グミ市場が急拡大している。2021年にはガム市場を上回った。流通科学大学の白鳥和生教授は「明治が2023年3月にガム市場からの撤退を表明するなど、ガムが先細りする中、グミ市場は快進撃を続けている。その背景には『ゴミが出る』というガムの弱点も影響しているようだ」という――。

※本稿は、白鳥和生『グミがわかればヒットの法則がわかる』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。

写真=iStock.com/deepblue4you
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/deepblue4you

■新商品開発にしのぎを削るグミ市場

「レーベ(REWE)」や「エデカ(EDEKA)」といったドイツのスーパーマーケットに行くと、売り場にはひとつの通路にびっしりとハリボー社の製品だけが並んでいる。実際、「ハリボー」は世界シェア・ナンバーワンのブランドだが、実は日本市場では3〜5番手のグループにとどまる。

「果汁グミ」の明治が市場シェアの2割弱を持ち、これに「ピュレグミ」のカンロが続き、ハリボーの上を行く存在となっている。ほかにもUHA味覚糖、ノーベル製菓、カバヤ食品といった定番商品を持つ有力メーカーが目白押しだ。いずれも、新商品の発売にも積極的で、各社がしのぎを削っているのが日本市場の現状だ。

■当初は「ゼラチン菓子」という呼び名だった

日本におけるグミの歴史は1980年に始まる。明治(当時は明治製菓)が「コーラアップ」を発売してからだ。当初のコーラアップは、子どもを意識してやわらかく仕上げており、オブラートごと食べるタイプだった。

欧米のグミはゼラチンを多く入れているので、日本人には硬すぎて歯切れが悪いと判断。そこで、同社はゼラチンの量を変えることで、日本人に合った製品をつくりあげた。当時とは背景が違うが、硬めの食感に生まれ変わったブランドは今もあり、コーラ味は男性を中心に根強い人気がある。

ただ、1980年代の当時の新聞記事を見ると「ゼラチン菓子」といった表現があるなど、カテゴリーとして確立しない時期があった。そうした黎明期を経て1988年、同じく明治が満を持して、やわらかな食感と果汁感を強調した「果汁グミ」を投入。曲折はあったものの、ここに今日まで続くグミブームが幕を開けた。

■日本のグミ市場を拓いた「果汁グミ」

明治といえばチョコレートが有名だが、夏にも強い商品をつくりたいと、ヨーロッパ視察で人気のグミに目をつけた。

明治同様に、ほかの菓子メーカーも現地で人気のグミの情報を集めており、UHA味覚糖も経営トップが早くから目をつけていたという。同社会長が欧州で子どもたちが当たり前のように食べ、欧州に行く度に売り場が広がっている様子を見た。そこでドイツ企業から技術供与を受け、1985年に「コスミック21ベア」という商品を発売した。

味も食感も多様なグミが市場を形成する日本にあって、カテゴリーを確立したのが「果汁グミ」だった。従来、キャンディーやグミなど、糖液を煮詰めてつくる菓子には、果汁を入れることは難しかった。果汁は熱を加えると鮮度と風味が損なわれるばかりでなく、色も変わってしまうためだ。だが、明治は特殊な煮詰め技術、ゼラチン溶解技術の開発などによって、果汁入りグミの実現を可能にした。

■2021年にガム市場をついに抜いた

明治「果汁グミ」(画像=プレスリリースより)

この「果汁グミ」は爆発的にヒット。1990年のグミ市場は250億円と、1987年の約5倍になった(1991年2月13日付『日経産業新聞』)。これを受け、ほかのメーカーが続々とグミ市場に参入。すっぱいパウダーをまぶしたカンロの「ピュレグミ」、春日井製菓の「つぶグミ」、カバヤ食品の「タフグミ」、UHA味覚糖の「さけるグミ」など、様々なタイプが登場していった。

2023年は、菓子業界にとってエポックメイクな年になった。明治が2023年3月にガム市場からの撤退を表明したからだ。口寂しいときに食べたくなるお菓子の代表格、ガムとグミ。コロナ禍前の市場規模は、ガムがグミを大きく上回っていたが、2021年に逆転した。ガムが先細りする中、グミ市場は快進撃を続けている。

■明治が「キシリッシュ」の販売を終了

明治がガムの主力ブランド「キシリッシュ(XYLISH)」シリーズと「プチガム」の販売を2023年3月末で終了した。「社会環境の変化により、ガムの価値と消費者のニーズとのギャップが大きくなった」(明治)というのが理由。同社はキシリトール配合商品の老舗格だったが、ロッテの主力商品「キシリトールガム」が強い市場で埋没。また、ガム市場が長期低落傾向にあることがこの決断につながった。

画像=プレスリリースより
明治「キシリッシュ」 - 画像=プレスリリースより
明治「キシリッシュグミ」(画像=プレスリリースより)

キシリッシュは、虫歯予防に効果があるとされる「キシリトール」を日本で初めて配合した商品として話題と人気を集めた。発売20周年を迎えた2017年には、「イキがいいのだ」キャンペーンと題してロックバンド「キュウソネコカミ」にコラボレーション楽曲を依頼し、動画コミュニティ「MixChannel(現ミクチャ)」で募集した動画を基にしたミュージックビデオを配信して盛り上げた。

ただ、25周年を迎えた2022年は特段のキャンペーンをすることはなく、翌2023年3月で販売を終了した。売り上げのピークは2007年だった。一方で、明治はキシリッシュのブランド名をグミに転用し、「キシリッシュグミ」を2023年4月に発売した。

■「お口のお供」はガムからグミへ

東京都内のとあるコンビニエンスストア。棚で最も目立つ目線の位置にはグミ、その下にはタブレット(錠菓)がずらり。ガムは最下段にある。POSデータを駆使するコンビニの棚は、商品の浮き沈みをシビアに反映する(人気のグミでも一部の韓国製グミなどは売れ行きが悪く、店の隅っこで割引シールが貼られ、見切りの対象になっているのもご存じの通りだ)。

調査会社インテージ提供の市場規模データによると、2017年のチューインガム市場は823億円、グミ市場は555億円と約270億円の差があったが、ガム市場は2018年767億円、2019年741億円、2020年612億円と縮小の一途。

一方のグミは2018年606億円、2019年619億円と拡大し、新型コロナウイルス感染拡大初年の2020年こそ569億円と前年割れしたものの、2021年は635億円と拡大し、同年593億円に縮小したガムを逆転した。

2022年のグミは前年比23%増の781億円と躍進し、548億円のガムに約230億円超の差をつけてリードした。わずか5年で、市場規模が逆転して立ち位置が入れ替わった格好だ。何か口寂しいときのお供だったガムは、そのポジションをグミに取って代わられた。

実際、ジェイ・エム・アール生活総合研究所(JMR生活総合研究所)の消費者調査(2023年5月、20〜69歳の男女971人)によると、ガムとグミについて、1年前と比較して食べる頻度の増えた割合はグミが高く、ガムを4%ほど上回った。

■ガムはロッテの1強、グミは群雄割拠

チューインガム市場はロッテの独壇場とも言える市場だ。日経POS情報がカバーする全国のスーパー71チェーン約1500店舗のPOS情報によると、販売金額の64.2%をロッテが占めている(2022年)。ボトルタイプの粒ガム「キシリトールガム ライムミント」が一番人気だ。

ロッテ「キシリトールガム」(画像=プレスリリースより)

日経POS情報によると、スーパーマーケットにおけるメーカー別シェア2位は、「クロレッツ」「リカルデント」で知られるモンデリーズ・ジャパン。CMでもおなじみのブランドを展開しているが、販売金額シェアは19.1%にとどまる。明治はモンデリーズに続く3番手だが、販売金額シェアは4.7%と大きく水をあけられ、2019年の6.3%からも縮小していた。

シェアの伸び悩み以上に、明治のガム市場撤退へ踏み切る要因になったのが、ガム市場そのものの退潮だ。

一方のグミ市場は、ロッテのガムのようなガリバー的な存在はなく、「果汁グミ」シリーズを販売する明治が販売金額シェア18.8%でトップ(2022年)。これにカンロ、UHA味覚糖などが続く。

■ガムの顧客がグミに流れているわけではない

もうひとつ興味深いデータがある。グミはガムの市場から顧客を奪っているわけではないということを、マクロミルが分析している。同社によると、錠菓も含めたガムなどの口中清涼菓子のほかに、キャンディー、チョコレートからも顧客がグミへ流入しているという。

特に2022年は、小袋タイプのチョコレート菓子(ポケチョコ)から16億円がグミに流れた。さらに、グミを売り場で見つけて気になって買ってみたトライアルユーザーが、好きな商品を見つけてリピーターになっていったことで市場が拡大したという。

また、JMR生活総合研究所の調査によると、ガムを食べる頻度が減った人のうち、グミを食べる頻度を増やしている人は25%だった。同研究所では「ガムからグミに需要がシフトしたといった代替関係に両者はない。グミとガムの特徴や食べている人の背景は異なり、グミには話題性や嗜好性、ガムには機能性がある。人々の関心も高いことから、どちらにも今後の成長の余地はある」と見る。

ちなみに、ガムの市場は、喫食シーン減少で前年割れが続いていたが、マスクを外す人が増えたことで、需要が戻りつつある。市場をリードするロッテが、菅野美穂さんを起用したテレビCMを投下したことや、人気アーティストのBTSを起用したプロモーションを実施したことで市場は活性化してきた。

■商品数は370→800種類へ

グミは商品数が増えていることも、消費者へのアピールにつながっている。日経POSデータによると、2019年は約370種類だったが、輸入品も増えており、2023年8月時点では792種類と800種類に迫っている。

白鳥和生『グミがわかればヒットの法則がわかる』(プレジデント社)

都内にある食品スーパーのバイヤーは「SKU(商品の最小管理単位)は拡大傾向にあり、今後も成長するカテゴリーと判断している」と話す。また、大手コンビニエンスストアの担当者は「店のレイアウト変更のたびに、グミは売り場を広げている。ガムは逆に、これ以上減らせないぐらいのところまで、売り場面積を減らしてきた。ガムは右肩下がり、グミは右肩上がりの構図は、コロナ禍で決定的になった」と見る。

また、カンロの村田哲也社長は「グミの購入率は、10年間で6ポイント程度しか伸びず、現在4割台。逆に飴の購入率は少し落ちているものの6割台。10代は、飴よりもグミを購入する傾向にあるが、10代以外の世代は飴を買う傾向にあり、グミはまだまだ伸びる余地がある」と見ている(2023年7月27日の中間決算発表会での発言)。

■ガムは「ゴミが出る」が意外にネック

グミとガムを比較する場合、「ゴミ」との関係も無視できない。ガムが支持されてきたのは、かむと気分のリフレッシュや眠気覚まし、歯の健康への配慮といった便益があったためだ。だが、最近はガムのデメリットが目立つようになってきた。口からガムを吐き出すことに対するネガティブなイメージや、ガムのゴミを処理する煩わしさが増大した。特に街なかや駅構内でテロ対策などからゴミ箱が減っていることがある。

地球環境問題は政治経済の喫緊の課題となっている。国連が2015年に策定したSDGs(持続可能な開発目標)の認知が広がる中、ゴミの削減は生活者の身近なエコな活動のひとつだ。

コロナ禍の2020年7月にはレジ袋が有料化され、2021年には日本政府も「カーボンニュートラル」を2050年までに達成することを国際公約として掲げた。スウェーデンの環境活動家グレタ・トゥーンベリさんのようなZ世代(1990年代後半から2010年代前半に生まれた若者)は環境問題を自分事(じぶんごと)として捉える向きもあり、たかがガムといえども、かみ終えたガムをどうするかという問題は、生活者の心理に陰を落としている。

----------
白鳥 和生(しろとり・かずお)
流通科学大学商学部経営学科教授
1967年3月長野県生まれ。明治学院大学国際学部を卒業後、1990年に日本経済新聞社に入社。小売、卸、外食、食品メーカー、流通政策などを長く取材し、『日経MJ』『日本経済新聞』のデスクを歴任。2024年2月まで編集総合編集センター調査グループ調査担当部長を務めた。その一方で、國學院大學経済学部と日本大学大学院総合社会情報研究科の非常勤講師として「マーケティング」「流通ビジネス論特講」の科目を担当。日本大学大学院で企業の社会的責任(CSR)を研究し、2020年に博士(総合社会文化)の学位を取得する。著書に『改訂版ようこそ小売業の世界へ』(共編著、商業界)、『即!ビジネスで使える 新聞記者式伝わる文章術』(CCC メディアハウス)、『不況に強いビジネスは北海道の「小売」に学べ』(プレジデント社)などがある。
----------

(流通科学大学商学部経営学科教授 白鳥 和生)