日本が国際社会で影響力を増すには、安保理を改革することが避けて通れない

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 国際社会の中心的機関である国際連合(United Nations)。その中核を担うのは、アメリカ、ロシア、イギリス、フランス、中国という五つの常任理事国が牛耳る安全保障理事会(安保理)である。

 日本が国際社会で影響力を増すには、この安保理を改革することが避けて通れない。果たして、改革を実現するためには、どのような手段があるのだろうか。

 JICA(国際協力機構)特別顧問で、国連大使(国連代表部次席代表)として外交実務の経験を持つ国際政治学者の北岡伸一氏は、新著『覇権なき時代の世界地図』(新潮選書)で、安保理改革を実現する二つのアイデアを披露している。(以下、同書をもとに再構成)

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 多くの途上国にとって、国際社会で発言できる場は国連である。日本は2024年末に安保理非常任理事国の任期が終わると、次は2032年まで非常任理事国選出選挙に出ないと言っている。これでは遅すぎる。途上国の立場を代弁する役割を日本以上にできる国は少ない。日本はなるべく常に安保理にいて、発言しなくてはならない。私は2032年を待つのではなく、なるべく早く、できれば国連創設80年である2025年を目指して安保理改革に着手すべきだと考える。

日本が国際社会で影響力を増すには、安保理を改革することが避けて通れない

 安保理改革には二つあって、一つは構成国の拡大、もう一つは運営方法の改革、端的に言えば拒否権の制限である。

 まず安保理の拡大は、日本にとって長年の懸案であり、2004〜05年には常任理事国になることを目指して、ドイツ、インド、ブラジルとG4を結成して、かなりの支持を集めたが、投票・採決に至らず、失敗した。当時、日本は国連分担金の19%を支払っており、アメリカの22%に迫る第2位だった。現在は日本経済の低迷と中国などの発展によって、分担金比率は8%になっている。中露との関係も悪化しているから、同じアプローチは無理だろう。

ロシアのウラジーミル・プーチン大統領

 私が考えるのは、コフィー・アナン事務総長が設立したハイ・レヴェル・パネルが2004年に提出したモデルBである。これは、現在の15に加え、再選可能な長期議席を8作り、非常任議席を1増やして、合計24議席としようというものである。現在は、非常任理事国は、任期2年で、2年が終わると退出しなければならないが、これを長期で再選可能なものにしようというのである。もし、例えば任期4年(6年、あるいはそれ以上という案もありうる)、再選可能の議席が出来れば、日本は間違いなく当選するだろう。再選もされるだろう。そして一度休むとすれば、8年安保理にいて、4年休み、また戻るということになる。

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 常任ではないが、現在のように2年非常任でいて、6ないし9年も外にいるより、おそらく12年のうちの8年、ずっと長く安保理にいられるのである。こういう改革が行なわれれば、日独インド、ブラジル等の有力国がそちらに回るので、小さな国が安保理に出る可能性も増えることになる。このモデルBには、どうしても常任になりたいというインドなどの抵抗が予想されるが、意味のある案だと思う。

 もう一つは、拒否権の制限である。2022年には、常任理事国が安保理で拒否権を行使した場合、総会でその理由を説明すべしとするリヒテンシュタインなどが提案した決議案が通った。これに対してロシアは平然と拒否権行使を正当化する議論を述べて、ほとんど効果はなかった。この程度のことでも、ここまで漕ぎ着けるのは大変で、数年前には決議案を提出する前に阻止されてしまった。これをさらに進めるのだから大変である。

 しかし、現在でも、紛争当事国は投票できないというルールはある。ロシアはこれは紛争ではなく、自衛だと強弁している。またジェノサイドについては、拒否権は行使できないのだが、ロシアはジェノサイドではないと言い張っている。こうしたロシアの主張を、総会の多数で否定する運動を起こすべきであり、何度も圧力をかけ続けるべきだ。

 また、国連憲章第27条には、安保理の決議は常任理事国全ての同意を含む9票で可決と書いてある。これを、常任理事国の4国の賛成を含む、と変えるのである。つまり1国では拒否権は行使できず、最低2国が連携しないと行使できないという形に変えるのである。

 これはとても難しい。アメリカも最初は反対するだろう。しかし、圧倒的多数の加盟国は賛成するだろう。米英仏と調整の上、ダメでもいいから、こういう運動を起こし、世論を喚起していくのが日本の責任だと思う。

 そのためにも重要なのは、日本の過度の対米連携をやめることである。

 かつて岸信介首相は1957年、日本が国連に加盟した翌年、日本外交の三原則を提唱した。国連中心主義、アジアの一員としての外交、そして自由主義諸国との協調である。安保改定を断行し、日米関係を強化した岸だったが、同時に国連やアジアを重視したのである。しかし、その後の日本外交は、一貫してアメリカ中心主義だった。

 アメリカとの関係は何よりも大事である。しかし、他の二つの原則も重要である。現在、そのままで通用するわけではないが、かつての外交三原則を現代に読み替える努力が必要である。そして、途上国から信頼され、国連でも活躍する日本は、長期的にはアメリカのパートナーとして、より大きな役割を果たせるだろう。

 もちろん、このような外交を打ち出すには、日本経済の復興が大前提である。しかし、コロナとウクライナという世界史的な危機が起こっているなかで、日本が果たせる役割は実に大きい。これを日本の歴史的責任と言ってもあえて過言ではないと考える。

※本記事は、北岡伸一『覇権なき時代の世界地図』(新潮選書)に基づいて作成したものです。

北岡伸一(きたおか・しんいち)
1948年、奈良県生まれ。東京大学名誉教授。国際協力機構(JICA)特別顧問。東京大学法学部卒業、同大学院法学政治学研究科博士課程修了(法学博士)。立教大学教授、東京大学教授、国連大使(国連代表部次席代表)、国際大学学長、JICA理事長等を歴任。2011年、紫綬褒章受章。著書に『清沢洌 日米関係への洞察』(サントリー学芸賞受賞)、『日米関係のリアリズム』(読売論壇賞受賞)、『自民党 政権党の38年』(吉野作造賞受賞)、『国連の政治力学 日本はどこにいるのか』『外交的思考』『世界地図を読み直す 協力と均衡の地政学』『明治維新の意味』など。

デイリー新潮編集部