〈栃木強盗殺人〉竹前容疑者夫妻は死刑にならない? 専門家は「今の刑法だと現場にいないボスの罪が軽い」
【前後編の後編/前編からの続き】
16歳の少年4人が実行犯として逮捕され、世間を震撼(しんかん)させた栃木の強盗殺人事件から3週間がたつ。5月22日には警察庁がトクリュウ事件と判断し全容解明に向けて本格的な捜査が始まった。警察はいかにして凶悪な犯罪集団と対峙するのか……。
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【写真】旧ジャニーズタレントのようなイケメン。少年AがSNSに投稿していた「自撮り映像」
昨年10月、警視庁は「匿名・流動型犯罪グループ対策本部」を発足、専従捜査班「T3(Tokuryu-target Torishimari Team)」を立ち上げた。前編では、T3の捜査方法や、匿名・流動型犯罪グループ、通称「トクリュウ」の実行犯を勧誘する手法の変化などについて報じた。

従来の匿名型の犯罪手法が困難になりつつある一方、口車に乗る少年が後を絶たないのも現実である。
さる捜査幹部に聞くと、
「楽に稼げる普通のバイトだと勧誘して、免許証や学生証など個人情報を提示させる。その後に強盗だとバラして“実行しないと家族を殺す”などと脅すケースが一般的です」
かような手法が知れ渡り警戒されることがあるため、“実弾”を投入するケースもあるそうだ。
「SNSのインスタ映えに憧れる少年が多いので、勧誘する側は自分のSNSの投稿を見せて“自分はこんなに良い暮らしができている”などと自慢して、高級焼肉店などでごちそうする。そこでは初めから強盗をやると正直に話して、大金が入ると誘い、10万円くらいの報酬を前金で渡すこともある。いい思いを実際にさせることで、この仕事は本当に儲かると信じ込ませてしまうのです」(同)
悪い奴らの「常套句」
勧誘する悪い奴らが最も好む常套句があるという。

「誘い文句で“絶対に捕まらない”と言うのが定番です。相手が未成年なら、“捕まっても少年法があるから名前は出ないし、刑も軽い”と安心させます」(前出の捜査幹部)
今回の栃木の事件なら、逮捕された少年4人の容疑は「強盗殺人」。成人で起訴されると「死刑」か「無期拘禁」は免れない。
「少年たちは実行犯として人を殺害して強盗するという凄惨な事件を起こしているため、通常の裁判員裁判にかけられることになろうかと思います」
とは、元東京地検特捜部副部長で弁護士の若狭勝氏。
「強盗殺人という容疑は、刑事責任において非常に重い犯罪行為に該当します。しかし、少年法の規定に基づき、成人の場合なら死刑を言い渡すのが相当の事案であっても、16〜17歳以下の少年の場合は、殺すつもりで自ら進んで犯行に及んでも無期拘禁刑に減刑されます。また今後の捜査で犯行に加担したプロセスが明らかになるかと思いますが、指示役とされる夫妻から脅されていたなどの認定がなされると、無期拘禁刑は言い渡されないでしょう。重くても10年以上20年以下の有期拘禁刑になると想定されます。また殺意の認定がなされず『強盗致死』ならば、もう少し刑期の短い有期拘禁刑になると考えられます」(同)
「少年の死刑があり得る、という規定はあっていい」
22年に改正少年法が施行されて、18〜19歳を「特定少年」として、原則、成人と同じように処罰することになった。
「少年法の改正議論では、16〜17歳について成人と同様に扱い厳罰化を求める意見と、少年法の趣旨に沿って更生の余地を考える必要があるという意見に分かれました。そのような二つの考えが合わさって、18歳未満の少年は成人に対する刑罰よりも減刑する、という折衷案的な形に落ち着いたのです」(若狭氏)
栃木の事件で捕まった少年たちは強盗殺人の罪を犯しているので、「死刑」にしないと被害者やその家族の無念が晴れない、少年犯罪の抑止力にならないとの声がちまたにはあるが、若狭氏はこんな意見だ。
「すでに改正時に相当議論されて現行の少年法に落ち着いたので、16〜17歳の少年に厳罰を下せるよう、さらに少年法を改正するハードルは高いと思います。ただ、本当にとんでもない凄惨な犯罪を起こしたら、死刑もあり得るという規定はあってもいいと個人的には思います。法律上で死刑は禁止されているとなれば、それを利用して犯罪行為をさせる大人が出る恐れがあるのではないでしょうか」
「言い訳が通用しないようにした方がよい」
片や今回の事件で“指示役”とされる竹前海斗容疑者(28)・美結容疑者(25)夫妻を死刑判決にするにも高い壁があるという。
「実行犯として手を下していなくても、少年らに指示をして犯行を自分たちの思い通りにやらせたとなれば、共謀共同正犯になる。その際、夫妻の量刑は少年たちに殺害を指示したのか否かで変わってきます」(若狭氏)
夫妻が少年たちに殺害までは命じていないと主張すれば、「強盗致死」となり無期拘禁刑となってしまうという。
『闇バイトの歴史 「名前のない犯罪」の系譜』の著者で、トクリュウ型の犯罪に詳しいライターの藤原良氏に聞くと、
「暴力団対策法には、組長に対する『使用者責任』があります。組員が犯罪行為をすれば組長が監督責任を問われて処罰される。この図式をトクリュウにも当てはめれば、指示役はもとより黒幕のボスなどにも厳罰を求めることができます。今の刑法だと実行犯が最も罪が重い。指示役、その上にいるボスは現場にいないし、お金も盗っていないため罪が軽い。逮捕されても“僕は現場にいませんでした”“指示しただけです”などの言い訳が、通用しないようにした方がよいのではないでしょうか」
「早い段階で肝を冷やさせる」
刑法が専門の東京都立大学教授・星周一郎氏は、
「今回の栃木のような、凄惨な結果を招く強盗殺人をさせないための刑法が重要だと考えています。現行法では、準備段階で予備罪での検挙ができるのは、強盗のほかは、殺人などごく一部に限られています。例えば怪しい人物が強盗の下準備でウロウロしていても、“犯罪の準備ではない”などと言い逃れされてしまえば、取り締まりが難しい場合があります。詐欺や窃盗も含めてトクリュウ型の犯罪を想定した予備処罰規定を整備して、より早い段階で未然に抑え込むことが重要だと考えています」
予備罪の適用は、トクリュウ型犯罪の実行犯になるような少年たちにも“抑止力”を発揮するという。
「例えば強盗現場に足を運べば、自分に殺意はなくても、もし共犯者が被害者を殺してしまえば、その共犯となります。ならば準備段階で検挙して、“お前は危うく一生を棒に振るところだったぞ”と諭すべき。予備罪であれば最長でも2年の拘禁刑です。早い段階で肝を冷やさせることで、被害を生まないだけではなく、加害者になりそうな少年たちの更生や社会復帰の道を絶たずに済みます」(同)
「SNSのキラキラした世界にハマるためのカネが欲しい」
また、こうも指摘する。
「闇バイトに応募して犯罪に手を染める若者の多くは、体の調子が悪くて働けないとか、ヤングケアラーのような人たちではありません。SNSのキラキラした世界にハマるためのカネが欲しいといった価値判断で動いている。成功しているインフルエンサーの苦労や炎上リスクといった裏側の現実を顧みず、成功した一面しか見ていません。刑罰を重くするのみならず、大人たちがSNSはファンタジーでフェイクの世界であるということを、しっかり教えないといけないと思います」
栃木の事件で逮捕された少年の中には、取り調べで後悔の念を口にする者もいるという。
彼らを使い捨てにした黒幕を、警察は追いつめることができるのか。
前編では、トクリュウの実行犯を勧誘する手法の変化などについて報じている。
「週刊新潮」2026年6月4日号 掲載
