[食の履歴書]小松みゆきさん(俳優) 世界の料理食べ歩き 際立つだしのうま味

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 私は小さい頃、食べることが嫌いだったんです、今でも親に言われます。「4、5歳の頃、お茶わんのご飯とおみそ汁、副菜を食べるのに、2時間もかかった」と。共働きだった母が忙しいなか、2時間もつき合ってくれたんだと、感謝しています。

 後になって分かったんですが、私はしょうゆとみそが好きではなかったんですね。私が生まれ育ったのは、福島県いわき市。しょうゆもみそもたくさん使い、ややしょっぱい味付けです。それが合わなかったんじゃないでしょうか。

 いわきは港町で、大量に取れた魚をトラックに積んで出荷するんですけど、雑に積むのでトラックの荷台から魚が道に落ちてしまうんですね。落ちた魚は拾って家に持ち帰っていい。そういう暗黙の了解があったようなので、どこの家でも魚料理をたくさん食べていたと思います。

 私も焼き魚が好きでした。しょうゆをかけずに食べていました。親からは食べ物を粗末にしてはいけないときつく言われていましたから、頭と中央の骨だけ残して、きれいに身を食べました。魚の食べ方については、自信があるんですよ。

 大学に入るので上京し、食について多くのことを知りました。時代は1980年代後半です。バブル期で、東京には海外の料理を出すお店がどんどん開店していました。そういうお店で食べて、海外の味付けの豊富さに驚きました。イタリア料理で、野菜をオリーブオイルと塩で食べることに衝撃を受けました。それまで油といえば、炒めるために使うとしか思っていませんでしたから。インド料理でのさまざまな香辛料、タイ料理のナンプラーやパクチー……。楽しくて、行ったことのないお店に行くように心がけました。

 友達の家に行った時のことです。エスニック料理を作って出してもらったんです。家庭でもこのような料理を作れるんだ! 目からうろこが落ちました。そこから、しょうゆやみそを使わない料理の探検が始まり、家の料理の種類が豊富になりました。ところが後に、日本食の良さを再認識することが起きたんです。


 仕事の関係で、海外にあちこち行かせていただくようになりました。東南アジア、ハワイなどの南国、米国、欧州……。各国の料理はおいしいんですけど、でも、「なんて、おいしいの」と、後味がふくよかに膨らむような感動がないんですね。どうしてだろう? そう疑問に感じていたところ、教えていただきました。海外の料理にはうま味がないからだ、と。

 それでだしなどうま味についていろいろ調べ、すっかり日本食に回帰しました。料理をする時は、しょうゆ少なめ、だし多めにしています。たとえば卵焼き。福島では砂糖たっぷりの卵を焼いて、しょうゆをかけて食べます。でも西日本のだし巻きを知ってから、私の作る卵焼きはいつもだし巻きです。みそ汁も、福島ではみそそのものが濃く、だしよりもみその味が強いんですが、私はだしの味が際立つ薄めのみそ汁を作るようにしています。

 私も娘ができ、幼稚園に通っています。私の今の任務は、いかに子どもに必要量の食事を食べさせるか。バランスよく食べさせることが大事ですし、いろんな味覚を覚えてほしいと思っています。

 うちでは、野菜の消費量がすごく多いですね。料理で使い切れなかった野菜は、どんどんピクルスにしてしまいます。おかずは肉と魚を交互に出すようにしています。小さい子は魚嫌いが多いと聞きますが、娘は私の子ども時代と同じで魚が大好き。納豆、おみそ汁、魚の3点セットをリクエストしてきます。それと、あごだしで作っただし巻き卵。子どもの希望に応えるために作る料理は、楽しいですね。

(聞き手・菊地武顕)

 こまつ・みゆき 1971年、福島県生まれ。小松美幸名でグラビアアイドルとして雑誌、写真集で人気を博す。92年、俳優に転身し「福本耕平かく走りき」のヒロイン役で映画デビュー。94年に「みゆき」に改名。主な出演作に映画「ガメラ2」「DEATH NOTE」「連結部分は電車が揺れる 妻の顔にもどれない」、ドラマ「大奥」など。出演映画「ル・ジャルダンへようこそ」が10月11日公開。