軍事誌「ソ連海軍」大特集が”異例の大ヒット”、その「ヤバすぎるソ連空母論文」の中身を見よ…!

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旧日本軍の戦闘機・艦艇などに強みを持つ老舗軍事雑誌『丸』が11月号で130ページ以上にわたって"異例"ともいえる「ソ連海軍」を大特集したところ、アマゾンで一時品切れになり、大手書店でも品薄状態となるなどまさかの大反響を巻き起こしている。

そんな大ヒット中の『丸』から、9月27日記事ではウクライナ戦争の解説で超人気の小泉悠・東大先端科学技術研究センター准教授によるソ連海軍の歴史を俯瞰する論文を紹介したが、同号では半世紀以上前の海上自衛隊幹部たちが手掛けたソ連海軍分析に関する発掘手記も大きな目玉になっている。

1962年に当時海幕総務課長・一等海佐(のち海将)筑土龍男氏が寄稿した「なぜソ連はまともな空母を持たないのか」という論考は、「地理」と「歴史」の視点から秘密のベールに覆われたソ連海軍の本質を鋭く分析していて、その“珠玉の中身"が話題だ。今でも学ぶべき内容がある名論文を、一部抜粋・再考してお届けする。

空母に向かない「地理的制約」

ソ連は大陸国と言われ、一般には海洋国と思われていない。大陸国、海洋国の定義は何であるかは別の問題として、要するにソ連は、ユーラシア大陸の中心部を占め、大陸の大部分を支配しているが、海洋については、世界一長い海岸線を持ちながら十分に利用できる海に恵まれていない。

一年中の大部分が雪と氷に閉ざされた北氷洋の他に、ソ連が望んでいる海といえば、バルチック海、黒海、日本海、オホーツク海で、その殆どが内海であり、無理に空母を使わなくても、陸上基地の航空機で十分に事が足りる。

日本海沿岸の基地は、日本列島の間を通らなければ外海に出られないという点で、これまた空母の基地としては、適当でない。要するに、地理的に言ってソ連は空母を持つ条件にめぐまれていない。

見過ごせないイタリアとドイツの影響

ソ連では、伝統的に陸主海従の気風が強く、更に赤衛軍の発生過程は、これに拍車を加えた。

赤衛軍全体が列国の共産政府取りつぶしの圧力に対抗して、これを防御する使命を持っていたので、海軍の任務も沿岸防御、陸軍の側面援護及び上陸支援などであり、しかもそれが地理的条件の下で局地的な内海海域が主戦場であったため、発展の方向は、駆逐艦や潜水艦、哨戒艇といった小艦艇に集中し、空母の方には容易に向かなかったのである。

第二次大戦が終わってからは、千島、樺太を手に入れたので、オホーツク海及び太平洋の沿岸が利用できるようになり、海軍も戦後の復興期をむかえて、内海防御の海軍から外洋攻勢の海軍へと転身。しかし、それでもソ連は遂に空母着手に至らなかった。

技術的な理由として、ソ連海軍は、航空機を取り入れるのが遅かった。取り入れても、陸上基地航空として、常に大陸軍の添えものであった。機種もその殆どが、陸軍機の転用であり、海軍航空隊の将校の階級呼称も服装も、全て陸軍式であった。積極的に艦上に多数を搭載して使おうとする要求もなく、従ってそのような技術も発達しなかったようだ。

その理由の一つは、ソ連の造艦技術が、帝政時代の末期から第二次大戦まではイタリアの影響が強く、その結果は、戦艦、大巡、駆逐艦などに明らかに現われている。

イタリアは、ドゥーエ将軍の影響を受けて空軍万能の色が強く、海軍航空がひどく圧迫されていて、戦艦、巡洋艦にもほんの添えものとして搭載されていたにすぎない。空母にいたっては、その構想が全然なく、僅かに参戦後になって、商船改造の「アクイラ」級2隻に着手したが、これも未完成に終わった程である。

第二次大戦後、ソ連は、造艦技術をドイツに学んだが、ドイツ海軍航空が、ベルサイユ条約の影響もあって、ひどく立ち遅れており、イタリアと同じく空母の着想が遅く、開戦直前に、初めて建造に着手された「グラーフ・ツェッペリン」号も、技術上の問題が多く、未完成のままで終戦となった。

「自信のない空母」より「潜水艦で勝負」

第二次大戦の前までは、ソ連海軍に与えられていた防御的な任務と役割の関係で、空母は存在しえなかったといえる。が、第二次大戦後、航空機、特に爆撃機の威力が大いに認められ、その開発が急がれた。が、ここでもソ連は、空母の力を必要としない、大型爆撃機の思想を採用して、米陸軍機B-29の影響を受けた大型機Tu-4を完成させ、更に、これでもまだアメリカ本土を攻撃するためには力が足りなかったので、更に、大型のジェット爆撃機を開発させる方向をとった。アメリカのように機動性をもつ空母機によって、これを補おうとする方法はとらなかったのである。

ソ連は、アメリカ空母の脅威に対しては、自信のない空母で、対抗しようとせず、この使命を潜水艦に委ねたのである。こうして、やがて重爆バイソンが完成して、アメリカ本土爆撃が可能になり、更に大陸間弾道弾の開発に対して異常な努力を注ぎ、それらの成功に伴って、ますます空母建造の意欲を失っていったようだ。

さらに連載記事『軍事誌が“130ページの異例大特集”で話題、欧米を震撼させた「ソ連海軍」の“ヤバすぎる正体”…!』では、知られざるソ連海軍の正体についてレポートしよう。

軍事誌が“130ページの異例大特集”で話題、欧米を震撼させた「ソ連海軍」の“ヤバすぎる正体”…!