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通勤・通学途中の電車内で迷惑な行為をする乗客に腹が立った経験は誰もがあるだろう。しかし、都内の一般企業に勤める東也さん(仮名・40歳)は、トラブルが起きた際に「見て見ぬふりの乗客と駅員に腹が立った」と語る。
彼が電車で直面した女子高生をめぐる事件とは?

◆白目をむいて泡を吹く女子高生

東也さんは取引先から職場に戻るために、地下鉄に乗っていたという。

「あれは平日の夕方で、1人の女子高生が乗ってきたんです。彼女は乗って来た時から足元がふらついていて、大丈夫かな? と心配になりました」

あいにく、どの席も埋まっていたという。彼女は優先席の前で、肩で息をしながら、つり革にすがるように両手で捕まっていたとのこと。

「車内の誰もがスマホを見ていたり、目を閉じていたりして、彼女のことは誰も気づいていないようでした。もし僕が座っていたら席を譲ってあげたかったんですが、あいにく僕も立っていたんです」

数分後、恐れていたことが起きたそうだ。

「彼女が膝から崩れ落ちたんです。白目をむいて、だらりと開いた口からは、泡というか涎のようなものが出ていました。でも、もっと驚いたのは、周りの乗客の対応でした」

◆我関せずのカップル、嫌そうな中年男性

「車内にいた全員が見て見ぬふりをしていました。誰も彼女に声をかけないんです。そのままスマホを見続けたり、寝たふりをしている人ばかりでした」

東也さんは居ても立っても居られず、彼女に近付いて行ったらしい。「大丈夫ですか?」と声をかけるも返事はない。誰か席を譲ってくれる人を探そうと辺りを見渡すと、優先席に座っていた、若い男女のカップルが目に入ったという。

「カップルは日本人の女性と、欧米系の男性でした。女性が男性にお菓子を食べさせて、そのままキスをしていました。二人だけの世界で、他の人間は眼中にないんでしょうね」

カップルの横に座る中年男性は、不思議そうに東也さんのことを見つめていたそうだ。

「その男性に『席、譲ってくれませんか?』と尋ねると、嫌そうではありましたが、立ち上がってくれました。ひとまず彼女を座らせて、次の駅で降ろすことにしました」

東也さんは駅に到着すると、女子高生をかかえて下車。

「駅のホームに駅員がいたので、ひとまず胸をなでおろしました。でも、その駅員には、もっと驚かされることになったんです」

◆「持ち場を離れるわけには、いきませんので」

駅員に「車内に具合が悪そうな女性がいました」と話しかけると「改札階に医務室があるので、そちらへ行って下さい」と言われたという。

「会議の時間が迫っていたため、そろそろ職場に戻りたかったんです。だから『連れて行ってくれますか?』と頼みました」

すると「持ち場を離れるわけには、いきませんので!」と一蹴されたという。エレベーターの場所を尋ねるも、その駅には階段しかなかったのだとか。

「派遣スタッフのママさんが『ベビーカーを運ぶのを駅員が手伝ってくれない』と愚痴っているのを聞いたことがあります。その時は聞き流していましたが、確かにこれは困るな、と痛感しました」

結局、東也さんが彼女をおぶって、汗だくになりながら医務室まで運んだそうだ。

「会議にはもちろん遅刻しましたよ。命に代わるものはないと思ったので……でも悲しいことに、誰もがそう考えているわけではないんですね。あの時の無関心を思い出すと、今でもぞっとします」

◆個人の幸せが重要視される都会だが……

東也さんには、他にも「人気アイドルのコンサートで、酸欠で歩けなくなって廊下にうずくまっていたが、スタッフ含め誰も助けてくれなかった」という経験もある。

当たり前だが、人間はひとりでは生きていけない。個人の幸せが重要視されがちな都会だが、個も大切にしつつ、周りに気を配れる余裕も、少しは残しておきたいものである。

<文/綾部まと>

―[乗り物で腹が立った話]―

【綾部まと】
ライター、作家。主に金融や恋愛について執筆。メガバンク法人営業・経済メディアで働いた経験から、金融女子の観点で記事を寄稿。趣味はサウナ。X(旧Twitter):@yel_ranunculus、note:@happymother