悲願のダービーを制した(左から)野田順弘オーナー、横山典弘、野田みづき夫人、安田翔伍師(撮影・石湯恒介)

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 「日本ダービー・G1」(26日、東京)

 2021年に生まれた7906頭の頂点を決める戦いを制したのは、9番人気のダノンデサイルだった。鞍上の横山典弘騎手=美浦・フリー=は09年ロジユニヴァース、14年ワンアンドオンリーに続くダービー3勝目。56歳3カ月4日での勝利は武豊の持つダービーおよび、JRA・G1最年長勝利記録を更新した。ダービー初挑戦初Vを決めた安田翔伍調教師(41)=栗東=は、史上最年少ダービートレーナーとなった。

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 私が現場で取材していた3、4年前のことだ。安田翔伍厩舎に所属する崎山助手から、こんな質問をされたことがある。

 「ブン屋(新聞記者)さんから見て、ウチの先生ってどこがすごいと思いますか?」

 それまでに、多くの関係者から指揮官の騎乗技術を高く評価する声を聞いていた。師が助手時代に調教を担当したロードカナロア、カレンチャンなどの取材を通じて感じた馬に対する姿勢も含め、「乗り手としてはもちろんですし、馬を大事にしているところがすごいと思います」と返答した。

 崎山助手はそんな私の話にうなずきながら、「確かに馬も大事にしているんですけど、ウチの先生は俺らスタッフのこともめちゃくちゃ大事にしてくれるんですよ」と教えてくれた。当時30代だったトレーナーにとって、厩舎スタッフは自身より年長者ばかり。そんな従業員に慕われている姿に直接触れ、開業初年度からオメガパフュームなどの活躍馬を輩出した厩舎の原動力を感じた。

 一般社会でもそうだが、年上やさまざまな考え方を持つ人々の力を引き出し、チームとして成果を出すのは並大抵のことではない。スタッフや競走馬の“声”に耳を傾け、一つ一つ丁寧に向き合ってきた指揮官。そんな姿勢が、出走を直前で見送った皐月賞、そして今できる最高の調整を施して横山典弘騎手にバトンを渡した今回へとつながったのだと感じる。史上最年少でダービートレーナーとなった礎には、間違いなく人も馬も大事にする師の心があった。(デイリースポーツ中央競馬担当デスク・大西修平)