階級や格差の固定化、社会的地位上昇機会の喪失……自由民主主義は後退している(写真:zaksmile/PIXTA)

あなたは「新しい貴族階級」か。「新しい奴隷階級」か。私たちはどう生き残るのか。階級や格差の固定化、社会的地位上昇機会の喪失がもたらす「新しいかたちの貴族制」を徹底分析した『新しい封建制がやってくる:グローバル中流階級への警告』が、このほど上梓された。同書に収録された都市計画家、未来学者のジョエル・コトキン氏による序文、およびペーパーバック版への序文を一部編集のうえ、お届けする。

最大の被害者は労働者と中流階級

本来、自分の主張の正しさが出来事によって裏付けられることは、著者にとって何よりの喜びであるはずなのだが、2020年に本書を書き終えて以来、私が目にした事態に喜びを見いだすことは難しい。


この2年間の重要な出来事、すなわち新型コロナパンデミック、世界の主要都市における混乱の拡大、ロシアによるウクライナへの残虐な帝国主義的戦争などはいずれも、私が本書の執筆を始めるきっかけとなった自由民主主義からの後退を証明するものであった。

COVID─19への正しい対応のあり方については議論の余地があるものの、実際問題として、今回のパンデミックは、アメリカのみならず世界中で、寡頭支配を続けるエリートとその他大勢のあいだの格差を広げた。最大の被害者は、どこの国でも労働者・中流階級であった。

レストランや接客業など一部の業界は、さまざまな小規模事業者と並んで、特に深刻な影響を受けた。パンデミックの発生から2年余り経った2022年4月時点でも、アメリカ国内の中小企業の3分の2は苦境に立たされており、数十万社が閉鎖に追い込まれた。特に貧困層や労働者階級の子どもたちは、学習機会を奪われ、社会的孤立に苦しんだ。

一方、大卒でホワイトカラー職にあるリモートワークが可能な人たちは、それほどの影響は受けなかった。

パンデミックによって事実上儲けていた集団もある。左派系ジャーナリストのナオミ・クラインが「スクリーン・ニューディール」と呼ぶ取り組みを推進したテックジャイアント(巨大テック企業)は明らかに勝ち組であった。

彼らは「恒久的で、収益性が見込める非接触型未来」の創造をめざしている。アップル、アルファベット(グーグルの親会社)、アマゾン、マイクロソフト、フェイスブック(現メタ・プラットフォームズ)は未曽有の利益を上げ、2020年7月末までに評価額の合計を2兆5000億ドル以上も上乗せした。その後、収益は悪化したようだが、これらの企業は世界で最も裕福で強大な力を維持しており、うち4社はトップ5に入っている。

もう一つ、明らかに勝ち組なのが大手製薬会社だ。2021年5月、ファイザー社だけで同年末までに新型コロナワクチンから260億ドルの収益を得ると予測され、同社の増収は2022年の第1四半期まで続いた。

通常の民主的手続きを回避する傾向

COVID─19は、先進国のなかに勝ち組と負け組を生み出しただけではなく、世界における富裕国と貧困国のあいだの格差をも浮き彫りにした。今回のパンデミックで壊滅的打撃を受けたのが最貧困国である。過去半世紀にわたる東アジアの発展にとってきわめて重要な要素である工業能力が十分に備わっていなかった国々である。


ジョエル・コトキン氏も出演する「BSスペシャル 欲望の資本主義2024 ニッポンのカイシャと生産性の謎」は、NHK BSにて2024年1月1日22:30〜放送予定(写真:NHK)

アフリカその他の貧しい地域では(カール・マルクスの言うところの)「産業予備軍」〔訳注:失業または半失業状態にあって、就業の機会を持つ人びと〕が拡大し、社会不安を惹起させるほどにまで膨れ上がっている。ラテンアメリカ、アフリカ、中東では、すでに長期債務不履行に陥っている国もあり、今後もあとに続く国が出てくるかもしれない。

パンデミックの政治的余波は、欧米諸国でも混乱を招いた。病院は患者であふれ、死者が急増し、医療従事者のウイルス感染も相次いだため、COVID─19への強力な対策が確実に求められた。その一環として、ワクチン製造が加速されたことは評価に値する。

しかし、ほとんどの国の当局者のあいだに、ある顕著な傾向がみられた。政策決定に際して通常の民主的手続きを回避する傾向である。厳しい措置が時に独断で講じられることもあった。パンデミックが長引くにつれ、暫定的な命令が何年も引き延ばされ、どこかの段階で必要とされるはずの国民の承認が得られないまま定着していった。こうして、国民自治の原則は損なわれた。

このような危機のなかで冷静な議論を行うことは、不可能ではないにせよ難しくなった。概して主要メディアは、政府当局が発表した内容を繰り返し伝えるだけであった。ウイルスとその起源、影響を最小限に抑えるための最善策などにたいする異論は、たいてい抑え込まれた。COVID─19対策の規制を強く支持する者もこれに強硬に反対する者もお互いを悪者扱いした。陰謀論や怪しげな治療法を勧める影響力のある主張が特に右派の側から起こった。

確かに、生命や健康に害を及ぼすおそれのある提言については精査されるべきではあるが、政府関係者やソーシャルメディアが、支配的な政策にたいする熟慮された批判すら排除しようとしたことは問題である。歴史上幾多の危機がそうであったように、間違いなく公衆衛生上の深刻な危機である新型コロナパンデミックは、政府による言論と行動の統制をかつてなく強化する状況をもたらした。国民の怒りが爆発したのはアメリカだけではない。フランスやオーストラリアなど他の民主主義国も同じであった。

「エコ中世的」世界観

さらに悪いことには、政策決定において国民の承認を避ける傾向が定着してしまうことも考えられる。環境保護主義者のなかには、COVID─19への対処策として講じられた一連の異例な措置について、人類と地球を救うために必要だと信じる規制の「試験運用」とみなす人もいる。

国連環境計画(UNEP)のインガー・アンダーセン事務局長は、自然が「私たちにメッセージを送っている」と述べ、新型コロナパンデミックやその他の感染症が起こる理由は、野生動物の生息地に人間が足を踏み入れるようになり、人間が動物からウイルス感染しやすくなったからだと考えている。

パンデミックと環境問題との関連性は、下流階級が犠牲を払いますます貧しくなる一方、(中世の貴族や聖職者に相当する)現代社会の上流階級はほとんど痛痒を感じないという「エコ中世的」世界観に通じるものがある。

新型コロナパンデミックとそれに伴う規制やオンラインワークへの移行も、大都市の衰退を加速させた。パンデミックの時期にアメリカの都市では殺人件数が急増した。もっと言うと、ロンドン、パリ、ニューヨーク、ロサンゼルス、サンフランシスコなど世界の多くの大都市も、近年さらに危険な場所になっているのは明らかである。世界各地の不安定状況は憂慮すべきレベルにまで達しており、封建時代の再来を予感させるものがある。

パンデミックによって不安や動揺が起こる以前から、街中での暴力行為や財産犯罪は増加していたが、これに対処しようという都市当局の強い意思がみえないため、大都市からの人口流出は加速した。

2010年から2020年にかけて、アメリカでは都市部の中心的な郡の人口は270万人減少したが、大都市圏の郊外・準郊外の人口は200万人増加した。2015年以降、大都市は小規模の市や町に人口を奪われる傾向にある。

2022年には、都市の犠牲のうえに農村部の人口も増加した。歴史を通じて、都市は文化と経済の発展の中心であり、イノベーションと社会的地位の上方移動(upward mobility)〔以下、「社会的上昇」〕を生み出す主要な拠点であった。今日みられる都市の衰退と都市からの人口流出は、ローマ帝国末期を思い起こさせるものがある。それは、より断片化した地域社会への回帰であり、そこから封建制秩序が生まれることとなる。

民主主義と権威主義の「ハイブリッド政権」

都市の衰退とともに、全世界で民主主義が衰退し、権威主義が台頭している。

フリーダム・ハウス〔訳注 世界規模で自由を守るために活動する国際NGO団体〕が2021年に発表した報告書によると、ヨーロッパですら民主主義は世代を超えて衰退しており、隣接するユーラシア諸国の政府は、選挙のような一部の民主主義的形式と権威主義的なメディア規制、市民デモや公然たる政権批判にたいする厳しい制限を組み合わせた「ハイブリッド政権」が大半だという。

一時は全世界が自由民主主義と市場資本主義に向けて進歩を続けていくように思われたが、いまや中国の習近平、ロシアのウラジーミル・プーチン、トルコのレジェップ・タイイップ・エルドアンといった専制君主や(彼らほど強力ではないにせよ)権威主義者たちの支配する新たなユーラシアの世紀がやってきかねない状況だ。

彼らの視線の先にあるのは、ジョン・ロックやジェイムズ・マディソンではなく、中国の皇帝やロシアのツァーリ、オスマン帝国の皇帝たちである。

中国は2001年のWTO加盟で、欧米の民主主義国家に近い体制に移行するものと広く期待されていた。だが結局のところ、経済大国へと躍進した中国は、個人の政治的権利や財産権といった自由主義文明の基本的要素を受け入れることはなかった。

現在の中国は、モンゴル帝国や14世紀の明王朝の時代と同様、立憲民主主義国家になる可能性はほとんどない。半永久的なカースト特権とテクノロジーにより社会統制を強めることで防御を固めたきわめて国家主義的な専制国家へと発展した。

ユーラシア的性格を持つ今日のロシアは、復讐心の強い国家(レヴァンチスト)でもある。冷戦の終結によりロシアは民主主義国家に発展するという楽観的見方もかつてはあったが、プーチン政権下で独裁色が強まり、過去の帝国時代に近づきつつある。

プーチンは国内統制を強める一方で、ツァーリやスターリンの領土征服を再現して帝国の版図を拡大しようとしている。ツァーリの時代と同様、ロシア正教会はプーチンの専制支配と民族主義的侵略を祝福している。

失地回復を図る専制国家

ロシアでも中国でも、専制体制は国家の偉大さと優位の正当性を誇る感覚と密接に結びついている。サミュエル・ハンティントンが四半世紀前に示した鋭い分析によると、専制君主は世界の舞台で自らの権力を主張する正当な理由として歴史的不満を持ち出すことがあるという。

ハンティントンは、「ワールド・コミュニティー」の構成メンバーであることを鼻にかけた欧米諸国が過去に行ってきた不当な扱いが怒りを買い、他の大国が失地回復を図るべく行動に出る時代に突入しつつあると指摘した〔訳注 「このワールド・コミュニティーという言葉自体が、婉曲に(自由世界を意味する)集合名詞となり、これによりアメリカと他の西欧諸国の利益を守る行動を正当化しようとしている」(『文明の衝突』鈴木主税訳、集英社、1998年)276頁〕。

北京政府は、中華文明が何世紀にもわたって占めていた高位の座を奪還し、世界の覇権を握ろうとしている。プーチンのロシアは、ツァーリの栄光に包まれた旧ソビエト帝国の超大国としての地位を挽回しようとしている。

プーチンは西側諸国の力を侮り、少なくともウクライナの一部を服属させようと試みる一方、かつてロシアが支配していた中央アジアからベラルーシに至る周辺諸国をも視野に入れている。

北京政府は、プーチンの情け容赦ない対ウクライナ攻撃を容認する一方、アジア周辺地域で自国の力を誇示し、台湾を征服すると脅している。

これは、小国の主権を守る国際法から「力こそ正義」の世界へと歴史を逆行させるものである。ロシアも中国も、自分たちの思い描いたとおりに世界秩序をつくり変えようとしている。特に中国は、自国の社会形態が未来のかたちであると確信している。専制体制が権力と影響力を強めるにつれ、そのモデルが規範となり、既存の市場資本主義や民主主義に取って代わるおそれがある。

一方、民主主義社会における階級間の格差はますます広がり、特権はより強固なものとなっている。階級がほぼ固定化されている現実は、今日の状況が封建時代に最も似たところである。

ただし、中世後期に強力な君主たちが台頭してくるまで封建制を特徴づけていた分権的統治は存在しない。社会的階層化が進んだ結果、中道派の政党や政治家は隅に追いやられてしまった。

たとえば、2022年6月にフランス国民議会の選挙でエマニュエル・マクロン率いる中道右派連合が絶対多数を失い、極左・極右がともに多数を占めた。有権者が二極化すれば、民主的妥協はますます困難となる。特にアメリカの二大政党制ではそれが顕著である。

労働者不足が第三身分の台頭に道を開く

歴史的には、いまも目の当たりにしているように、危機は政府の統制強化や権力集中化の口実となりうる。

しかしながら、最悪の悲劇ですら、創造的実験を刺激し、新たな機会を開き、自由の再生を促すこともある。

最もよく知られている例が、14世紀の黒死病である。この致命的な疫病により、ヨーロッパでは実におびただしい数の人びとが死に絶えた。

その当時、自分たちは「終末」の世界に生きているのだと多くの人びとが信じたのは、驚くには当たらない。アメリカの歴史家バーバラ・タックマンの言葉を借りれば、「黙示録的な空気が漂っていた」のである。

しかし、その文明の破局が労働者不足を招いたことで、労働の価値は高まり、封建制秩序は崩れ、第三身分の台頭に道を開いた。さらにはイノベーションを呼び起こし、ヨーロッパを大航海時代に向かわせ、世界の海の征服につながったのである。

ひょっとすると、現在私たちの頭上を覆う暗雲の隙間に虹がかかっているのかもしれない。新たな事業を起こし、民主主義の理想を復活させる好機が到来しているのかもしれない。実際、希望に満ちた再生の兆しが草の根レベルでちらほら見えはじめている。

新型コロナパンデミックは、中世末期の大疫病やその他の混乱と同様、人びとに困難な状況に適応し、新しい働き方や事業の継続の仕方を模索することを余儀なくさせた。業界によってそれが容易なところもそうでないところもあったが、総じて自営業者は、通常の賃金労働者や給与所得者よりもうまく苦況を切り抜け、早期に回復することができた。

パンデミックのさなか、多くのアメリカ人が起業家として再出発し、新規事業を次々と立ち上げ、その多くはオンラインワークへの移行を実現した。2021年には、数年ぶりに新規事業の立ち上げ件数が大幅に増加した。

起業家精神の高まりは、新しい封建制の亡霊に対抗するものとなる。

大都市からの人口流出も、リモート勤務をしたり、自分が選んだ居住地で起業したりする人が増えれば、良い結果をもたらすであろう。

何世紀にもわたって、都市がダイナミズムと文化的創造性の原動力であったことは事実であるが、同時に犯罪や病気を生む温床にもなってきた。COVID─19が最初に大都市で広まったことを思い出してほしい。

現在の都市は、健康・衛生上の理由に反して、また〔自家用車を持ち、戸建てに住むという〕多くのアメリカ人の嗜好とは裏腹に、公共交通機関の利用を増やし、人口の高密度化を促している。

人びとに密集した生活を強いるよりも、より分散化された経済を発展させたほうが、戸建てを持ちやすく、社交的なコミュニティーを形成しやすくなり、健康の増進や民主主義の醸成にもつながるのではないか。

21世紀の大都市からの人口流出が、世襲貴族による農民支配につながることはないであろう。

人びとは自分の好きな場所に住んで働くことができれば、より強い自立心と主体性を持ち、地域社会への貢献を高めるようになる。

行政機関、大企業への信頼度がかつてなく低下

もう一つ希望の持てる兆しは、人びとが権威・権力者の優先順位に疑問を抱くようになってきていることである。

2021年にアメリカのギャラップ社が行った調査の結果、議会や裁判所を含む行政機関、大企業やウォール街などへの信頼度がかつてなく低下していることが判明した。

アメリカ疾病対策センター(CDC)は、新型コロナパンデミックの初期には神話的ともいえる権威を獲得したが、その後は大多数のアメリカ人の信頼を失い、現在はその一般向けメッセージの大規模な見直しが行われているところである。

感染対策のロックダウンをめぐっては、アメリカのみならず、カナダなど世界各地で猛烈な抗議が繰り広げられた。怪しげな反ワクチン・イデオロギーも対立と抵抗を引き起こした。

制度や当局への不信感が蔓延すると(特にそれが暴力に至る場合には)社会をむしばむ可能性があるのは事実である。

2020年夏に起こったジョージ・フロイド氏殺害事件後の暴動がその例であり、2021年1月の米大統領選挙の結果認定日に錯乱したドナルド・トランプ支持者らが議会議事堂を襲撃した事件はおそらく最も衝撃的な出来事であった。

しかし、国民が権力者におとなしく服従するただの臣民になり下がりたくないのであれば、健全な懐疑心と発言する意志を持つことが重要である。

おそらく最大の問題は、欧米諸国がこの反骨精神を汲み取り、無政府状態に陥らずに専制的な潮流を引き戻すことのできる指導者を生み出せるかどうかということであろう。

近年は、思慮分別があり、国民を鼓舞するような指導者には恵まれていない。むしろナルシシストや老いぼれども(dodderers)のオンパレードである。現在の経済構造から恩恵を受けている上流階級が、専制政治や新しい封建制への抵抗を促すような行動をとることはないであろう。

そうした動きは、権威・権力者の支配に挑戦するグループが草の根から起こすものであるにちがいない(その挑戦は組織的な場合もあれば、特定の問題に絞ってなされる場合もある)。それは、政府の理にかなった政策を拒否することを意味しない。

むしろ政策を討議する場に市民を参加させることや、政策の責任を選挙で選ばれてもいない有識者ではなく、国民に選ばれた代表者に担わせることを要求するものである。私たちの未来はこのところどうも先細りしていく気配が濃厚だが、普通のアメリカ人が自分自身と家族のためにより良いものを求める強い意志を持つならば、希望なき未来は避けられる。

自治の理念が独裁者に不安を抱かせる

そのような民主主義を維持するためには、攻撃的で拡張主義的な専制国家と国外で対決することも必要になる。

地球規模の舞台では、中国が台湾を征服し、この地上の支配的文明となる野望を抱いていたり、ロシアがソビエト帝国の再建という野望から自国民に厳しい統制を敷きつつ、ウクライナに野蛮な攻撃を仕掛けていたりと、冷戦終結後最大の自由主義的価値観への攻撃を目の当たりにしている。

欧米諸国が日本やインドと連携して、中国の挑戦に対応する準備ができているようにみえるのは驚くほどだ。ほとんどのヨーロッパ諸国は、関与の程度に差こそあれ、アメリカとともにロシアの対ウクライナ戦争に反対している。ロシアの侵略によって、ウクライナ国民のみならず、多くの近隣諸国民は、この地域で専制国家が勢力を拡大すれば、自分たちが何を失うことになるのかをはっきりと痛感させられた。

ファシズム、国民社会主義(ナチズム)、ソビエト共産主義など、専制的な帝国や体制の崩壊を私たちは過去に見てきた。自由、機会、自治に希望を抱く人びとは、しばしば多大な犠牲を払いながらも、自分たちの国の専制政治を倒すために結集した。自治の理念がどこかで息づいているかぎり、独裁者は不安を抱きつづける。また人びとが自己決定を望み、それが生得の権利であると信じているかぎり、既得特権や既成権力にたいするあらゆるかたちの挑戦がなされるであろう。

究極的に人間は上からの恣意的な支配に喜んで服従することはない。民主的自治を再生させる余地はまだ残されている。封建制がルネサンスを経て民主主義の発展につながったように、またソビエト帝国の崩壊がその周辺に自由で豊かな国々を生んだように、今日でも民主主義を再生させることは可能である。

必要なのは、政治的・経済的な大領主(overlord)におとなしくひれ伏すことではなく、より応答性の高い統治を求める勇気と、より開かれた起業家社会を実現しようとする意志だけである。

イデオロギーや党派性の問題ではない

本書は、右派のものでも左派のものでもない。階層化(階級分化)が進み、停滞が続く社会の傾向について分析を試みるものである。

本書はまた、世界の中流階級に向けた警告の書でもある。現在、広く世界で新しい封建制へ向かう流れができており、もはや後戻りは無理かもしれないが、本書がその流れを食い止めるための議論を喚起し、行動を鼓舞する一助となれば幸いである。

長年の民主党員、現在は無所属である私には、これがイデオロギーや党派性の問題であるとは思えない。進歩派はもとより、保守派も含め、大多数の人びとが、階級の固定化や富と権力の巨大な集中からなる未来を望んでいないと信じたい。

それは、アメリカのみならず、イギリス、オーストラリア、カナダ、ヨーロッパ大陸の大部分、さらには急速に発展している東アジアの国々を含む世界的な現象である。

現地報告、とりわけアメリカ、オーストラリア、イギリス、シンガポール、インド、中国から得られる情報は、本書を完成させるうえで大いに役立った。しかしそれと同時に、過去の偉大な分析者であるアレクシ・ド・トクヴィル、カール・マルクス、マックス・ヴェーバー、ダニエル・ベル、堺屋太一、アルビン・トフラーらによるそれぞれの時代の状況認識について考えることからも大いに示唆を得られた。

地平線に見え隠れする未来は、いかなる国にとっても、また自分の子どもたちにとっても望ましい未来ではない。本書の意図するところは、過去数世紀にわたって自由民主主義の特徴であり続けた独立と自由、社会的上昇の可能性を大切に考えている人びとを結集させることにある。

(翻訳:寺下滝郎)

(ジョエル・コトキン : 都市計画家、未来学者)