東洋一の遊園地と言われた花月園遊園地跡地に横浜市鶴見区では約40年ぶりとなる広大な防災公園が誕生。今後、周辺には複数の集合住宅が作られ、新しい街となっていく予定です。横浜中心部を見下ろす高台の魅力を見てきました。

鶴見花月園公園。中央に大きな円形の原っぱがあり、子どもも大人も走り回っていました。遠くにみなとみらい、横浜ベイブリッジなども見えます(筆者撮影)

花月総持寺駅近くの高台に新たな公園が誕生

花月総持寺駅。元々は花月園前駅となっていました。新たに駅名に付け加わった総持寺はお隣の京急鶴見駅近くにある古刹・總持寺のことです(筆者撮影)

JR京浜東北線、鶴見線の鶴見駅の程近くにある、京浜急行本線の京急鶴見駅の隣に、花月総持寺駅があります。

もともとは1914(大正3)年に花月園前駅として開業した駅で、2020(令和2)年になって花月総持寺駅に変わり、副駅名として旧駅名である花月園前が追加されています。

大正期に作られ、一世を風靡した公園「花月園遊園地」

かつての駅名、花月園とは1914(大正3)年に作られた遊園地のことです。新橋の料亭の主人夫婦がヨーロッパ旅行中に見た、子ども本位に作られたパリ郊外の遊園地をモデルとして作った日本で最初の児童遊園地です。

跨線橋の先に見える緑の高台に鶴見花月園公園があり、これから開発される予定の場所です。跨線橋からは通過する電車が眺められるため、休日には子ども達の姿が多く見られます(筆者撮影)

立地するのは京急線の東側の高台。京急線花月総持寺駅を出るとJR各線線路を跨ぐ長い跨線橋があります。その先には見上げるほどの高台があるのですが、その上にあったのが鶴見花月園でした。

公園の入口に掲げられた土地の歴史。この土地にこれだけの規模の施設があり、子ども達の憧れの地だったとは驚きです(筆者撮影)

ブランコやシーソー、花壇などといった子ども向けの遊具から始まり、大山すべり(大型の滑り台)、大つり橋、豆汽車、観覧車など最新式の珍しい遊具や、さらには野外劇場、ダンスホールなど大人の鑑賞に堪える文化施設も作られて大にぎわい。ピーク時には7万坪余(約23万平方メートル)の敷地を誇るほどになっており、東洋一の大遊園地と称されていたそうです。

戦後も一時再開されたものの、その後は長らく花月園競輪場として使われていました。その記憶がある方も少なくないかもしれません。

防災公園街区として公園+住宅が整備される計画

今後、予定されている開発の完成予想図。右側の緑部分が公園で、そこと左手の花月総持寺駅の間に住宅が建設されます(出典:鶴見一丁目地区(UR都市機構))

競輪場の役目を終えた2010(平成22)年から神奈川県、横浜市などが中心になって跡地の開発が検討され、同年12月には防災公園街区として整備されるという方針が決まりました。それによると、全体の敷地のうちの半分ほどが防災公園とされており、残りの花月総持寺駅近いエリアには住宅が建設される予定になっています。

公園はすでにオープン、憩いの場に

中央に大きな原っぱ、周辺には多目的広場、ゾウさん広場やお花見広場などがあります(筆者撮影)

そのうち、防災公園、鶴見花月園公園は2021年11月に鶴見区では約40年ぶりにできる公園として完成。すでに地元の人達の憩いの場になっています。

中央の少し高くなった遊具のあるエリアがゾウさん広場。かつてここにあった動物園をしのばせるネーミングです(筆者撮影)

広さは約4.7ヘクタールあり、中央には円形の芝生の原っぱ。その奥の一段高くなったところには複合遊具があるゾウさん広場があり、ところどころにはパーゴラやベンチなども。

パーゴラの下のベンチにはテントシートが収納されており、災害時には屋根から覆うことができるようになっています。周辺には戸建て、マンションなどが多く、ある日、近所にこんな公園ができるのはラッキーなことだろうと思いました(筆者撮影)

防災公園ですから、いざという時にかまどとして使えるようになっているかまどベンチもあり、トイレとして使えるマンホールトイレも設置されています。もともとのこのあたりは高低差のある土地で災害時に避難できる場所が少ない点が課題でした。鶴見花月園公園はその課題をクリアしただけでなく、この地域に住む魅力を付加してくれたというわけです。

天気次第ですが、横浜市中心部が見えます。違う場所からは横浜ベイブリッジや富士山も(筆者撮影)

高台にあるため、空が広く、はるかみなとみらいの横浜ランドマークタワー、横浜ベイブリッジなども見え、実に爽快。天気が良い日には富士山も見えるそうです。また、健康器具もあるので、散歩、ジョギングに加えてちょっとしたエクササイズも楽しめます。

3区画が住宅用地、詳細はこれから

敷地入口周辺の掲示。棟数も多く、かなりの数の住宅が供給される予定のようです(筆者撮影)

今後は公園と駅との間に住宅が建設される予定ですが、現時点では「今後、横浜市、UR都市機構及び大和ハウス工業株式会社ほか民間事業者が連携して、自然環境や景観などに配慮した快適な居住環境を持つまちづくりを行っていきます」とUR都市機構のホームページに書かれているだけで詳細はほとんど分かりません。

道路を挟んで花月総持寺駅と向かい合うエリア。ここにも住宅が建設される予定のようです(筆者撮影)

横浜市環境創造局、都市整備局、UR都市機構東日本都市再生本部が出しているまちづくりニュース(花月園競輪場跡地)28号によると、2024年度から集合住宅建設が始まるという予定になっています。現状、2024年5月時点では整地作業程度は行われているようですが、それほど工事が進行しているようではありません。

全体の配置計画。1~4まで宅地となっており、紫色の点線が新たな道(出典:鶴見一丁目地区(UR都市機構))

ただ、大きく3つの区画とコンパクトな1区画が宅地となっており、公園から宅地を抜けて駅に向かう道が作られることだけは予定されています。新しくそれなりの規模のある街が作られることだけは確かです。

坂の上の安全な住宅地、ただし高低あり

第一京浜沿いの標高表示。もともとは海に近い土地だったため、標高はあまり高くありません(筆者撮影)

住宅を考える際に挙げておきたいのは防災公園に隣接することに加え、高台にあることです。京急線は多くの地域でかつては海沿いだった比較的標高の低いところを走っており、花月総持寺駅周辺の標高は国土地理院地図で見ると2.6~3メートルほど。

周囲から見てもあきらかな高台となっており、これほど開放的な公園もなかなかないのではないでしょうか(筆者撮影)

ところが、鶴見花月園公園の標高は30メートル以上。鶴見にある古刹、總持寺と同じくらいの高さにあり、眺望が良いのも当然。災害時に逃げ込む場所としてふさわしい高台にあるというわけです。

公園に向かう道。まだ、全体が完成していないので通れないところもあります。それほど急ではありませんが、坂道が続きます(筆者撮影)

その分、駅からは坂を上ることになり、小さな子どもや高齢者のいる家族などにはややハードルがあります。荷物を持っての坂道の上り下りは大変かもしれません。そのあたりをどう考えるかで、この場所の評価は変わりそうです。

知っていると意外に便利な花月総持寺

さて、花月総持寺駅は京急線の中でもあまり知られていない駅だと思われます。以下、このエリアがどのような場所かを簡単にご紹介していきましょう。

耐震補強と駅舎リニューアルが行われている花月総持寺駅。既存のトイレはかなりコンパクトでしたが、整備されて使いやすくなりそうです(筆者撮影)

まずは足回り。最寄り駅は京急線の花月総持寺駅で、2024年5月現在、駅では耐震補強及び駅舎のリニューアル工事が行われています。完了予定は2026年3月末とのこと。トイレなども新しくなるそうで、使いやすくなることでしょう。

都心、横浜、羽田、成田に行きやすい立地

都心に向かうのであれば、京急鶴見駅で京急本線急行、京急川崎駅で京急本線特急に乗り換れば品川までは20分ほど。京急線は都営浅草線と相互乗入していますから、新橋、日本橋など都心の主要駅へもそのままダイレクトにアクセスできます。

都営浅草線は東京メトロ銀座線と並走、主要オフィス街を通る利便性の割には混雑度が低い沿線です。無駄な体力を使わず、賢い通勤をしたい人にはお勧めのお得感があります。京急線は羽田空港に、都営浅草線が乗り入れている京成線は成田空港につながっていますから日本はおろか、世界へもアクセスしやすい立地ともいえます。

都心だけでなく、横浜駅へも京急本線利用で神奈川新町駅で特急に乗り換えれば10分ほど。仕事だけでなく、遊びにも楽しい横浜、みなとみらいが日常の生活圏内にあるのです。

休日の遊び、ドライブにも行きやすい

京急線が三浦半島につながっている点も、ファミリーには楽しいポイントでしょう。海水浴、ダイビングなどといった海辺の遊びのほか、温泉に桜、バーベキュー、ハイキングなどと楽しみ方は多彩です。まぐろを始めとした美味も揃い、最近、三崎では新店舗も増えて盛り上がっていると聞きました。伊豆、湘南エリアよりも人が少なく、気軽に行けるのも子ども連れにはうれしいところです。

駅周辺から第一京浜沿いにかけてはいくつか住宅の建設工事が行われていました(筆者撮影)

車利用では京急線と並行するように第一京浜が走っており、お隣駅生麦近くには首都高速の生麦ジャンクションがあります。鶴見花月園公園の西側には第二京浜もあり、幹線道路にはアクセスしやすい立地です。

徒歩圏に複合商業施設も

続いて買い物事情ですが、駅から鶴見花月園公園側は跨線橋を渡ると住宅地。公園周辺にはほとんど店などはありませんが、東側の岸谷公園近くに小さなスーパーがあり、その先の第二京浜沿いには2023年12月にオープンした家具、インテリアやドラッグストア、自転車などほとんどの品に食品も揃う複合商業施設があります。

駅から海側にはスーパーや薬局などがあり、日用品が揃います。ただ、駅周辺は道が細く、車では利用しにくいのでその点は注意が必要です。

江戸時代からの歴史ある生麦魚河岸通り

生麦魚河岸通りは日曜日が休みの店が多く、まったく写真が撮れなかったので地元での青空市の告知をご紹介します(筆者撮影)

少し歩きますが、さらに海側には旧東海道があり、そのうちの一部エリアは生麦魚河岸通りと呼ばれる魚屋が並ぶ通りになっています。ここは江戸時代の漁師町の伝統を引き継ぐ場所で、プロも買いに来るのだとか。海辺で青空市が開かれることもあり、観光気分で買いに出かけるのも楽しいのではないでしょうか。

この店以外にも旧東海道沿いには歴史のありそうな神社なども点在していました(筆者撮影)

ちなみに東京でもかつて江戸前の魚の獲れた品川周辺にはそれを揚げて出す天婦羅の老舗がありますが、魚河岸通りにも歴史を感じさせる天婦羅店があり、わざわざ遠くから来ている人も少なくないようです。

隣駅、鶴見も徒歩圏、なんでもそろう

鶴見駅前。左側に京急線の、右側にJRの駅があり、川崎や蒲田のように駅間の距離はそれほど離れていません(筆者撮影)

花月総持寺駅からは線路沿いの平坦な道を20分弱歩くことになりますが、鶴見駅周辺まで出れば買い物も外食も選択肢は豊富です。

京急鶴見駅。高架下にはスーパーや飲食店が入っており、駅の裏手には商店街が広がります(筆者撮影)

鶴見駅前では2010年度に鶴見駅東口地区第一種市街地再開発事業が完了、2015年度に鶴見駅東口駅前広場再整備工事が完了しており、安全で利用しやすくなっています。横浜市鶴見公会堂や区民文化センターなども集まっており、買い物がてら出かけてみても良いでしょう。

公園の近くでは建設中のマンションもありました。子どものいる家族からするとうれしい環境といえそうです(筆者撮影)

一般的にはあまり認知度の高いエリアではないかもしれませんが、安全で開放的な公園が中心になっている点はなにより魅力。天気の良い日に遊びがてら出かけて住環境をチェックしてみてはどうでしょう。