー移籍を促したアーリークロスは、試合を通じてほぼ封印されてしまった。北嶋秀朗のようにニアサイドへ飛び込む選手が、ニュージーランド戦の日本には見当たらなかったのだ。

 試合後の記者会見で、関塚隆監督は「両サイドからのクロスに対して、ファーストのセンターバックに跳ね返されることが非常に多かった」と話している。これについては、64分の場面が示唆に富む。

 左サイドから永井が突破をはかり、ニアサイドへライナー性のクロスを入れる。だが、杉本も大津もゴール前中央で待ち構えており、クロスはセンターバックにクリアされてしまった。

 日本代表の岡田武史前監督は、アジア予選突破後に「ニアゾーン」の活用へ乗り出した。「高さ強さを持った相手だと、単純なクロスでは跳ね返されてしまう」からだった。

 U−23日本代表も、ニアゾーンをもっと意識するべきだ。ニアゾーンへのピンポイントクロスからゴールを狙うだけでなく、ここでボールを受ければ日本人のアジリティが存分に引き出される。PKを与えるのは避けたいから、守備側もうかつには飛び込めない。

 ニュージーランド戦のハーフタイムに、関塚監督は「(クロスに対する)中への入り方を、もう少し工夫しろ」と指示したという。試合後には「それは課題。これから詰めていきたい」と話した。

 選手には、ゲーム中の修正能力を。関塚監督には、課題と言える戦略的部分の上積みを。スペイン戦まで残り2週間を切ったが、まだ時間はある。