50以上のソーシャルメディアを利用して、欧米や日本を標的とした世論誘導を行う巨大な偽情報キャンペーン「Spamouflage Dragon」が中国政府主導で展開されていると報じられています。このSpamouflage Dragonでどのようなプロパガンダ活動が行われていたのかについて、アメリカ経済メディアのBloombergが報じています。

Pro-Chinese Spamouflage Dragon Has Penetrated Social Media - Bloomberg

https://www.bloomberg.com/news/articles/2023-12-15/pro-chinese-spamouflage-dragon-has-penetrated-social-media



アメリカ・ユタ州でビジネスコンサルタントを営むスペンサー・タガート氏のX(旧Twitter)のアカウントは2020年頃から、アメリカにまん延する文化的格差や人種差別問題、政治問題について積極的に取り上げるようになり、広く注目を集めるようになりました。特に「ブラック・ライブズ・マター」支持を表明するツイートは、2人の中国大使館職員によってシェアされました。

しかし、タガート氏本人は、「自分はそんなツイートをしていませんし、TwitterもといXは5年間利用していません」と主張しています。ソーシャルメディア分析企業のGraphikaによれば、タガート氏の個人情報は巨大な親中国プロパガンダネットワークによって利用され、偽アカウントが作成されていたとのこと。タガート氏は「泥棒に入られたのと同じような感覚です。もし私が共産主義や母国に対する憎悪を助長していると思われていたとしたら、なんと恐ろしいことでしょう」と述べています。



2023年初め、Metaは「Spamouflage Dragon」と呼ぶ偽装スパムアカウント群を一斉削除したと発表しました。「Spamouflage」は、「スパム」と「カモフラージュ」と組み合わせて名付けられています。

Metaによると、問題となったアカウントはXやReddit、YouTube、Vimeo、Pinterest、Pixivなど50の異なるソーシャルメディア・プラットフォームでのべ16万件が発見されており、Facebookだけで50のアカウント・46のページ・31のグループ、Instagramで10のアカウントを削除したとのこと。これらのアカウントやページ、グループは台湾政府についての偽情報や批判的な内容のコメントを投稿しており、特に台湾の蔡英文総統に対して降伏を勧告するような動画を共有したりメッセージを表明したりしていたそうです。



MetaのGlobal Threat Intelligence部門責任者であるベン・ニモ氏によると、Spamouflage Dragonが初めて確認されたのは2019年で、香港民主化や亡命中の中国人実業家である郭文貴氏を批判する中国語の字幕付き動画を大量のTwitterアカウントが共有していたとのこと。これらのアカウントは「バシェバ・ライオンズ」「ゴンザレス・スウィンドルハースト」など欧米系の名前で活動しており、互いに交流しながら、プロパガンダ的な政治の話題の合間にありふれた話題を話していたため、一目では中国政府支持者だとはわからないように偽装されていたそうです。

MetaやGoogleはこうした偽装スパムアカウントを発見次第削除しているそうですが、Graphikaのアナリストであるリビー・ラング氏は「偽装スパムアカウントはインターネットのカビだ、とジョークを言うこともあります。こうした偽装スパムアカウントはオンライン空間の隅々にまで浸透していて、取り除いてもまた戻ってくることがしばしばです」と述べています。

Bloombergは、「偽装スパムアカウントを除去しようと思ってもモグラたたきのような努力を強いられている状況は、外国のプロパガンダ活動が西側のソーシャルメディアユーザーにリーチするのを阻止することがいかに難しいかを示しています」と述べています。



また、FBIは、中国による反体制派へのオンラインターゲティングも行われており、ストーカー行為や脅迫が増加していると指摘しています。Graphikaによれば、郭氏はYouTubeにアップロードされたある動画で「Big Hemorrhoid(大きな痔(ぢ)、本当に厄介な人物)」と批判されていたそうで、こうした郭氏への嫌がらせや誹謗(ひぼう)中傷がさまざまなソーシャルメディアに投稿されていたとのこと。

また、カナダ政府はジャスティン・トルドー首相とその他閣僚をターゲットにした偽情報キャンペーンがSpamouflage Dragonによって展開されていた疑いがあると発表しました。カナダ政府は、「この偽情報キャンペーンには『カナダ在住の中国共産党批判者が国会議員の犯罪行為や倫理違反を告発した』という主張が含まれていた」と述べています。



親中国ネットワークが偽装スパムアカウントを作ってプロパガンダ活動を行っているという報道に対して、在米中国大使館のリュウ・ペンギュ報道官は、「中国は偽情報の作成と拡散に常に反対しています。私が見たところ、アメリカのソーシャルメディア上では中国に関する偽情報が多く出回っています。アメリカの一部の当局者や議員、メディア、組織は基本的な事実を無視し、何の証拠もなしに中国に対する大量の偽情報を作成し、拡散しています」とコメントしました。