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映画ファンはみな恍惚として、語彙力はまるでこの映画を観て干からびてしまったとでも言うように、「ヤバい」「狂ってる」とつぶやく投稿の数々。2015年に『マッドマックス 怒りのデス・ロード』が公開されたときの、Twitter(現X)での異様な熱狂を覚えている。1日に3回も4回も観るために映画館に通い、合計で何十回も劇場鑑賞したという猛者も知っている。中毒的に鑑賞して、その快楽をSNSに投稿し、“劇場で観ると、何らかの境地に辿り着ける”と知らしめるのが、あの映画の体験価値となったようだった。

劇中に登場する支配者イモータン・ジョーの狂信者ウォーボーイズのように、人々はあの作品を崇拝していた。映画の口コミの純然たる力が、Twitter時代にくっきり形になったような出来事だった。一度観た人を病みつきにさせるのに十分な熱量があった。所謂「爆音上映」の普及にも一役買っている。日本でこれほど社会現象的な熱風を吹き荒らした洋画作品は希少である。

『怒りのデス・ロード』はすでに伝説となっており、『ブレードランナー』や『ダークナイト』などと同じように、撮影時のさまざまな逸話つきで語られるようになっている。延期に次ぐ延期や、出演者たちの確執など、とにかくトラブルが絶えず、その長い日々は実録記『マッドマックス 怒りのデス・ロード 口述記録集 血と汗と鉄にまみれた完成までのデス・ロード』(竹書房)として書籍にまとめられたほどだ。

その書籍の序文で著者のカイル・ブキャナンは、「『怒りのデス・ロード』のような映画は、単に類を見ないだけではない──月並みなスーパーヒーロー映画が続々と量産されるいまの時代、おそらくは二度とつくり得ないたぐいの映画だ」と述べているのだが、要するにジョージ・ミラーは今回の『マッドマックス:フュリオサ』(2024年5月31日公開)で、堂々と2作目を作ってしまったのである。「あの世界に戻って、『怒りのデス・ロード』を追い抜こうなんてする奴は、だれだ?ジョージ・ミラーだ。それを彼はやろうとしていて、やってのけるとわたしは信じている」とは、自主ドキュメンタリー映画『The Madness of Max』を監督するほどのシリーズのファンであるティム・リッジの言葉だ。

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その予感は正しかった。『マッドマックス:フュリオサ』は、あの熱狂が新たに蘇るような最新作だ。今度の主人公は、前作でシャーリーズ・セロンが演じたシタデルの大隊長、フュリオサ。『怒りのデス・ロード』では二昼三夜の「行って、帰ってくる」直線の物語が展開されたが、今作は若きフュリオサの15年間を描く。

早速鑑賞したが、まさに『怒りのデス・ロード』の常軌を逸したマッドネスの再来である。それでいて、決して前作の再現に留まっていない。もちろんジョージ・ミラー監督が、そんな陳腐なことをするわけがない。「存在する映画の続編や、その前編を製作する場合にやってはいけないことのひとつは、前の映画で確立した同じ比喩表現を再び使用することなんだ。しかし一方で、物語は同じように伝えなければならない」と、ミラー監督はその絶妙なバランスを話している。「過去に成功したものを繰り返しているのを観るたびに、人はそれに麻痺してしまうんだ。だから新しいものを加えなければならない。それでいて親しみやすさもなければならない」、と。

新しいものが加わった新作ということで、なるほど確かに前作を知らずとも楽しめる。ミラー監督も「『マッドマックス 怒りのデス・ロード』を観たことがない人と、観たことがある人とのあいだに特に違いはない」と説明している通りだ。ただし、「観たことがある人は、『マッドマックス 怒りのデス・ロード』を生み出すために注ぎ込まれた原動力とベクトルを理解できるはず」という。

実際、このあまりにも強烈な世界観は、軽くともおさらいしておいた方がより没入できると、筆者も実感している。そこで、本記事では前作の振り返りを行なっておくので、これから鑑賞に出かける方は参考にしてほしい。

(C) 2024 Warner Bros. Entertainment Inc. All Rights Reserved. 『マッドマックス:フュリオサ』は『怒りのデス・ロード』とどう繋がっているのか

まずは世界観設定である。このシリーズは1979~1985年にメル・ギブソン主演で公開されたアクション映画『マッドマックス』3部作の現代版であり、地続きの物語となっている。核戦争が起こり、環境も文明もモラルも完全に退廃してしまった終末世界。舞台となるのはウェイストランド(荒野)という途方もない砂漠で、そこにはイモータン・ジョーという暴君が支配する「シタデル」と呼ばれる砦があり、白塗りの武装集団ウォーボーイズが、「V8」と呼ばれるエンジンを奉っている。そこに理性はなく、あるのは生存本能と従属に基づく動物的な狂気と暴力だけだ。

本作の主人公のフュリオサは、『怒りのデス・ロード』では左腕が失われており、機械のアームを装着していた。イモータン・ジョー支配下の世界で、彼女は独自の力強い芯を持ち、凛々しさがあり、その瞳には希望の光と復讐の炎が混在している。イモータン・ジョーの奴隷を連れてシタデルを脱走し、追っ手から逃れつつ直走ったのち、ある場所で故郷の仲間である「鉄馬の女たち」と再会。「緑の地」から連れ去られた幼き日から7000日以上、つまり約20年が経ち、その3日目に母が死んだことを明かしていた。彼女の過去に何があったのか。どうして彼女は、決死の思いで「緑の地」を目指していたのか。そして、故郷が失われたと知った時の、あの絶叫の真の意味とは。その全てが、本作『フュリオサ』で語られることになる。

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若きフュリオサを描くにあたって、ジョージ・ミラー監督は前作のシャーリーズ・セロンにデジタル若返りを施すことも考えていたというが、まだ技術面で機が熟していないと判断し、アニャ・テイラー=ジョイを起用した。『ラストナイト・イン・ソーホー』(2021)で彼女と仕事を共にしたエドガー・ライト監督の熱い推薦に推されたそうだ。ちなみに、テイラー=ジョイにもセロンにも、かつてバレエダンサーを志していたという共通点がある。アニャはフュリオサに敬意を払いつつ、きちんと自分の役として演じあげるため、あえて前任のセロンとは撮影が完全に終わるまで連絡を取らなかったのだそうだ。

M・ナイト・シャマラン『スプリット』(2017)で注目を集め、ドラマ「クイーンズ・ギャンビット」(2020)で大ブレイクを果たしたテイラー=ジョイについて、「彼女には本質的な、毅然とした態度がある。非常に決断力があり、厳格な人だ。神秘性もある」とミラー監督はベタ褒め。フュリオサの若き日を演じる俳優として、彼女以上の適任はいないだろうということは、あなたも『フュリオサ』を観れば同意できるはずだ。

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そして、悪役イモータン・ジョーの姿も再び拝むことができる。本作『フュリオサ』では、イモータン・ジョーと、クリス・ヘムズワースによる新たな暴君ディメンタス将軍の二大支配者による覇権争いが描かれる。イモータン・ジョーの凄みを理解していればしているほど、それに立ち向かおうとするディメンタス将軍の凄みも、より理解できるというものだ。

真っ白な肌と髪、呼吸用ポンプを装着した怪人。その熱狂的な崇拝者である戦士ウォーボーイズたちは、イモータンに認められることを至上の喜びとしており、目が合ったというだけで我を忘れて歓喜興奮するほど。とはいえ、彼は恐ろしい独裁者である。環境資源が枯渇したこの世界で、彼は「シタデル」と呼ばれる砦で民を奴隷のように働かせ、貴重な水資源の権利を独占している。自身の子を産ませるための5人の妻を幽閉しており、『怒りのデス・ロード』ではフュリオサが彼女たちを連れて脱走したことによる追跡劇が描かれた。

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『怒りのデス・ロード』全編に充満した強烈な狂気と緊張感の源は、多くがイモータン・ジョーに由来したものである。圧倒的なカリスマとして瞬く間に映画ファンの心を掴み、今では「史上最高の映画ヴィラン」として頻繁に語られるようなキャラクターに。『スター・ウォーズ』のダース・ベイダーや、『ダークナイト』のジョーカーなどと並ぶ伝説として、ポップカルチャー史にその名を刻んでいる。

『怒りのデス・ロード』でイモータンを演じたヒュー・キース・バーンは2020年に亡くなっており、本作『フュリオサ』ではラッキー・ヒュームという俳優が引き継いでいる。これはトリビアだが、オリジナル版でイモータンを演じたキース・バーンは1979年の『マッドマックス』で暴走族のリーダー、トーカッターを演じていたが、後にイモータン役も兼任したことに気付く者は少なかった。同じように、『フュリオサ』でイモータンを受け継ぐヒュームは、本作の中でリズデール・ペルという、ディメンタスの部下である単眼のギャングも演じている。今回の一人二役に気付く観客も、きっと少ないはずだ(共に設定上の繋がりはない)。

イモータン・ジョーが強烈なので、その周辺キャラクターも強烈である。変節者ウォーボーイズたちは幼い頃からイモータンの支配下で完全に洗脳されており、彼のために死ねば“ヴァルハラ”に転生できると狂信している。イモータンのためなら即刻で命を投げ出すカルト集団で、自ら志願して散る直前には、口に銀のスプレーを噴射して「俺を見ろ(Witness Me)」と叫ぶ独特の教義を持つ。

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『フュリオサ』ではこのウォーボーイズも登場するほか、イモータンの右腕的存在である脳筋戦士リクタスもしっかり再登場。プロレスラー出身の大男ネイサン・ジョーンズが再演している。さらに、シタデルの整体整備士として登場したオーガニック・メカニックの意外な過去も明かされるほか、『怒りのデス・ロード』で観客全員を「なんじゃこいつは!?」と驚かせた火炎ギター男コーマドーフ・ウォーリアーを含め、数名の人気キャラクターも再登場するぞ。

加えて『フュリオサ』では、『怒りのデス・ロード』で人食い男爵が統治していたガスタウン、武器将軍が治めていた弾薬畑も、重要な舞台として登場する。『怒りのデス・ロード』ではシタデル発・シタデル着の直線上が舞台だったが、『フュリオサ』は主に「ガスタウン」「弾薬畑」「シタデル」の3地点を結ぶ物語と理解しておこう。

クリス・ヘムズワースの新たなる暴君、ディメンタス将軍

「アベンジャーズ」や「マイティ・ソー」で朗らかな正義のヒーローを演じたクリス・ヘムズワースは、そのイージーゴーイングなイメージをぶっ壊して、暴君ディメンタス将軍を怪演。『ホテル・エルロワイヤル』(2018)ではカルト教祖役、『スパイダーヘッド』(2022)では怪しい天才科学者役など、ヒーローとは真逆の危険な役にも挑戦していたヘムズワースが、本作で隠し持っていたマッドネスを覚醒させた。ソーがマリオなら、ディメンタスはワリオだ。

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本作で演じるディメンタスは、凶悪バイカー暴走集団「バイカー・ホード」を率いながら、チャリオット型バイクに跨ってブンブン駆け回る、荒地の暴れん坊将軍。「彼らは、手に入るものはなんでも食い尽くすバッタのような略奪者になっていった。それがディメンタスだ」とミラー監督は紹介する。非常に粗雑な性格で、おそらく、機械が壊れたら俺がバンバン叩けば直ると思っていそうなタイプの男だ。それでいて、ユーモアのセンスやチャーミングさもある。彼の元で暮らすのはイヤだが、何故かもっと彼を見ていたいと思わせるようなカリスマ性がはっきり感じられる。劇中では、イモータン・ジョーを相手にフェイスオフも果たす。暴君VS暴君の激烈覇権争いの行方に注目だ。

(C) 2024 Warner Bros. Entertainment Inc. All Rights Reserved. 世界が再び熱狂、「頭をクラクラさせながら席を立つことになるでしょう」

『怒りのデス・ロード』に連なる物語でありながら、『フュリオサ』を『怒りのデス・ロード Part2』のようにはしたくなかったと、ミラー監督は語っている。「みんなが『怒りのデス・ロード』を気に入ってくれたから、きっとこの作品もまた気に入ってくれるだろう、という感じで『フュリオサ』に取り組んだわけではない」ということだ。だからこそ『フュリオサ』には、ウェイストランドをまた別のスコープから覗くような新鮮味がある。繰り返しにはなるが、前作を観ていなくとも全然大丈夫だ。ここまで記事を読んでいただいたなら、今すぐMADな世界に突入することができる。

2024年最大の映画イベントのひとつである『マッドマックス:フュリオサ』は、すでに海外で熱狂を帯び始めている。主演アニャ・テイラー=ジョイ起用を推したエドガー・ライトは、本作を観た後にミラー監督を「先生」と崇め、「どうやって作っているのか」「動揺しています」「フィルムメイカーもファンも頭をクラクラさせながら席を立つことになるでしょう」と熱烈なコメント。ライト監督とて『ベイビー・ドライバー』(2017)などではかなりの疾走感や臨場感を演出していたが、その彼さえ「刺激を受け、嫉妬すらしました」と大絶賛しているのだから、本作の“間違いないヤバさ”がわかるだろう。

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そのほか、海外批評家たちも「IMAXのキャンバスをはみ出してしまいそうなくらい大きな映画」「とにかく大画面で観てくれ」「『フュリオサ』こそ映画を観に行く理由だ」と、劇場鑑賞を口々に激推し。カンヌ国際映画祭で先行上映されると熱く絶賛され、観客からはなんと8分近くのスタンディングオベーションが巻き起こり、ヘムズワースは涙を浮かべて感激していたという。

『マッドマックス:フュリオサ』は2024年5月31日(金)、日本公開。超ド迫力のライド体験は、映画館でしか味わえない快楽だ。

Supported by ワーナー・ブラザース映画
参考:カイル・ブキャナン『マッドマックス 怒りのデス・ロード 口述記録集 血と汗と鉄にまみれた完成までのデス・ロード』(有澤真庭訳)竹書房
Empire - May 2024
『マッドマックス:フュリオサ』プロダクションノート

【初回限定生産】マッドマックス 怒りのデス・ロード コレクターズ・エディション
<4K ULTRA HD&ブルーレイセット>(3枚組/豪華封入特典付)
5/24発売 8580円(税込)
発売元:ワーナー・ブラザース ホームエンターテイメント
販売元:NBC ユニバーサル・エンターテイメント
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