「 心理的安全性 」に関する誤解 Vol.2:本当の意味が理解されないのはなぜか?

記事のポイント
心理的安全性の重要性:従業員が報復を恐れずに間違いを指摘できる環境は、業績とパフォーマンス向上に不可欠であるが、多くの組織でその意義が誤解されている。
心理的安全性が人事部門に委ねられがちで、ビジネスリーダーはこれを「人事の些末なこと」と見なしており、その本質を理解していない。
EBの戦略アドバイザー、フーガンダー氏は、心理的安全性はイノベーションやパフォーマンス向上、戦略的意思決定の重要な部分であり、人事部門だけでなく経営幹部もこの概念を重視すべきだと強調している。
心理的安全性の重要性:従業員が報復を恐れずに間違いを指摘できる環境は、業績とパフォーマンス向上に不可欠であるが、多くの組織でその意義が誤解されている。
心理的安全性が人事部門に委ねられがちで、ビジネスリーダーはこれを「人事の些末なこと」と見なしており、その本質を理解していない。
EBの戦略アドバイザー、フーガンダー氏は、心理的安全性はイノベーションやパフォーマンス向上、戦略的意思決定の重要な部分であり、人事部門だけでなく経営幹部もこの概念を重視すべきだと強調している。
この言葉は、間違いと思しきことがらが発生した場合に、従業員が報復を恐れることなく自由にそれを指摘できる環境こそが、最高の業績と従業員パフォーマンスを生み出すとする職場哲学を意味するものだが、多くの組織においては根本的なところで誤解されている。そしてそれが従業員と企業に深刻な波及効果を及ぼす、と専門家たちはいう。
行動コンサルタント企業であるビヘイブ(Behave)は2023年8月に英国で、人事関連の意思決定を担当する上級幹部200名を対象に調査を行ったが、先ごろ発表されたその結果報告書によれば、心理的安全性が実際に何を意味するのかを明確に理解していると回答した人事担当エグゼクティブはわずか16%であった。また、組織戦略に携わる企業リーダーたちと幅広く協働しているという数名の専門家にこの記事のために取材をしたところ、これは英国に限らず、米国を含め大陸横断的にみられる普遍的な問題であると認めている。
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懐疑的な人からの賛同を得るために、言葉を変える
心理的安全性が誤解されたり誤った適用がなされたりする理由のひとつは、これが人事部門にまかせっきりにされてきたことだ。この数年ビジネスリーダーたちは、さまざまなビジネス上の逆風に立ち向かうことで頭がいっぱいで、従業員にとっての快適さにまで気がまわらなかった。彼らが、心理的安全性などビジネス上の必須事項ではなく、あったら助かる「人事の些末なこと」程度に考えていたということが、誤解の深さを際立たせている。
スウェーデンの大手銀行SEB(スカンジナビスカ・エンスキルダ・バンケン;Skandinaviska Enskilda Banken AB)の戦略アドバイザーであるペール・フーガンダー氏は、職場の気風を表現するこの言葉自体にも原因の一端があると指摘している。同氏はSEBが新たなリーダーシップ哲学を定義し、リーダーシップ文化を変えていくための戦略策定の支援を行ったが、そこで心理的安全性の基盤を確立することがクローズアップされた。そのなかでは数カ月にわたるワークショップやリーダーシップ・コーチングが行われ、従業員は重要課題を前進させるために心理的安全性をどのように活用すればよいのかを学んだ。
こうした変革を行うために2017年にSEBに採用されたフーガンダー氏だが、同氏によればこの言葉そのものが、多くの経営幹部がその本当の意味を理解する上で妨げになっているという。心理的安全性は本来、イノベーションを育み、パフォーマンスを高め、そして戦略的意思決定の極めて重要な部分をなす、仕事の構成要素のひとつだ。「これを人事部門に任せてしまうのは簡単だが、人事の担当者が経営幹部に向かって全く遠慮せずに戦略的意思決定のしかたをアドバイスするなんて、期待できないだろう」と同氏はいう。
この職場哲学を説明するために使われる言葉そのものが、多くのエグゼクティブからの賛同を妨げている。「心理的」や「安全性」といった言葉は「ソフト」に響くため、エグゼクティブたちの使う「ハードな言葉」とは異質なものとして退けられている可能性がある。シニカルな性格のエグゼクティブならなおさらだと、フーガンダー氏は強調した。
良い決断を下せるように正しい情報を俎上に載せる
従業員の福利厚生を担当する人事部門やチーフピープル・オフィサー(人事部門のトップ)は、従業員のウェルネスに効果があり人材リテンションを向上させるものとして、心理的安全性の要素を取り入れようとする傾向があるが、フーガンダー氏からみれば、これらは心理的安全性を正しく適用することによるポジティブな「副次的効果」であって、他の執行レベルのエグゼクティブたちの目には心理的安全性などビジネス上の最重要項目ではないと映り、見過ごされやすくなるのだという。
「この点についての私の解決方法は、ポジティブな副次効果については触れないということだ。私が考える心理的安全性とは、良い決断を下せるように正しい情報を俎上に載せるということだ」とフーガンダー氏はいう。
「だからみな、上司に向かって、あるいは同僚とのあいだで、敢えて異議を唱えたり欠点についてさらけだしたりする必要がある。そうしなければ、われわれは正しい意見を得られない。もしそのような雰囲気、すなわち心理的安全性を作り出すことができれば、正しいインプットを得ることができ、問題解決に着手することができるが、そうしたインプットがなければ問題を解決するチャンスが失われてしまうだろう」。
そしてこれが達成されることで、従業員の福利厚生やストレスの軽減、仕事の楽しさ、よりよい業績を達成する喜び、自分らしくいられることの心地よさ、といったポジティブな副次効果が、すべて有機的にもたらされるのだ。
意思決定のための質が高く優れたインプットの重要性
心理学の月刊誌『サイコロジー・トゥデイ(Psychology Today)』に掲載された記事の中で、フーガンダー氏とエドモンソン氏は、共著者としてSEBが心理的安全性の定着にどのように取り組んだのかを紹介している。記事の中で両氏は、SEB幹部の言葉を匿名で引用している。「結果は予想以上に早く表れ、それはより迅速な意思決定、よりよい決断といった形でおとずれた。スピードアップのために、スピードを落とす。長い間抱えてきた戦略上の問題も、かなり素早く解決することができた。社内だけでなく、社外関係者とのあいだでも」と、この幹部は語っている。
2023年夏、SEBは経済誌『グローバルファイナンス(Global Finance)』の革新的な銀行上位5社に選ばれた。SEB社内のリスク部門で戦略アドバイザーを務めたフーガンダー氏にとって、心理的安全性は競争に勝つために欠くことのできない重要なものである。「われわれに必要な質の高い意思決定を行うためには、心理的安全性が非常に重要であると認識している」と同氏は述べている。
パフォーマンスと最終的な損益結果を改善するためには、心理的に安全な職場環境を作り出し、最高の意思決定を引き出すことが何よりも重要であると、フーガンダー氏は強調している。「だが、懐疑的な眼でみている人には、心理的安全性という概念を無視するのに都合の良い話、つまり副次効果の部分の話ばかりが耳に入ってくるだろう。心理的安全性から得られる恩恵について人事を説得する必要はない。また、あなたの会社のマネジメントチームにいる、セルフリーダーシップ講座にせっせと通っているような人を説得する必要もない。あなたが説得すべきは、CFO(チーフファイナンシャルオフィサー)や懐疑論者、エンジニアたちだ。そして彼らに対しては副次効果の話は省き、意思決定のための質が高く優れたインプットの重要性についてのみ話せばよい」。そう同氏は付け加えた。
[原文:Why employer misunderstanding of psychological safety is hurting teams’ performance]
Jessica Davies(翻訳:SI Japan、編集:分島翔平)
