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ファースト・アンド・ファースト・コンサルティングの調査によると、企業のリーダーの約3分の1が恐怖心に動かされており、これが生産性の低下と心理的な不安を引き起こしている。

多くの管理職は、自分が恐怖に基づくリーダーシップを採用していることに気づいておらず、これが回避、攻撃、疑い、非難などの感情を引き起こしている。

恐怖は一時的な動機付けとなることもあるが、よいリーダーシップは恐怖ではなく愛、信頼、思いやりに基づくべきだという意見もある。


人はさまざまな感情に突き動かされる。そして、今日の職場で企業の管理職を駆り立てている主な感情は、恐怖心だ。

企業のリーダーの3分の1がもっぱら恐怖心に突き動かされており、その結果、効率が悪く心理的な安心感を得られない職場環境が生み出され、年間360億ドル(約5兆4000億円)の生産性損失につながっていることが、新たな調査で明らかになった。

ファースト・アンド・ファースト・コンサルティング(First & First Consulting)が9月に実施した委託調査「Love Leadership Survey」によれば、恐怖心を持つリーダーを抱える企業は週に10時間分の生産性を失っており、その損失額はリーダー1人あたり年間約2万9000ドル(約435万円)、全体で年間360億ドル(約5兆円)*に上るという。この調査は、米国、英国、およびオーストラリアで従業員500人以上の企業に勤める24歳〜54歳の管理職2000人超から得た回答をまとめたものだ。

*生産性損失額の算出方法:10時間分の生産性損失の金額を算出するため、ファースト・アンド・ファースト・コンサルティングは、恐怖心を持つリーダーと分類された回答者全員の中央値を求めた。その後、グローバルウェブインデックス(GlobalWebIndex)のデータを利用して、米国にいる新興企業のリーダーの数を350万人と算出した。さらに、独自の調査結果に基づき、新興企業のリーダーの36%(130万人)が無意識のうちに恐怖に基づくリーダーシップを採用していると判断した。この調査の回答者に、職場環境や仕事上の人間関係が原因で週に何時間分の生産性が失われていると思うか尋ねたところ、その答えは10時間だった。恐怖に基づくリーダーの平均給与は年間11万9600ドル(約1794万円)で、時給に換算すると57.50ドル(約8625円)となる。また、1週間の労働時間を50時間とすれば、1人あたりの平均損失給与は年間2万8750ドルと推定される。これらの数字を市場規模に当てはめた結果、360億ドルという金額が算出された。

恐怖は活力剤にもなり得るが



「恐怖はいい活力剤となり得る。人々はエネルギーをもらい、自分を守るためにエネルギーを特定の方向に向けられるようになる」と、カウンセリングサービスを手がけるスライブワークス(Thriveworks)の公認セラピスト、カーラ・ケイズ氏は指摘する。

だが、ほとんどの管理職は、自分が恐怖に基づくリーダーシップを採用していることに気づいていない。そこでこの調査では、恐怖に基づく感情を抱く頻度を回答者に尋ねた。

恐怖に基づく感情には、回避、攻撃、疑い、非難などがある。この調査では、恐怖心に基づくリーダーシップを展開している管理職は、不安を感じたり、マイクロマネジメント(部下を必要以上に細かく管理・指導する管理手法)やインポスター症候群(自己を過小評価する心理傾向)に陥ったり、怒りを覚えたり、フィードバックを受けることや意見を述べることをためらったり、独りよがりになったりする経験が、「常に」または「たびたび」あると答えていた。

「恐怖心に関するこうした問題は、無意識に生じている」と、今回の調査を委託したマーゴット・ファラチ氏はいう。同氏は、金融サービスやテック企業など、プレッシャーの高い業界で20年にわたってリーダーシップマネジメントに携わってきた経験を持つ人物だ。「もし彼らに恐れを抱いているかと尋ねれば、みなノーというだろう」。

恐怖心を抱えるリーダーたち



この調査ではまた、恐怖心を抱えるリーダーの40%近くが、ストレスを職場で積極的に活用できると強く信じていることも判明した。

恐怖心は警戒心を駆り立てるため、場合によっては良い動機付けとなる。たとえば、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックの際には、恐怖心が迅速なワクチン接種を後押しした。ただし、これは長期的に持続可能なやり方ではないと、ファラチ氏は話す。「リーダーシップに関していつも恐れを抱いていると、自分自身にも部下にもダメージを与え、最終的には自分の成果にダメージを与えることになる」と、同氏は付け加えた。

この1年ほど、従業員の生産性に対してかつてないほど注目が集まっている。さまざまな企業が、パンデミック後の事業損失、不安定な経済、オフィス勤務の時間に対する従業員の反発などに対処しているからだ。企業のリーダーの中には、オフィスの再開を生産性低下への処方箋と捉え、積極的に推進している人もいるが、根本的な問題は他にも潜んでおり、放置すれば全体的な生産性を損なわれることにもなると、今回の調査リポートは強調している。

この調査では、恐怖心を抱えるリーダーの約90%が、従業員の生産性の低下が見られると認めていたほか、60%の幹部が、直属の部下が仕事に不満を抱いているようだと答えていた。

優れた管理職は愛に基づくリーダーシップを採用する



恐怖に基づくリーダーシップの反対は愛に基づくリーダーシップだと、ファラチ氏は考えている。「愛とは2人のあいだのロマンチックなつながりだと思われているが、それ以上のものだ」と同氏は述べ、愛は、信頼、思いやり、傷付きやすさ、尊敬など、心理的に安心できる環境を作り出すのに必要な感情を包含するものだと指摘した。

ケイズ氏もこの意見に同意し、何よりもまず、部下に安心感を与えることがリーダーのあるべき姿だと話す。

「恐怖は、人間の深い感情的な衝動を利用するものだ。それに対し、愛や思いやり、あるいは尊敬は、衝動を利用したりその衝動に基づいて利益を得ようしたりすることもできるが、その人の人となり、その人の心を満たすもの、その人を良い気分にさせるものとよりうまく調和する」と、ケイズ氏は語った。

カリフォルニア州立フラートン大学のリーダーシップ学教授で、神経科学とリーダーシップのコンサルタントとして、リーダーやエグゼクティブチームにリーダーとして成長する方法をアドバイスしているライアン・ゴットフレッドソン氏によれば、実際にリーダーを駆り立てている恐怖は、面目を失うことや失敗を犯すことへの恐怖だという。

非常に優れたリーダーは正反対のマインドセットを取り入れており、「困難に足を踏み入れ、失敗を犯すことさえ厭わない。なぜなら、その過程で多くのことを学べると考えているからだ」と、ゴットフレッドソン氏は話す。

「彼らが重視しているのは結果ではなく、目的を達成し、他者のために価値を生み出すことだ。彼らは自分の力とエネルギーを他者と分かち合うことで、リーダーシップを発揮している」 。

[原文:A third of managers harbor unconscious fear, leading to $36 billion productivity loss]

Hailey Mensik(翻訳:佐藤 卓/ガリレオ、編集:分島翔平)