伊達公子「プレーヤーである前に人間である」現役時代に意識していたこと

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“ウェルネス”とは、あらゆる面において、よりよく生きようとする生活態度を意味する言葉。身体と心が健康で、自分を取り巻く社会や環境も健やかであること。その中で豊かな人生を送ること。そんな生き方をしている人は眩しくて、美しい。内面から光を放ち続ける伊達公子さんに、サステナブル・ウェルネスの秘訣を聞いてみました。

どんな瞬間も成長し続ける。テニス人生がくれた、確固たる軸

6歳からテニスを始め、世界ランキング最高4位にまで上り詰めた伊達公子さん。26歳のときに引退するも、その12年後、37歳で現役復帰を宣言し、世界を驚かせた。現在も変わらずテニスの世界に身を置き、解説やジュニア育成、スポーツスタジオのプロデュースなど、幅広い分野で活躍している。

伊達さんを言葉で表すなら「太陽のような人」だろうか。その場にいるだけで周囲を明るく照らし、自らが発するエネルギーで側にいる人も元気にしてしまう。清々しくて、美しい空気を運んでくる人だ。そんな彼女にウェルネスの秘訣を聞くと、「よく食べ、よく寝て、よく動くことかな」と返ってきた。

「身体が健康であれば自然とエネルギーが湧いてきて、気持ちが前向きになりますよね。そうすると色々なことがポジティブに回っていく。そういうのって表情にも表れるなと感じていて、いつも生き生きとした表情をしている人は、性別や年齢にかかわらず素敵だなと思います。最近は重力にだんだん勝てなくなって、表情筋を引っ張り上げたくなるんですけど(笑)、外見にこだわりすぎることなく、自然体で年齢を重ねて、内面から滲み出るような表情の快活さや美しさを大切にしたいなと、いつも思っています」

そんな姿勢を教えてくれたのは、テニスを通して出会った様々な国の選手だった。

「日本人って、すごく人目を気にするところがありませんか。でも私が出会った欧米の人たちの多くは、自分が好きで、楽しいと思えることであれば、人からどんなふうに見られようと自信を持ってやるという印象が強くて。それはきっと『個』としての確立、ブレない自分だけの軸みたいなものがあるからなんでしょうね。私はそんなに自信があるというタイプではなかったので、そういう素敵な考え方や生き方に出合うたび、それを吸収して自分を磨きたいと思ってきました」

自分の軸を持つことで、その人なりの輝きが生まれる。そういう意味では伊達さんにとっての軸は、間違いなくテニスだろう。けれど26歳で一度目の引退を決めたあと、その軸が揺らぐことはなかったのだろうか。

「テニスプレーヤーである前に、ひとりの女性、人間として成長しないといけない。これは世界を回るようになった18歳頃から、いつもコーチに言われていたことです。ただ試合に勝っていればなんでもいい、そんな簡単なことではないんだぞって。技術やフィジカルだけでなく、内面も磨き続けていかないと本当に華のある選手、人を惹きつける選手にはなれない。コート外での人との接し方であったり、身につけるものや立ち居振る舞いなど、日常の行動すべてが自分の成長につながるんだと。当時はよく理解できなくて、ただ言われるがままにやっていたのですが、時間が経って、今、それがよくわかるんです」

それは、現役の選手でなくなった今も、自身を「テニスプレーヤー」と呼ぶ伊達さんの姿勢によく表れている。

「選手時代はプレーヤーである前に人間であるということを大切にしてきましたが、コートの外に出た今、自分を作りあげてくれたテニスというものが、しっかりと軸としてあることを感じます。伊達公子というひとりの人間であると同時に、永遠にテニスプレーヤーであること。それが自分を支え、前に進ませ続けてくれているものなのかなと」

登山を始めて知った、新しい世界。ウェルネスの秘訣は、冒険し続けること

自分の中に揺るぎない軸があれば、人の目も失敗も気にせず、冒険ができる。伊達さんにとって近年の大冒険は、登山だ。

「父親が山好きで、子供の頃から家族でトレッキングに出かけていたんです。二度目の引退後、体力が少しずつ落ちてきたなと感じていたこともあって、この先のことを考えて、何か長く続けられるスポーツができないかなと考えていたとき、そうだ、山だ! って」

3年前、上高地でその風景の美しさに感激した。以来、谷川岳や富士山などに登り、少しずつ経験を積んできた。そして2023年、念願の北海道・大雪山に登った。

「自分でテントを担いで歩く2泊3日の山旅。お風呂もベッドもないし、不安だったんですけど、一面に広がる高山植物のお花畑や、朝日、夕日、星空……。何もかもダイナミックで、とにかく自然の大きさに圧倒されました。あの充実感、達成感は忘れられません。次はもっと長く歩いてみたいし、違った季節の風景や生きものの姿も見てみたい」

雪の季節を迎え、今度はスキーで深雪の山を滑ってみたいと次なる冒険を夢見ている。

「好きなことに関しては、いくらでも動けるんです。これはもっと大冒険になりますが、いつか北海道の自然豊かな土地で暮らしてみたいなとも考えています。すぐにとはいかなくても、心に思っていれば、いつかタイミングが巡ってくるはず。それを逃さないためにも、いつもフットワーク軽く、好きなことを楽しんでやっていたいですね」

PROFILE

伊達公子 だて・きみこ

1970年、京都府生まれ。グランドスラムでは全豪、全仏、全英でベスト4、全米ベスト8。95年にはWTAランキング4位に。次世代選手を育成するKIMIKO DATE×YONEX PROJECTは6年目。一般社団法人Japan Women’s Tennis Top50 Club(JWT50)を設立、若手選手へのサポートも行う。

●情報は、FRaU2024年1月号発売時点のものです。

Photo:Saori Tao, Ayako Niki Styling:Kuniko Sakamoto Hair & Make-Up:Takashi Kosuge Text & Edit:Yuriko Kobayashi

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