エコメルカリ便は発送、受け取りでも非対面が前提のサービスだ(写真:メルカリ

3月28日、フリマアプリ大手「メルカリ」で新たな配送サービスが始まった。発送から受け取りまで一貫して非対面で行う「エコメルカリ便」だ。

コンビニなどから投函ボックスで発送し、受け取り方法も宅配ボックスや玄関先に置く「置き配」のみに限られている。

荷物は宅配便の60サイズ(荷物の3辺の長さの合計が60センチ以内)から100サイズのものを送ることができる。料金は一律730円だ。100サイズで比較すると、ヤマト運輸が担う「らくらくメルカリ便」より320円、日本郵便の「ゆうゆうメルカリ便」より340円も安い。

メルカリでは、出品者が送料を負担するケースが多い。送料を計算し、梱包サイズを小さくする手間がユーザーの不満の声として上がっていた。新サービスではそうした手間が減り、送料を抑えて売り上げを増やせる。再配達がほぼなく、取引完了(残高への反映)までの日数が抑えられるといったメリットがある。

ただし、置き配限定とはいえ、エコメルカリ便は大手より約3割も安い。一体どんな仕組みで実現しているのか。そしてメルカリの配送は今後、値下げ競争に突入してしまうのだろうか。

ローソンの「戻り便」を活用する

エコメルカリ便は三菱商事とローソンによる配送システム「SMARI(スマリ)」と、SBS即配サポートが連携したサービス。無駄な配送プロセスを削減し、低コストを実現している。

スマリはローソンを軸に専用の「スマリボックス」を約3000個設置している。出品者はボックスで2次元コードをかざし、送り状を貼って投函する。ローソンのスタッフの対応は不要だ。ボックスの荷物はローソン店舗に商品を配達するトラックが「ついでに」回収する。ローソンの既存物流を活用しているのだ。

回収した荷物は三菱食品など、三菱商事が手配するセンターでほかの荷物と仕分けされる。そこへSBS即配サポートが集荷に向かい、仕分けし、個人宅へと配送する流れだ。

SBS即配サポートは物流大手・SBSホールディングス傘下でラストワンマイルを手がける企業。メガネや美容、文具関連、居酒屋への配達など、さまざまなBtoBの配送を行う。アマゾンの宅配も行っている。

SBS即配サポート執行役員の前田光治氏は「エコメルカリ便では、当社も既存の仕組みを活用することがテーマだった」と語る。

BtoBの荷物は午前着の指定とされている荷物が多く、午後に空き時間が生じるケースもあった。時間指定がなく、再配達がない置き配の荷物に限定すれば、空き時間で配達し生産性を上げられる。ここがポイントだった。

ドライバーの報酬も重点だ。SBS即配サポートのドライバーは外部委託も多く、東京で7割、埼玉、神奈川、千葉は8割を占める。ドライバーの収入増につながる仕事であることが大前提だった。

料金は安くても、ドライバーの報酬は確保

既存の仕組みを活用し集荷コストを抑え、空き時間で置き配の荷物を配達するなどの工夫によって、「ドライバーの荷物1個当たりの報酬は、BtoBで運ぶほかの仕事と同等の水準で運べる」(前田氏)という。


スマリボックスは100サイズで5〜6個の荷物が格納できる。ただ、100サイズでも極端に縦長や横長の荷物は入れられない(写真:メルカリ

エコメルカリ便は東京、神奈川、千葉、埼玉でスタートした。今後はエリアを拡大し、2024年内には東名阪、さらにプラスアルファの地域に拡大する構えだ。

SBS即配サポートもグループ会社の配送網を利用したエリア拡大の準備を進めている。

SBS即配サポート営業開発課長の阪西浩介氏は「さらに生産性を上げていきたい。何個ぐらいまで既存のインフラでやっていくのか、増車をどう実施していくか。配送品質もよくするなど、つねにチェックしていく」と語る。

メルカリの配送においては、コロナ禍の2020年、ヤマトが小型荷物の料金値下げでシェア奪取に動き、日本郵便の「ゆうパケット」が大打撃を受ける“事件”があったことは、物流関係者の記憶に新しい。

今回、メルカリ側は新サービスの開始についてヤマトや日本郵便に事前に伝えている。現状はスマリボックスを利用した荷物量がさほど多くないこともあり、両社ともまずは様子見の姿勢だ。

ただし、ヤマトの「らくらくメルカリ便」も同じくスマリボックスから発送できるサービスである。出品者からすれば、あえて高い送料のサービスを選ぶ理由はない。

置き配に同意する購入者が増えれば、エコメルカリ便の荷物も増えていくだろう(エコメルカリ便は購入者が置き配に同意した場合に利用可能)。なんらかの対抗策を打ち出す可能性もありそうだ。

運賃値上げが相次ぐ中「値下げ」の是非は?

この4月、物流業界は残業の上限規制によって、主に長距離ドライバーの人手不足が懸念される「2024年問題」に突入した。

宅配の分野で、直接残業規制の影響が生じるわけではないが、業務効率化が必要な面や、ドライバーや協力企業の待遇改善に向けて、荷主に対して運賃を上げていくなどの課題は同じだ。

メルカリは宅配分野で存在感を増している。現在、年間50億個(2022年度、国土交通省調べ)の宅配便取扱数のうち、5〜10%を占めると言われる。しかも、流通総額は年間10%以上伸びているのだ。

そんなメルカリが投入した「エコながら非常に低価格」な新配送サービス。今のところ価格競争に突入する気配はないが、物流業界へ影響がどう波及するのか注視される。

(田邉 佳介 : 東洋経済 記者)