働き方の多様化や、ライフステージの変化に合わせて“住まい替え”を考える人が増えています。そこで、実際に引っ越しをした人たちを取材。住み替えのきっかけや引っ越して気づいたこと、また、これからの暮らし方についての思いを聞きました。3DKから4LDKの広い家に引っ越した、カメラマンの砂原 文さんにお話しを伺いました。

住み替えてわかった一歩踏み出すことの大切さ

夫婦ともに海辺の生まれ。なんとなく、「いつかは海のそばで」と考えていたという砂原さん。新婚時代は小さなマンション、続けて暮らした古い戸建て。思いきり仕事をして友人たちと気ままに会う、そんな毎日を楽しみつつ、どこかずっとはりつめた、“オン”が続く感覚だったそう。

【写真】愛猫と作品

「庭で植物を育てたり、近くの大きな公園に出かけたり。意識して自然に触れてはいたけれど、オフになりきれないもどかしさが、いつもあった気がします」

●仕事帰りの運転で、自然と自分に戻っていく

きっかけはコロナの自粛期間。ふと、「東京って、仕事をする場所なんだ」と腑に落ちたといいます。そこから、より自然に近い住まいを求めて物件探し。現在の住まいである、神奈川県逗子に決めた理由は、仕事を続けるうえでのアクセスのよさ。

「都内の撮影現場まで、クルマでほぼ1時間半あれば行けるんです。そしてこの時間が、私たちにとっては大切で」

家に向かうにつれ、少しずつ変わっていく景色。海のにおいも風に混ざってきます。

「帰る頃には、意識せずともオフになっています。以前の暮らしにたりなかったものは、この距離が生み出す、完全なオフの実感だったのかもしれません」

●私が望むのなら、きっとどこへでも行ける

住まい替えで手に入れたのは、ソファを置ける広々としたリビングスペース。そこから続くテラスには、夫の忠明さんが育てる木々やハーブが繁ります。

「自然が近く、家も広くなって。ただ、それ以上に得たものは、『どこへでも行ける』という解放感。これまで仕事を理由にして動くことを諦めていました。環境を変えたら『本当は私はずっと前から、どこへでも行けたんだ』と気づけた。自分に“GO”を出せばいい。暮らし方は、気持ちのままに決めていいと、確信できたんです」

●砂原さんの住まいHistory

27歳:結婚を機に東京都内のマンションに住む
30歳:手狭になり同じ都内の戸建てに引っ越し
44歳:コロナ禍のなか住まい替えを考え始める
45歳:海が近い神奈川県・逗子の戸建てを見つけ住まい替え

●家族みんなの“好き”を優先したら、自然が近い暮らしが合うと気づいた

「海が近くにあるだけで、気持ちの落ち着き方が違う」と砂原さん。

「娘は、海辺の町だからこそできる習い事のカヌーに挑戦中。以前は自然を求めて家族でキャンプなどに出かけていたけれど、ここでは一歩外に出れば、海も山もあります。夫は以前にも増して、植物の世界に没頭。わが家のテラスは、彼の育てた木々やハーブであふれかえっています」

広々リビングでダンスの練習!

この日は枝を剪定(せんてい)。切ったものは束ねてスワッグに。

以前はスペース的に飾れなかった自身の作品もあちこちに。愛猫のロンと。

●不便さもあるけれど、オンとオフの切り替えがしやすくなった

クルマでの移動はオフに戻っていく時間であり、仕事モードのオンに切り替えていく時間に。

「都内に近づくにつれ、気持ちがキリッとしてきます。完全にひとりの空間なので、好きな音楽やラジオを聴きながら、より“個人”に戻るひととき。都内で暮らしていた頃は、この時間が短かったことも、うまく切り替えができなかった理由だった気がします」

都内へのルートは複数あるので、渋滞をうまく回避できるのも逗子のメリット。

夫の忠明さんは海辺で過ごした高校の陸上部時代を思い出して、再び走ることが日課に。