多くの人気アニメ作品でメインキャストを務め、その実力と甘いマスクで圧倒的な人気を誇る、声優・岡本信彦さん。

声優界屈指の食通でもある彼が語る、美食から受ける影響とは?

2023年の印象に残った出来事や、声優としていま伝えたいことに、岡本さんの本質を見た!


「感情は国境を超える」と語る、人気声優の役者論


『青の祓魔師』『僕のヒーローアカデミア』『鬼滅の刃』など、錚々たる作品でメインキャラクターを演じてきた声優の岡本信彦さん。

日本のアニメ界を牽引する存在であるが、実は声優界屈指の食通でもある。

開眼は10年前。連れられた焼肉店『SATOブリアン』に衝撃を受けて食にはまり、そのうちに食系の知り合いも増えて予約困難店に通えるまでに。

焼肉においては、2019年は週4ペース。現在、頻度は落ち着いたが、お気に入りが赤坂の『焼肉 思食』というところが通である。

多忙な日々のエネルギー源は肉で、「声優に共通するはずですけど、凄く叫んだ日は食べたくなります」と言う。

取材前日の夕食も恵比寿の『ビーフキッチン』。よく食事をする声優仲間の梶 裕貴さんとステーキを巡った時期もあり、恵比寿の『ビストロ カルネジーオ』や『ロバット』の名があがった。

他にも会員制フレンチの行きつけもあれば、馬肉の『ローストホース』や中華『茶禅華』の名も出て、「最近あまり行けてないですけど鮨なら“なんば”さん、お弟子の“しゅん輔”さんも」と守備範囲は広い。

2023年は『中国飯店』で上海ガニの雄雌食べ比べも堪能したとか。

悩ましいのが、フレンチにも目がないのに仕事上、営業時間に間に合いづらいこと。

「平日は基本夜遅い時間まで仕事で土日はイベント。行きたいお店のコースは20時〜20時半がLOなので難しいです。『カンテサンス』も20時半まで、『クロッサムモリタ』も20時50分には某所に行かないといけない」と、厳しい中で調整する。

そういった美食から受ける影響を聞くと、物語に携わる人らしい答えが返ってきた。

「例えば、“これは深海をイメージしました”と何かイメージするものがあって料理の背景を語っていただけると、やっぱり理由は大事だなと感じます。

声優でも作品を通してキャラクターを作る時に、なぜこのイメージにしたか、“なぜ”の部分を作ることが重要です。

料理で相いれない山のものと海のものを取り入れる時に、何かを繋ぎにすることがあると思いますが、キャラクターでもクールキャラだけど熱血系となる時に、どう繋ぐかに必ず通ずるものがあると思っています」


「どこか俯瞰で見ているかもしれないです。僕はまったく憑依型じゃない」


では、声優の場合の二面性の落としどころとは?



「お酒は弱いので真っ赤になってしまうけど、乾杯はします(笑)」と岡本さん


「人間だからクールキャラでも怒鳴ったりする。でも、怒鳴り方はクールキャラならではの怒り方であって、人生で初めて怒った人の怒り方かもしれないし、クールを極めて淡々と怒るかもしれない。

僕の中で、クールでも怒る理由、例えば、親友が間違った道に行こうとしているから止めるとか、クールな人の冷静でいられない瞬間はどんなタイミングなんだろうっていうところから作ったりします」

理由という些細な物語の重なりが全体のストーリーを彩る。

「心も使っているんですけど、僕はある意味、どこか俯瞰で見ているかもしれないです。僕はまったく憑依型じゃない。

憑依型でお芝居をされる方ってたぶん台本を持つのも忘れて、文字を読んでいることも頭に入っていないぐらいゾーンに入っている気がして、羨ましいなと思います。

僕の場合は、自分がそのキャラクターの一番のファンとして、視聴者だった場合にどうしたら面白く観られるかを考えて演じています」

どちらのやり方にしろ、声に込める感情で人の心を揺さぶる。

4年ほど前から、岡本さんは梶さんと飲みながらよく話すことがあるという。世界中にファンをもつアニメに出演する人ならではの、以下の見解だ。

「感情は国境を超える」

外のイベントに出席することが増えた頃、実感するようになった。日本語が分からない相手も台詞に熱狂してくれる。

「例えば“ふざけるな”という台詞があって、それが気持ちと相まって少しぐちゃぐちゃに聞こえたとしても、感情が伝われば分かってもらえる」と、対日本人でも同じことが言えるという。

だから綺麗に喋ることも大事にしつつ、「キャラとキャラの心の距離感が一番大切」とアフレコに挑む。


「自分は凡人。特別な声というギフトもない。でも、頑張れば声優になれると信じていたのは大きかった」


含蓄ある仕事論に聞き入ってしまうが、そんな岡本さんが2023年、印象に残ったことを聞いた。



西麻布の裏路地でタクシーを颯爽と降り、看板のない建物に消える岡本さん


「僕、将棋が好きなんですけど、今年は羽生善治さんと藤井聡太さんにお会いできたことが嬉しかったです。

藤井さんとはラジオで一緒にお話しさせていただいて、その時に天才とは何かを知る瞬間がありました。

藤井さんにオフの日は何をされているか聞いた時、“何もしてない”ってまず仰ったんです。でも改めて細かく朝起きてから何をされているかを聞いた時には、“誰かが対局しているので、その動画をつけます”と。

生配信の対局を見ながら自分でも指すと仰っていて、僕にとってそれは勉強だけど、学びと捉えていないことに驚きました。

呼吸するかのごとく研究をされていて、オフの日もやるぐらい日常化している。これが本当の天才なんだなと。ギアを上げていないけど、ずっと高速で走っているようなイメージです」

声優界で“天才”と呼ばれる岡本さんが語る天才が面白い。でも本人は、「いやいや、僕は本当に天才じゃなくて」と言い、理由を続ける。

僕がなぜ天才じゃないかというと、声が普通だから。でも、頑張れば声優になれると勝手に信じていたのは大きかった。

いま思い返すと、“声がいいね”と言われたことはやっぱりなくて、“その解釈がいいね”と言われることは多かったです。なのでキャラクターの解釈ができれば、声に特徴がなくても大丈夫。

自分は声優になれるかなと考えてしまう方もいると思いますけど、そういう方も、なれると思うというのは伝えたいです」

この1年は棋士と出会えたり、声優としても憧れた香取慎吾さんと共演できたりと良縁が多かった年。その出会いは未来への糧になる。

「今年はインプットを多くさせていただいたので次はアウトプット。

表現もそうですけど、後進育成も含め、ラクーンドッグ(自身が代表を務める声優事務所)の役者たちに教えられることがあったら嬉しく思います。

それに教えるって自分が育つことにも繋がるんです」

第一線に身を置きながら、業界の高みも見据えて走り続ける。日本が誇るアニメへの貢献は、感情を武器に大きくなる一方だ。


■プロフィール
岡本信彦 1986年生まれ、東京都出身。2006年にデビュー。主な出演作は『青の祓魔師』『僕のヒーローアカデミア』など。声優として活躍する一方、2022年に声優事務所「ラクーンドッグ」を設立。2024年1月から放送予定のアニメ『異修羅』にはメインキャストとして出演

■衣装
コート 165,000円、ニット 39,600円〈ともにジョン スメドレー/リーミルズ エージェンシー TEL:03-5784-1238〉、眼鏡 38,500円〈パイン/フォレストパイン・デザインラボ TEL:03-5786-2323〉、その他スタイリスト私物

▶このほか:「あの悔しさを絶対に忘れない」THE RAMPAGE・RIKUがストイックである理由とは




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東カレに語ってくれた、岡本さんが“唯一無二”と絶賛する、声優界の天才とは?

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