焦点:少子化財源に日銀ETF活用案、支援金巡り「埋蔵金」の思惑再燃

写真拡大

Yoshifumi Takemoto Takahiko Wada Takaya Yamaguchi

[東京 17日 ロイター] - 岸田文雄政権の子ども・子育て支援法改正案に対し、近く立憲民主党が日銀保有の上場投資信託(ETF)からの分配金を財源に充てる修正案を提出する。医療保険の上乗せ分を代替する案だが、政府はすでに一般財源に活用しているとして否定的だ。財政が厳しい中、新たな施策への財源確保が課題となるたびに浮上する「埋蔵金」活用案。日銀保有のETFは簿価で37兆円あまりと巨額で、今後も様々な動きが出てくる可能性がある。

<支援金1兆円を肩代わり>

立民の修正案は、医療保険に上乗せして徴収する支援金を廃止し、日銀が保有しているETFから得られる分配金収入を代替財源として活用することが柱。

2024年度からの3年間で少子化対策を集中的に進める「加速化プラン」の財源3.6兆円のうち、支援金で補う約1兆円を日銀ETFで肩代わりさせることを想定している。

ロイターが確認した資料によると、日銀の機関決定を経たうえで、同行が保有しているETF(簿価37兆1160億円、昨年9月末)を政府が買い取り、対価として、現金ではなく交付国債を交付。新設する「ETF管理特別会計」にETFを付け替え、分配金のうち必要相当額を繰り入れる。

立民の試算では、日経平均株価が4万円での推移を続ければ1兆3874億円の分配金が得られる。株価が4万円から3割下落し、2万8000円となっても分配金収入は1兆1321億円と、目安の1兆円を超すとみている。

立民は、これらの修正案の実現に向け、今国会中に特別会計法の改正案を提出する構えだ。

<「検討余地ない」と首相>

ただ、「政策経費に充てるべき埋蔵金」(野党中堅)と位置付けられるETFの分配金収入は現在、日銀から国庫に納付され、すでに国の一般財源となっている。

岸田首相は16日の衆院地域活性化・こども政策・デジタル社会形成に関する特別委員会で、「仮に子ども・子育て財源に充てるとすれば、その分、国の一般財源が不足し、同額の国債を一般会計で発行する必要が生じる」と述べた。立民の代替案に対しては「財源と考える余地はない」としている。

立民案を巡り、政府関係者の1人は「株一本のソブリンファンドを作るようなものだ」と語る。「株価が下落すればかえって国民が負担を抱える」と、この関係者は言う。

一方、予算編成過程で厳しい査定を受ける要求官庁からは「日銀の保有ETFは財源として魅力」(経済官庁幹部)との声も上がる。半導体分野への利活用を期待する声も聞かれる。

ただ、いずれも今のところは「絵に描いた餅」(別の政府関係者)の状況で、与党内には「支援金負担に対する世論の反発へのさや当て。(野党の)政治利用にすぎない」(中堅幹部)との見方もある。

国会筋によると、政府提出の少子化対策関連法案は19日の衆院本会議で採決され、与党などの賛成多数で衆院を通過する見通し。関連法案の審議は参院に移る。

日銀のETF処分に関しては植田和男総裁が「ある程度時間をかけて検討していきたい」と発言している。市場売却は株価下落にもつながりかねず、保有し続けることも可能だが、市場ではETFの一部を政府が買い取り、若年層に配布するという案なども提唱されている。