【心地いいバウンダリー】人間関係がラクになる「語らない」コミュニケーション術
バウンダリー(境界線)を引くことは、冷淡になることではありません。むしろお互いを尊重し、豊かな関係を築くための「愛の技術」です。ソーシャルワーカーとして、境界線を引き続けてきた長谷川俊雄先生が、仕事でのプロフェッショナルな一線から、夫婦が対等でいられる家庭内のユニークな役割分担ルールまでを語ります。
――プロフェッショナルとしての「仕事現場でのバウンダリー」や、先生ご自身の家庭内での境界線について詳しくお聞きしたいと思います。長谷川先生はソーシャルワーカーとして46年間、多くの相談者の方々と向き合ってこられましたが、仕事における「プロとしての境界線」とは、具体的にどのようなものなのでしょうか?
長谷川先生:これは、人と対面するあらゆる仕事において極めて重要なテーマです。
例えば、非常に困難な生活環境の中で、女手一つで懸命に踏ん張って子育てをされている母子世帯のお母さんに出会ったとします。同じ生身の人間ですから、心にぐっと揺さぶられますし、「お母さん、本当にすごいですね! よく頑張っていらっしゃいますね」と個人的な感情から称賛を贈りたくなりますよね。しかし私は、あえてそういう同情や労いの言葉を口にしないよう、厳しく自分を律してきました。
――頑張っているお母さんを労い、励ますことはとてもよいことのように思えますが、なぜあえて言葉にしないのでしょうか?
長谷川先生:一見すると優しいリップサービスに思えるかもしれません。しかし、安易に「すごいね」と相手を評価することは、じつは「あなたのことを見守り、応援している僕自身の感情を満たし、わかってほしい」「私の気持ちを受け取ってほしい」という、自分の感情を相手に押し付けるメッセージになりかねません。つまり、相手の境界線を踏み越えた支配的なメッセージになりかねないからです。
だからこそ、相手を一人の自律した存在として尊重するからこそ、感情と意思の境界線を守り、プライベートな好意や評価を安易に言語化しない。これが、プロのソーシャルワーカーとしての他者尊重と対等性を保つバウンダリーです。
リップサービスで相手の主体性を奪わないことが、相手が自分の力で考え、感じ、選択できる余白を守ること。その姿勢こそが、相手の主体性を育み、本当の信頼関係やパートナーシップにつながっていくのです。
――優しい言葉が、じつは相手の境界線を侵害している可能性があるのですね。自分の感情を満たすためではなく、相手の尊厳を守るための境界線。では、ご家庭内でのパートナーシップにおけるバウンダリーはいかがですか?
長谷川先生:家庭でも、夫婦間で「お互いに背負いすぎない」ための具体的な境界線を引いています。我が家では、家事や育児の分担ルールをリビングのホワイトボードで可視化し、役割を「半分ずつ」共有するようにしています。例えば、急な仕事の残業などで夕方のお迎えに行けなくなって、交代をパートナーにお願いしなければならなくなったときは、お願いした側が「罰金を払う」というユニークなルールを設けているんですよ(笑)。
――お迎えに行けないと罰金ですか!?(笑)
長谷川先生:そうです(笑)。でも、これは夫婦間で責任の境界線をクリアにし、負担を誰か一人に偏らせないための仕組みなんです。
ルールを明確にしておくことで、お互いに「なんで私ばかりが……」という不満やイライラを溜め込まず、心にゆとりを持って接することができます。お互いに背負いすぎず、感情の余裕を持つための「安全な仕組み」を作る。これこそが、質の高い夫婦のパートナーシップを長く続ける秘訣だと思います。
バウンダリーを引くということは、相手を冷たく突き放すことではなく、お互いの心の平和を守りながら、より深い愛情と信頼を育み、健やかな関係を築いていくための大切な技術なのです。この機会に、あなた自身のバウンダリーを見つめ直してみませんか。

