東京・浅草は外国人にも人気のスポット(編集部撮影)

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 海外からの観光客が落とすお金で経済が潤うかと思いきや、さにあらず。富士山の撮影スポットとして人が集まりすぎたコンビニが、撮影できないよう黒い幕を張るという事態にまでなった、オーバーツーリズム。街には人とともにゴミもあふれたりと、生活に支障が出るケースも増えてきて─。アンケートで聞こえてきた声をもとに、対策を識者と考えました。

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2024年4月のインバウンドは300万人超え

 JNTO(日本政府観光局)によると、2024年4月のインバウンド(訪日外国人観光客)が2か月連続で300万人を超えたという。よほどのことがない限り、過去最高を記録した’19年の年間3188万人を更新する可能性は高い。

 コロナ禍を耐え忍んだ観光地は歓喜に沸くかもしれないが、一方では、インバウンドによる迷惑行為も多数目撃され、悲鳴を上げているケースも散見されている。

 記憶に新しいところでは、富士山の撮影スポットとして人気となった「ローソン河口湖駅前店」と「ローソン富士河口湖町役場前店」。

 インバウンドが殺到し、危険な道路の横断やゴミの放置、敷地内侵入が多発し、富士河口湖町は富士山が撮影できないよう黒い幕を張る作業を開始する事態に。マナーやルールを守らないインバウンドに、頭を抱えている人は多い。

 実際、週刊女性で国内在住の日本人男女にインバウンドへの苦言をアンケート調査すると、多くの切実な意見が集まった。増え続けるインバウンドに対して、何かしらの対策を考えなければいけない局面にあることは間違いないだろう。

 とりわけ、多数の意見が集まったのがゴミの放置だ。

「観光地の近くに住んでいるのですがうんざりします。なぜルールを守らない人が捨てたゴミを、私たちの税金で片づけなきゃいけないの?」(神奈川県・49歳・女性)

 そもそも、「日本はゴミ箱の数が少ないです」と話すのは、北九州市立大学で和製英語の研究を行うアン・クレシーニさん。日本の文化に明るく、2023年11月には日本国籍を取得した。

「アメリカの場合、ゴミを持ち帰るといった文化がないんですね。ゴミ箱を見つけたら捨てることが習慣化しています。ゴミ箱に入らなかったとしても、ゴミ箱の横に置いておけば片づけてくれるだろうと思ってしまうのです」

欧米人は大きな声で話すことが迷惑だと考えていない

 こうした不満を解消するためにも、ひとまずゴミ箱の設置数を増やすといったことはしてほしいものだ。

「電車の中でも大きな声で話すのでうるさい」(東京都・58歳・男性)

「雨の日に傘を差さない。かなり濡れた状態で、電車に乗ってきたりする」(大阪府・50歳・女性)

 こうした意見に、クレシーニさんは「私もそう思う」と苦笑しつつ、「どうしても文化の違いは表れてしまう」と続ける。

「欧米人は大きな声で話すことが、迷惑だと考えていないんですね。そのため、日本人に不快なイメージを与えているとは思っていない。また、傘を差さないというのも欧米では“あるある”です。特に、アメリカは車社会なので、傘は必要としないし、電車にもあまり乗らない。その癖が染みついている」(クレシーニさん)

 確かに、本人にその気がなくても、ここ日本では不快な行為に映ってしまうこともあるだろう。「ずうずうしい」「まったく日本語を話そうとしない」といった意見も多く寄せられたが、本人たちはいたって普通にしているだけかもしれない。

「円安という状況も大きい。ひと昔前なら、日本に来るインバウンドは、日本が好き、日本の文化に関心がある人が多かった。そのため、訪日するうえで最低限のマナーや言葉を覚えてきたと思います。しかし、今は円安ですから『日本は安いから行ってみるか』といった単純な理由だけで訪れる観光客が多数いる。そうした人たちに、多くを求めるのは酷ともいえる」(クレシーニさん)

 円安の副作用は、こんな意見にも表れている。

「私はラーメン店を経営しているのですが、1杯1000円前後のラーメン価格が安いと思われるみたいで。あちらでは1杯2000〜3000円するから、少量の麺しか入っていないと勘違いして、大盛りや特盛りを頼む。結果、食べ残すといったことが珍しくない。こういうギャップにどう対応したらいいのか迷ってしまう」(福岡県・38歳・男性)

 過去最高を記録するといわれるインバウンドだが、実はまだまだ伸びる可能性がある。かつて“爆買い”といった言葉を生み出した、団体の中国人観光客が戻ってきていないからだ。日本と中国のマーケティングを中心に事業展開するクロスボーダーネクスト・CEOの何暁霞(カ・ギョウカ)さんが説明する。

「現在、中国はビザの発行を厳しく規制しており、収入(納税額)が一定額を超えていないと認めないといったルールがあります。爆買いの時代は、もっと緩和されていました。また、中国政府は内需を拡大することに重きを置いているため、海外旅行よりも国内旅行を推奨しているといった事情もあります」

 確かに、大通りに観光バスを横づけするといった“あの光景”は、以前に比べるとほとんど見なくなった。

「今、日本を訪れている大陸からの中国人観光客は、比較的お金を持っている人たちです。団体ではなく個人で旅行を楽しむ、マナーや常識のある彼らは、日本に中国では体験できない食やおもてなしを期待している。『中国人はマナーが悪い』とひとくくりにするような考え方で接すると、大きな経済損失につながると思います。

 そうではなく、お金を持っているハイエンドのインバウンドには、価格設定もハイクラスにして、その対価に値するサービスを提案する。そういったプランがもっと出てきてもよいのではないかと思います」(何さん)

“日本人を怒らせると怖い”ということもきちんと伝えたほうがいい

 十把一絡げに扱わない─。この意見に、クレシーニさんも同調する。

「“インバウンドは”と主語を大きくすると、マナーを守っているインバウンドまで飛び火します。例えば、X(旧ツイッター)で迷惑行為を働くインバウンドの写真がさらされてバズることがよくあります。こういった行為が日常化すれば、インバウンド=迷惑を働く人たちという先入観が生まれ、溝が深まってしまうだけ」(クレシーニさん)

 黒い幕を張るまでに至った“富士山ローソン”にしても、きちんとルールを守って訪れたインバウンドもいたはずだ。だが、守れなかったインバウンドによって、現在は日本人を含む全員が見られなくなった。

「ルールを守れない人に罰金を科すなどは、真剣に議論されるタイミングにあると思います。また私個人は、交通機関などを利用する際に、インバウンド仕様の料金設定を設けてもいいと思う。ただし、在日(在留)外国人と訪日外国人をどう判別するかといったクリアすべき課題もありますが」(クレシーニさん)

 実際に海外では、国立や市立といった住民の税金が使用された施設は観光客価格が当たり前のように存在する。

「制度化を進めるとともに、多数のインバウンドを迎え入れる国になったというマインドを、日本人も持つことが必要だと思います。何でもかんでも過敏になると、お互いによくない。大事なことはきちんと伝え、そうではないことはスルーする。そういう気持ちも大事だと思います」(クレシーニさん)

 寄せられたアンケートに、

「悪気がないとしても、こちら側の生活に支障がある行為などには強い態度で臨むべき。“日本人を怒らせると怖い”ということもきちんと伝えたほうがいいと思う」(長野県・37歳・女性)

 とあった。インバウンドが増え続けるなら、私たちの考え方も変えていかなければいけない。

国内在住の日本人に聞いた迷惑系インバウンドの目に余る行動(要約)

・ゴミを散乱させる
・禁止と書いてあってもどこでも写真を撮る
・大きな声で話す
・雨で濡れたままお店に入る、電車に乗る
・母国語だけで話そうとする
・道に座り込んでいる
・許可など、ひと声かけない
・日本のルールを知ろうとしない
※インターネットアンケートサイト「Freeasy」にて4月中旬、全国の18歳以上70歳以下の男女500人を対象に自由回答で実施

取材・文/我妻弘崇

アン・クレシー二 アメリカ・バージニア州出身。言語学者。北九州市立大学准教授。現在は福岡県宗像市に暮らす。日本語能力試験1級所持。2023年11月、日本国籍を取得。著書多数。

何暁霞(カ・ギョウカ) クロスボーダーネクストCEO。中国マーケティング支援事業とメディア事業を展開する一方で、自身もインフルエンサーとして日本の情報を中国に向けて発信している。