親を施設に入居させることに『罪悪感』を覚える必要なし! 円満な介護生活のコツは「サービスの使い分け」と「介護施設への理解」にある

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2015年に厚生労働省が出した統計によれば、日本人が亡くなった場所は病院、自宅の次に、「介護施設」が多くなっている。治療に特化した病院でもなく、住み慣れた自宅でもない「介護施設」で亡くなるとはどういうことなのか。

介護アドバイザーとして活躍し、介護施設で看・介護部長も務める筆者が、終末期の入居者や家族の実例を交えながら介護施設の舞台裏を語る『生活支援の場のターミナルケア 介護施設で死ぬということ』(郄口光子著)より、介護施設の実態に迫っていこう。

『生活支援の場のターミナルケア 介護施設で死ぬということ』連載第7回

『「こんな人、私の親じゃない!」…実は『退院直後』が一番危険!? 子どもが親を介護施設に入れたくなる瞬間とは』より続く

介護施設で提供される3つの介護サービス

介護施設で提供される介護サービスの代表的なものに、日帰りでお年寄りを預かる「デイサービス」、数日から数週間程度預かる「ショートステイサービス」、そして生活の場を自宅から施設に移す「入居」という形のサービスがあります。

デイサービスやショートステイサービスは、上手に利用すれば家族の介護負担を精神的にも肉体的にも軽くすることができます。

デイサービスの場合は生活サイクルを週単位で考えます。たとえば週に1日か2日ほど親をデイサービスに預けて日中に自由になる時間をつくれば、溜まった家事をしたりリフレッシュするために外出することができます。

ショートステイサービスの場合は生活サイクルを1ヵ月単位で考えます。たとえば「月末は決算で仕事が忙しいから1週間だけ預けよう」といった利用のしかたが可能です。また、「親戚の結婚式に泊まりがけで出席しなければならない」といったイレギュラーな事態にも対応できます。

上手に利用するコツは、介護者である家族がストレスを溜め込んで疲れ果てたり病気になったりすることを防ぐために、早い時期からこうしたサービスを介護に取り入れることです。逆に、介護者がギリギリまで頑張って、疲れ果てたり病気になったりした後に利用するのは上手なやり方ではありません。

さてこのように、親に一時的に家庭以外の場所で過ごしてもらうデイサービスやショートステイサービスは比較的抵抗なく利用できても、入居という形で自分たちの生活から親を切り離してしまうことに対しては、すんなり決断できない人も少なくありません。「自分の親を、お金を払ってまで他人に預けるなんてことをしてもいいのだろうか……」と、多くの人が悩みます。中には親を施設に預けることに罪悪感を抱く人もいます。

重視するのは食事、排泄、入浴

一方、私たち介護サービスを提供する側の役目は、入居したお年寄りが安心して過ごせる生活の場をつくっていくことです。

「歩けなくたって、手足が自由に動かなくたって、次々にいろんなことを忘れたって大丈夫。あなたはあなただから。あなたが生きているということがいちばんすごいことなんですよ」ということを、生活を通して伝えていくことが仕事です。

そのために一般的な介護施設では、次の3点を介護の現場の基本方針としています。

入居者を寝たきりにしない・させないこと

入居者が培ってきたこれまでの生活習慣を大切にすること

その人の持てる力を活かしていくこと

その方針に立った上で特に重視しているのが食事、排泄、入浴の3点です。できるだけその人の個別の状態に合わせた食事、排泄、入浴を行うことを大切にしています。

それは「寝たまま食べない」「寝たまま排泄しない」「寝たまま入浴しない」ということです。

そのためには、たとえば、足が地面について腹圧が十分にかかるように前屈みの姿勢をつくるために、どんな物が必要なのかを考えて物的環境を整えます。具体的には、背中が曲がっている、膝が伸びきって固まっているといった状態の人たちが、それぞれの状態に応じて前屈みで座る姿勢がとれるように、たとえば椅子の座面の高さを変えたり、座布団やクッションを準備したりします。

そしてその人がどんな動作ができるかできないかをしっかり見ます。私たちは、まずできないことを介助することから、お年寄りに直接関わっていきます。

『「できない」と「しない」は違う…介護施設の入居者を『ひとりの人間』として扱うために必要な『見極め』の力』へ続く

「できない」と「しない」は違う…介護施設の入居者を『ひとりの人間』として扱うために必要な『見極め』の力