@AUTOCAR

写真拡大 (全5枚)

世界で最も多能なモデル お金のかかるダイエット

新モデルの試乗会で、グランプリ・サーキットとシリアスなオフロードコースの両方を試すことは非常に珍しい。前回はいつだったのか、記憶にないほど。

【画像】世界一多能なクルマを更新 レンジローバー・スポーツ SV 競合クラスのSUVと比較 全147枚

レンジローバーは、新しいスポーツ SVにそんな舞台を準備した。かくして、オンとオフの両方で見事な能力を披露してみせた。


レンジローバー・スポーツ SV エディションワン(欧州仕様)

ベントレー・ベンテイガやアストン マーティン DBXへ試乗し、世界で最も多能なモデルだと、筆者は過去に表現している。しかし、それを上書きする時が来た。スポーツ SVこそ、それに該当する最新モデルだ。

このSUVは、悪路でのグリップを確実なものとする知的な電子制御システムを備え、エアサスペンションで車高を持ち上げられる。最大3.5tのトレーラーを牽引でき、900mmまでの水深なら河川を横断できる。

同時に、アスファルト上では1.1Gの遠心力に耐えるコーナリングを披露する。全長4946mm、全幅1990mm、全高1820mmという巨体に、オールシーズン・タイヤで。

インテリアは至って豪奢で、大人5名が快適に過ごせる車内空間を備える。高速道路の長距離移動でも、まったく不満は出ないだろう。燃費は8.0km/Lが良いところだけれど。

今回試乗した、スポーツ SV エディションワンの英国価格は、オプション抜きで18万5360ポンド(約3448万円)から。36kgの軽量化に繋がる、カーボンファイバー製ホイールは、6900ポンド(約128万円)を追加すれば装備できる。

カーボンセラミック・ブレーキは、7000ポンド(約130万円)のオプション。34kgもバネ下重量を削れる。ダイエットにはお金がかかる。

カギが6Dダイナミクス油圧ダンパー

ちなみに、レンジローバーが提供予定のエディションワンは、すべて完売状態。英国への割り当ては550台だというから、さほど数が限定されるわけではないが、高級SUVの需要には驚かされる。

この「SV」は、JLR(ジャガー・ランドローバー)が擁する、スペシャル・ヴィークルズ・オペレーション(SVO)部門の最新モデル。従来以上にモデルの開発チームと関係性を深めており、広範囲なアップデートが施されている。


レンジローバー・スポーツ SV エディションワン(欧州仕様)

シャシーで鍵となる技術が、レンジローバーが6Dダイナミクスと呼ぶ、新しい油圧ダンパー。前後の左右を斜めにリンクし、ダンパー内のフルード量を調整し旋回時のボディロールを抑えたり、油圧を落として柔軟にストロークさせることが可能だという。

レンジローバーによれば、電圧48Vで稼働する電子制御アンチロールバーは、ボディロールを1600Nmの力で抑制できたと説明する。一方で6Dダンパーの場合、2300Nmへ上昇。加減速時などに生じる前後の傾き、ピッチは4000Nmで抑えるそうだ。

また、リアサブフレームとサスペンション・リンクアームは新開発。ツインチャンバーのエアスプリングは、通常のスポーツと同じだが、車高は10mm落とされている。本気のSVパフォーマンス・モードを選ぶと、15mmまで落ちるという。

他方、前述の通り悪路では2段階で車高を持ち上げられる。とはいえ、舗装路の凹凸を平滑に均すわけではない。

BMW譲りの4.4L V8ツインターボは635ps

エンジンは、BMW譲りの4.4L V8ツインターボ。最高出力635psで、最大トルクは、ローンチコントロール時に81.4kg-mを発揮する。通常の走行時は76.3kg-mになだめられるが、それでも不足はないだろう。

トランスミッションは8速オートマティックで、四輪駆動。ステアリングレシオは17.5:1 から 13.6:1へクイック化され、後輪操舵システムも装備する。


レンジローバー・スポーツ SV エディションワン(欧州仕様)

ということで、まずはオンロードから。ステアリングの反応が想像以上に鋭く、少しの慣れが必要なことは否めない。一般的に大きなSUVには、小さくないボディロールと調和するように、穏やかなレシオが与えられることが多いためだ。

スポーツ SVの場合、反応は極めて機敏。ボディロールも抑制され、どこかよそよそしい印象を受けた。

乗り心地も、SUVへ想像するほどしなやかではないが、ドライブモードで大きく変化する。コンフォート・モードを選べば、明確にソフトへ転じる。路面のうねりに対し、ある程度のボディの動きも伴う。

ダイナミック・モードを選べば、洗練された印象を保ったまま明確に引き締まる。さらに、ドライブモードはカスタマイズ可能。サスペンションはダイナミックのまま、ステアリングは軽めで、パワートレインはマイルドという組み合わせが、ベストに思えた。

この状態なら、スポーツ SVは信じられないほど素晴らしい。インテリアの雰囲気も、驚くような価格に対し、充分な説得力があるように思う。

サーキットもオフロードも見事に対応

続いてサーキットへ。レンジローバーをコース上で見かける場面は英国でも少ないが、言葉を失うほど見事に走ってみせる。実際の対応力の高さでいえば、ポルシェ・カイエン・ターボGTの方が勝るとしても、それ以外の能力で届いていない。

スポーツ SVは、2485kgを感じさせない勢いでタイトコーナーを旋回。ボディの中心に回転軸があるように身をこなし、操縦次第ではドリフトにも興じれる。大きなSUVには酷だと思えるような扱いを、圧巻なほど許容する。


レンジローバー・スポーツ SV エディションワン(欧州仕様)

オフロードコースでは、人間が立っているのがやっとのような斜面でも、難なくクリア。唯一、軽くない車重が影響してか、トラクション不足の場面はあったが。

スポーツ SVほど、幅の広い動的能力を備えるモデルは、今の量産車では思い当たらない。フォード・レンジャー・ラプターやケータハム・セブンなら、より安価で、それぞれの得意分野で優れた走りを披露するかもしれないが、不得意な領域も小さくない。

多能性を高次元で叶えた、レンジローバー・スポーツ SV。世界一のオールラウンダーだと思う。

レンジローバー・スポーツ SV エディションワン(欧州仕様)のスペック

英国価格:18万5360ポンド(約3448万円)
全長:4946mm
全幅:1990mm
全高:1820mm
最高速度:289km/h
0-100km/h加速:3.8秒
燃費:8.0-8.5km/L
CO2排出量:267-282g/km
車両重量:2485kg
パワートレイン:V型8気筒4395cc ツインターボチャージャー+ISG
使用燃料:ガソリン
最高出力:635ps/6000-7000rpm
最大トルク:81.4kg-m/1800-5850rpm
ギアボックス:8速オートマティック(四輪駆動)