アジルバ、オルメテック、アムロジンにフルイトラン…高血圧のクスリ「患者が知らない、命にかかわる副作用」完全リスト

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降圧剤に潜む「重大リスク」

日本では年間に、およそ11兆円分もの膨大なクスリが処方されている。そのうち1兆円に迫る市場規模を誇り、大きな割合を占めるのが高血圧のクスリ、降圧剤だ。

高血圧の受療者、つまりクスリを飲むなどして治療を受けている人の数は3000万人近いといわれる。降圧剤にも無数ともいえる種類があるが、じつはそれぞれに「重大な副作用」のリスクがあることを、あまり意識せずに飲んでいる人が大半である。

降圧剤は、主に以下の6つのカテゴリーに分けることができる。

(1)ARB

(2)​ACE阻害薬

(3)Ca拮抗薬

(4)β遮断薬・α遮断薬

(5)利尿薬

(6)配合剤

中でも近年、「使いやすい」として広く普及し、よく処方されるクスリが(1)ARBだ。'98年に初めて発売され、'00年代からポピュラーになった。降圧剤の中では新しいジャンルで、アジルバ(一般名アジルサルタン、以下丸カッコ内は一般名)やオルメテック(オルメサルタンメドキソミル)、ミカルディス(テルミサルタン)など、これまで7種が承認されている。

肝臓と腎臓に「大きな負担」

ARBを略さずに言うと「アンジオテンシン2受容体拮抗薬」。体内で作られる、血圧を上げる作用をもつ物質「アンジオテンシン2」の働きをブロックすることで、血圧を下げるクスリだ。

一般に、降圧剤の中でもARBは副作用が少ないとされる。ところが厚生労働省が随時発表している「医薬品・医療機器等安全性情報」を見ると、そのARBにも「新しく見つかった副作用」が次々と報告されている。

特に、7種のARBすべてに共通している副作用が、腎臓と肝臓に障害を起こすおそれだ。

〈腎機能障害,高カリウム血症及び低血圧を起こすおそれがある〉

〈AST、ALT、γ-GTPの上昇等を伴う肝機能障害があらわれることがある〉(前述資料より)

医師のあいだでは、ARBは他の降圧剤よりも、血圧を下げるうえで重要な腎臓への負担が小さいとされている。ところが高齢者だと、そうならない場合がある。愛知医科大学特任教授の宮田靖志氏が指摘する。

「高齢になると腎臓の働きが弱くなる患者さんが多いので、ARBを処方する医師が多いのですが、血圧が下がりすぎることによって腎臓の血流が減ってしまうことがあります。そのため腎臓がいわば貧血になって、かえって腎機能を低下させるおそれがあります」

加えて、ARBは肝臓で代謝(クスリの成分を処理すること)されるため、肝臓にも負担がかかりやすい。宮田氏は「ARBは医師にとっては使いやすいクスリだが、一般的には肝機能が良好な若年者に使用しやすい」と言う。

「むくみ」や「腫れ」で大変なことに

レニベース(エナラプリルマレイン酸塩)などの(2)ACE阻害薬は、腎臓への負担は小さいとされるものの、重大な副作用として血管浮腫や無顆粒球症といった耳慣れない症状が記載されている。

血管浮腫とは、顔や口の中などの皮膚が、大きく腫れあがる症状だ。ノドの中が腫れることで呼吸困難になる事例もあるから、注意したい。

また無顆粒球症を発症すると、体内で病原菌などを殺す白血球の一種「好中球」が激減し、免疫力が弱まってしまう。最初はかぜのような症状だが、放っておくと敗血症といった命にかかわる病気にもつながる。

(3)Ca拮抗薬は降圧剤の中で歴史が古く、現在もARBと同じくポピュラーなクスリだ。最も処方数の多いアムロジン(アムロジピンベシル酸塩)、アダラートやセパミット(ニフェジピン)、アテレック(シルニジピン)など効き目ごとに種類があるが、添付文書に共通して書かれている肝機能障害・黄疸の他にも、気をつけるべき副作用がある。

「まず、Ca拮抗薬に多いのがむくみ、特に下腿浮腫といって足がむくむ症状です。医師でもCa拮抗薬の副作用だと気づかないことがあり、むくみを取るための別のクスリを処方して、クスリの種類が増えてしまう。クスリがクスリを呼ぶ『処方カスケード』の起点になりがちなのです。

また頻度は少ないですが、日光に当たると湿疹が出る光線過敏症や、歯ぐきが異常に腫れる歯肉増殖といった副作用も報告されています」(前出・宮田氏)

便利な「配合剤」にご用心

こうした代表的な降圧剤と併せて、補助的な役割で処方されることが多いのが(5)利尿薬だ。より利尿作用が穏やかで効果が長く続く、フルイトラン(トリクロルメチアジド)などのサイアザイド系利尿薬がよく使われる。これらに多い副作用として、低ナトリウム血症が挙げられる。

「低ナトリウム血症とは、血液の中の必須電解質であるナトリウムが低下し、倦怠感やふらつきが起きる症状で、転倒や骨折のリスクにもなります。特に高齢者、女性、やせている人で起こりやすいことがわかっています。

注意すべきは、最近増えている(6)配合剤です。異なるタイプの複数の降圧剤をあわせたクスリで、飲み忘れを減らすにはいいのですが、ARBとサイアザイド系利尿薬の配合剤では両方にナトリウムを下げる効果があるため、低ナトリウム血症のリスクが高くなるのです」(群星沖縄臨床研修センター長の徳田安春氏)

こうした配合剤にはイルトラ(イルベサルタン・トリクロルメチアジド)などがある。

個別の副作用に加えて、降圧剤全般で気をつけるべきは「血圧の下がりすぎ」だ。

「人は年齢が上がるに連れて腎機能が低下し、分解されない薬効成分が残りやすくなり、副作用も出やすくなります。私がふだん診ている患者さんにも、降圧剤が効きすぎて、ふらつきなどの症状が出ている人がいます。

病院で測る血圧が高いからといってクスリを飲みすぎず、病院よりも低く出ることが多い自宅での血圧をしっかり測って、医師に伝えることが大切です」(徳田氏)

中編記事『クレストール、リバロ、リピトール…あの超有名な「高脂血症薬」には「筋肉や内臓が壊れる」リスクがあった』へ続く。

「週刊現代」2024年6月8・15日合併号より

クレストール、リバロ、リピトール…あの超有名な「高脂血症薬」には「筋肉や内臓が壊れる」リスクがあった