新規顧客を正規価格の店舗に誘導する戦略としてアウトレットストアを利用することは、オフプライス市場で戦うブランドや小売業者のあいだではよくあることだ。

米高級百貨店サックス・フィフス・アベニュー(Saks Fifth Avenue)のアウトレットであるサックス・オフ・フィフス(Saks Off 5th)の場合、フレグランスはアウトレットストアの買い物客にとって長らく一般的なエントリーポイントであり、それを美容商品全般の品揃えを強化するチャンスだと捉えている、と同社チーフ・マーチャント&ブランドオフィサーであるマーラ・サーハル氏は語った。

アウトレットストアを活用し、正規価格の店舗に顧客を誘導



サックス・オフ・フィフスにとって、美容商品のアウトレット販売は若い買い物客とつながる手段だが、コア顧客層は依然としてミレニアル世代に偏っているという。ノードストローム(Nordstrom)のアウトレットであるノードストローム・ラック(Nordstrom Rack)とは異なり、サックス・オフ・フィフスの美容商品は、通常、メーカー希望小売価格の30〜70%オフで販売されている。

「当社の美容戦略はシーズンごとの作戦から始まった」とサーハル氏は言う。「当社の品揃えはギフトセット中心で、母の日やクリスマスといった季節ごとの主要なイベントに合わせていた。ギフトセットの提供は継続しているが、品揃えを大幅に拡大し、スキンケア、ボディケアからヘアケアやカラーコスメにいたるまで、より充実した常用品を取り揃えるように戦略を強化した。我々は将来を見据えて、買い物客が普段愛用している商品を購入できる場所として当社を頼りにし、さらに別の商品を購入するために再び店に戻ってくるリピート顧客も増やすべく、補充戦略の構築に注力している」。

全米小売業協会 (National Retail Federation) が2018年に実施した調査によると、ディスカウント小売モデルは年齢層や所得層を超えて消費者にアピールしており、年収5万ドル(約752万円)未満の人の89%がさまざまなディスカウント小売店で買い物すると回答しているという。年収が5万ドル(約752万円)から10万ドル(約1505万円)の人の88%、10万ドル(約1505万円)以上の人の90%も同様の回答だった。調査によると、バーゲンストアで買い物をする人の93%が18歳以上のZ世代とミレニアル世代であった。


クリニーク、ケイトサマーヴィル(Kate Somerville)、クラランス(Clarins)などのブランドが陳列されたT.J.マックス

無許可割引販売のという問題も



ブランドのオフプライスの小売流通と価格設定は顧客の混乱を招き、その結果、ブランドは参入を躊躇する可能性がある。

たとえば、トゥーフェイスドのベターザンセックスマスカラ・イン・チョコレート(Too Faced Better Than Sex Mascara in Chocolate)が、マーシャルズでは14.99ドル(約2260円)だったのに対し、その近くにあるロサンゼルスのノードストロム・ラックでは同商品が定価の29ドル(約4360円)で売られているのを米Glossyは目にしている。

また同日、クリニークのドラマティカリー ディファレント モイスチャライジング ジェル(Dramatically Different Moisturizing Gel)のフルサイズは、T.J.マックスでは19.99ドル(約3010円)、近隣のノードストローム・ラックでは34.50ドル(約5190円)で販売されていた。また、TJXも量販店や専門店よりも安値で販売している。Glossyが見つけたところでは、メイベリン(Maybelline)のグレート ラッシュ マスカラ(Great Lash Mascara)が、アルタ・ビューティでは8.49ドル(約1280円)、ターゲット(Target)では5.99ドル(約900円)だったのに対し、T.J.マックスでは4.49ドル(約680円)で販売されていた。

これらのブランドや商品のすべてが、ブランドの許可や認識ありきでディスカウントチャネルで販売されているわけではない。それは、オフプライス小売業界のグレーマーケット商品だ。

偽造品や期限切れ商品の存在もリスク



スレート・ブランズ(Slate Brands)の創業者でCEOのジュダ・アブラハム氏によると、従来からディスカウントストアへの商品流通は、サードパーティの流通業者を介して行われているため、ブランド側は自社商品がどのようにディスカウントストアに並ぶのかを把握するのは困難だという。「トレーダー」とも呼ばれる流通業者は、商品を販売する法的権利を有しているが、ブランドの許可を得ていなかったり「正規販売者」ではなかったりすることもあると同氏は話す。

しかし、これは偽造品がディスカウントストアの店頭に紛れ込む可能性があることを意味する。さらに期限切れの商品は、すべてのブランドと直接取引している店舗よりも、ディスカウントチャネルでよく見かける。

「当社の商品ベンダーは、当社に供給する商品が正規品であり、適用されるすべての法律、規制および業界基準を遵守していることを保証している」とTJXのグローバルコミュニケーション担当アシスタントバイスプレジデントを務めるアンドリュー・マストランジェロ氏は言う。

「当社のバイヤーは、期限切れや破損した商品を故意に仕入れることはなく、使用期限の表記がある商品を見分けるよう指導されている」。

独占性と利便性は両立できない



オフプライスの小売販売モデルを直接取り入れるブランドが増えれば、自社商品がどのように棚に並ぶかを決定するにあたってブランドが優位な立場に立てるかもしれない。

ホブソン氏はこの動向を、2018年頃から本格化したAmazonの美容への野心拡大になぞらえた。多くの実績のあるプレミアムブランドがAmazonで正式に販売を開始したことで、ほかのブランドはAmazonの存在によりブランド価値が損なわれることはないと確信した。またブランドが正式な存在を確立することで、非公式の販売者を排除することも可能になった。

「この10年間で、ブランド品の販売はより複雑になっている。消費者は、すべての商品とブランドに関するあらゆる情報にいつでもアクセスできるようになった。そして消費者は、ほしいときにほしい場所にそのブランド品があることを期待している」とホブソン氏は話す。

「独占性と利便性は相反する関係にあり、すべてのブランドはその狭間で生存すべき場所を見つける必要がある」。

[原文:Beauty & Wellness Briefing: The beauty sections of off-price retailers are getting an elevated makeover]

EMMA SANDLER AND LEXY LEBSACK(翻訳:Maya Kishida、編集:都築成果)