徳光氏が語る

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 新NISAが活況を呈し、さらに株高が続いていることで改めて「投資」が注目を浴びている。金、外貨、投資信託、個別株、不動産……、どの分野に余剰資金を投入するかで悩む人も多いだろう。実は一般にはあまり知られていない投資先として「アート」が注目されつつある。「アート投資」とは何か、プロに訊いた。(山内宏泰/ライター)【前後編の前編】

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【写真】いまもっとも注目のアーティストとは!

アートには資産的価値もある

 国立新美術館「ルーヴル美術館展 愛を描く」が45万人強、東京都美術館「マティス展」は45万人弱。2023年の美術展観客動員数の1、2位である。

 現代アートを扱う金沢21世紀美術館や、古建築を活かした京都市京セラ美術館、黒塗りの威容を誇る大阪中之島美術館は、各地域の人気観光スポットになっていたりもする。

徳光氏が語る

 アートを観て楽しむ、すなわち文化的価値を享受することは、趣味の王道としてすっかり定着している。

 次なる段階はアートの資産的価値にも着眼していくことだろう。

「そう、これからは“投資としてのアート”に、もっと目を向けてしかるべきです」

 と語るのは、現代アートのオンライン販売を行う株式会社タグボート代表取締役で『教養としてのアート 投資としてのアート』(発行:クロスメディア・パブリッシング、発売:インプレス)、『知識ゼロからはじめる 現代アート投資の教科書』(イースト・プレス)の著書でもある徳光健治氏。

 実はいま、日本で「投資としてのアート」という分野が耳目を集めつつある。海外では盛んにおこなわれており、

「世界の富裕層は、資産を株式や不動産などに分散投資するわけですが、そうした富裕層は全体の資産のうち2〜3%程度をアート投資に回しているとのデータもあります。日本でもアート投資をメニューに加えていくのは好手です」(徳光氏、以下同)

 なるほどたしかに、気に入ったアートを購入して楽しみながら、同時にそれが値上がりも期待できる資産となるのなら、趣味と実益を兼ねられそうだ。

コロナ禍に日本のアートマーケットは伸長

 ここでいう「アート投資」の対象は、主に現代アート作品である。

 歴史を経てきた古い絵画や彫刻などは、価値が確定しているものが多く、値動きが少ない。そもそも名品はそうたやすく売買の場に出回らないし、一般人には手の届かない、とんでもない高額だったりする。

 数万円や数十万円から売買できて、資産価値の上昇が大きく見込めるのは、現代アート作品ということになるのだ。

 では、日本の現代アートの市場はどれほどの規模で、盛り上がりを見せているのかどうか。実態を徳光氏に聞こう。

「メディアやネット等で“日本のアート市場は約3000億円”などと言われ、さまざまな数字が飛び交っていますが、実際には1000億円に届かない、800億円から900億円程度というのが、現在の日本のアート市場規模となります。これは世界全体のアートマーケットの1%に満たない可能性もあります」

 日本のGDPは現在、世界全体の約4%と目される。すると、日本のアートマーケットは、国の経済力のわりにかなり小さいことがわかる。前向きに捉えるなら、今後まだまだ伸びる余地があるとも言えるだろう。

「確かにコロナ禍の時期を通して、日本のアートマーケットは膨らみました。コロナ禍前に比べると、30%近い成長率があったと考えられます。当時は世の中全体が停滞し、ゴルフにも行けない、飲み会にも行けないという状況が続き、外出を伴うエンターテインメントなどにはお金が回らなくなりました。行き場をなくした資金が、インドアで楽しめるアートに流入しました。そのため、それまで700億円くらいだった日本のマーケットが1000億円くらいにまで伸びたと考えています」

注目されたアーティストは

 きっかけはどうあれ、アートを購入してみようとの気運が広がったのは確かだ。

 コロナ禍に人気を集めたアートには、ひとつの傾向があったという。コンセプチュアルなアートではなく、明快な絵柄で、漫画やイラストとの近しさを感じさせる「わかりやすい」絵画作品だ。

 具体的なアーティスト名を挙げれば、福岡を拠点に女性を描いた作品で知られる「KYNE」や同じく女性を描き、予備校・河合塾の広告ビジュアルも担当した「Backside works.」らが大いに注目を浴びることとなった。見ればたしかに、わかりやすくて洒落た雰囲気の作風である。壁に掛けて部屋を彩りたくなる気持ちも理解できる。

「『KYNE』や『Backside works.』の購買層もそうですが、コロナ禍には、作品購入者の年齢 が若年層に広がりました。20〜30代がアートを買うようになったのは、アートマーケットの先行きにプラスの効果をもたらしています」

 人は年齢とともに考えや嗜好がどうしても保守的になりがちだ。高齢化社会に突入し人口ボリュームの大きい高齢者を狙うのもいいが、新しい発想が尊ばれる時に「わかりにくい」とも言われる現代アートのほうへ、すべての高齢者を振り向かせるのは至難の業。投資という意味では若年層が参入してきた方が、現代アートマーケットとの相性がいいのである。

 コロナ禍に巻き起こった「プチ現代アートバブル」は、社会が平常化していくとともに収まっていった。とはいえコロナ禍前に比べればマーケットは広がり、若年層を中心に、新たな購買層を得たのは大きな収穫となった。また、昨今の円安で割安な日本の作品を買い求める海外コレクターが増えることで、日本のアートマーケットが伸びる可能性もあると徳光氏は指摘する。

“投資としてのアート”へ

 さらに日本のアートマーケットを拡大させていくには、

「“インテリアとしてのアート”から“投資としてのアート”へ、という考えを日本の方に広めていくことが重要でしょう。やはりインテリアとしてアートを買う場合にかけるお金は2〜3万円ほどなんですよね。部屋をお洒落に飾るだけならそれだけで満足できるかもしれません」

 確かに考えてみれば、自宅の壁ひとつを彩るアート作品のために、数十万円を出すのはやはり躊躇するところである。だが、その作品に資産価値があればどうか。

「たとえば20万円で買った絵画を、いざとなれば同額で売りに出せる、時が経てば25万円ほどに価値が上がる見込みありというなら、ぐっと買い求めやすくなるのではないでしょうか」

 あとは資産価値を有するアートを選べばいいということになるのだが、実際はその見極めが難しい。どんな作品をどのような方法で買えばよいのか。

後編「株高の陰で盛り上がる意外な投資先…資産価値の高い『アート』を手に入れるための知られざる3つのポイント」ではアート作品を購入する際の重要なポイントについて、徳光氏が解説する。

山内宏泰/ライター
1972年、愛知県生まれ。美術、写真、教育などを中心に各誌、ネット媒体に執筆。著書に『写真を読む夜』、『大人の教養としてのアート入門』など。

デイリー新潮編集部