ここまで共に好調で3位と5位という上位での対決になったJ1注目の試合は、川崎が攻守ともに広島を全く寄せ付けない完勝に終わった。

川崎は4-4-2のゾーンディフェンスを引いており、それを自陣の中程にかっちりと固め、広島にサイドを攻められてもいいから中は絶対にフリーな選手を作らないという意識が徹底されていた。そして、誰かが広島のボールホルダーにアタックすると、その選手がいた位置を埋めるように他の選手が15パズルのようにどんどんとスライドし、遠い反対サイド以外は常に選手を等間隔の位置に保って、広島のパスワークを完璧に封じて前半は何と広島をシュート0本に押さえ込んだ。

そして攻撃では、強いフィジカルでアンカー的な働きをする稲本と、攻撃に幅広く絡む柴崎のコンビが絶妙で、しかも両選手共にパスを出せるという、他のチームからすると羨ましいであろう能力を持っており、特に柴崎はわずかなパスコースでも早い判断でクサビを入れる事で、攻撃のスピードアップに大きく貢献していた。

もう一つ特筆すべきは矢島の好調ぶりで、先制点の場面は、稲本から柴崎、小宮山と流れるようにパスが回り、最後は矢島がDFのマークを外してニアで合わせたもので、2点目は左サイドをドリブルで突破すると、何でそこにいるの?と皆が驚くCB菊池にドンピシャのクロスと、まるで好調時のファンペルシのような働きだった。

■ 第17節

J1の第17節。1勝4敗5分けで勝ち点「8」。16位と降格圏内の浦和レッズがホームで清水エスパルスと対戦。清水は3勝3敗4分けで勝ち点「13」。10位につけている。浦和は、再開初戦となった第7節に名古屋グランパスに3対0で勝利したが、その後は7試合勝利なしと苦しい状況にある。

ホームの浦和は「4-2-3-1」。GK加藤。DF高橋峻、坪井、永田、平川。MF山田暢、鈴木啓、マルシオ・リシャルデス、柏木、田中達。FWエジミウソン。GK加藤は3試合連続スタメン。MF原口はU-22日本代表のため欠場。DF坪井が初スタメン。

対する清水は「4-2-3-1」。GK碓井。DF辻尾、岩下、ボスナー、太田。MF平岡、小野、アレックス。FW大前、高原、高木俊。MF小野、FW高原は古巣との対戦となった。DF村松はU-22日本代表のため欠場。前節はMFアレックスがロスタイムにPKを決めて勝利を奪った。

■ エスパルスが快勝

立ち上がりから清水ペースで試合は進んでいくと、前半24分に先制ゴールが生まれる。ゴールやや右寄りで30メートル強の位置でフリーキックを獲得。DFボスナーが得意の左足で直接狙うと、雨でスリッピーなピッチコンディションも手伝って、鮮やかにネットに突き刺さる。DFボスナーは今シーズン初ゴール。

ビハインドの浦和は、前半34分にDF坪井に代えてMF原を投入。MF山田暢を最終ラインに下げる攻撃的な布陣に変更。久々の勝利を目指して、先手を打ってくるが、効果は発揮せず。前半は1対0の清水リードで折り返す。

後半開始から清水は、ミスが目立ったMF小野に代えてMF枝村を投入。的確に修正を行ってくると、後半19分にカウンターからFW大前が右サイドを突破してクロス。これをファーサイドのFW高原がダイビングヘッドで決めて、追加点を挙げる。FW高原は、今シーズン5ゴール目となった。

2点差を付けられた浦和は、後半24分にMF梅崎を投入。すると、後半35分に相手のコーナーキックからMFマルシオ・リシャルデスを経由してMF梅崎が決定機を迎える。最初のプレーでは相手にブロックされるが、MF原のシュートのこぼれ球をMF梅崎が押し込んで1点差に迫る。MF梅崎はリーグ戦では2008年以来のゴールとなった。

これで、スタジアムのムードが大きく変わって、押せ押せになった浦和だったが、後半41分に、またもやDFボスナーに直接フリーキックを豪快に決められて3点目を奪われる。DFボスナーはフリーキックで2ゴールを挙げる活躍。結局、3対1で清水が勝利して4勝目。一方の浦和は、5試合連続でドローのあと、ホームで黒星を喫した。

■ DFボスナー 2発

第16節のモンテディオ山形戦は、ホームで2対1と勝利したものの、山形に押し込まれるシーンも多く、思うようなサッカーができなかった清水だったが、中2日で迎えたアウェーの浦和戦は快勝した。前半から、終始、清水ペースで進んで、1点差に追い上げられたときは、少し慌てる展開になったが、苦しい時間帯に、効果的なDFボスナーのダメ押しゴールが飛び出して3対1。見事に勝ち点「3」を獲得した。

ヒーローになったのは、DFボスナー。守備のときも、FWエジミウソンをほぼ完璧に封じるなど、ゴール前の高さも光ったが、何といってもフリーキック2発で勝利に大貢献。ともに、左足の豪快なシュートでDFボスナーらしいゴールとなった。

DFボスナーは192?と高さがあるが、ヘディングでのゴールは少なく、セットプレーで受け手となるときは、あまり脅威になっていないが、直接フリーキックの精度もまずまず高いので、相手にとっては怖いキッカーである。浦和のゴールを守っていたGK加藤にとっては、ほぼノーチャンスで、どうしようもなかった。

■ FW高原が古巣相手にゴール

清水では、FW高原もゴールをマークした。彼らしいダイビングヘッドでのゴールだったが、古巣相手ということで、気合も入っていて、この日もいいプレーを見せた。前半途中で、浦和がDF坪井をベンチに下げて、MF山田暢をセンターバックで起用したこともFW高原には好都合となり、MF山田暢とのマッチアップでは、常に優勢だった。

これでFW高原は5ゴール目。2008年が6ゴール、2009年が4ゴール、2010年が途中まででノーゴール。浦和では3年間でわずかに10ゴールしかなかったことを考えると、いいペースでゴールを積み上げている。シーズン序盤こそ、FW伊藤翔とポジションを争っていたが、すっかり、センターフォワードのポジションを確保している。清水は、開幕前から、センターフォワード不足が懸念されていたが、FW高原が復活したことで、この問題も解消された。

FW高原は、2008年以来、日本代表から遠ざかっているが、これだけゴールを重ねていると、代表復帰というのもあり得ない話ではなくなる。年齢的な問題もあるが、フォワードというポジションは「ゴール」という結果が最優先されるポジションで、日本代表は、依然としてセンターフォワードの駒が不足している。可能性はゼロではない。

■ 11試合で1勝のみ

一方の浦和は、これで1勝5敗5分け。ナビスコカップの山形戦で勝利しているが、リーグ戦は2ヶ月近く勝利が無く、降格圏内に沈んだままである。攻撃の核になったMF原口の不在は大きく、決定機もなかなか作れずに終わった。ビハインドになるたびに、守備的な選手を外して「攻撃的な選手」を投入したが、場当たり的な対応であることは否めず、追いつくことはできなかった。

再開初戦で王者の名古屋グランパスに3対0で勝利したときは、このまま乗っていけるかと思われたが、それ以後、勝利なし。若手を積極的に使っているわけでもなく、試合ごとに内容がよくなっているわけでもなく、ペトロヴィッチ監督のクビは、いつ飛んでも不思議ではないほどに追い込まれている。

Jリーグの中では、選手層が厚いチームなので、ペトロヴィッチ監督もいろいろと試していて、FW高崎を先発で起用したり、ボランチを変えてみたりと、試行錯誤を繰り返しているが、アンタッチャブルな存在になっているMFマルシオ・リシャルデス、FWエジミウソン、MF柏木の3人の調子が上がってこないと、どうしようもない。

■ MF梅崎司が久々のゴール

唯一の明るい話題と言えるのがMF梅崎が途中出場して、久々にゴールを決めたことである。ここ数年、怪我で苦しんでいたが、2008年以来というゴールを決めた。20分強のプレー時間だったので、どのくらいまで回復しているのでかは、はっきりは分からないが、とにかく結果が出たことは大きい。

ポジションを争うライバルは、MFマルシオ・リシャルデス、MF柏木、MF田中達、FWマゾーラ、FW原、MF山田直と多いので、大変であるが、十分な結果を残している選手はおらず、チャンスはある。特に、この試合では、トップ下に入ったMF柏木がブレーキになっていた。付け入る隙はあるだろう。


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