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アニメ・エンターテイメント企業のクランチロール(Crunchyroll)が、新しい小売体験を提供するため、ウォルマート(Walmart)と提携する。

2020年にソニー(Sony)に12億ドル(約1800億円)で買収されたクランチロールは、アニメコンテンツのストリーミングサービスでもっとも知られており、1200万人以上の有料ユーザー数を誇っている。しかし、ビジネスにおける大きな部分はコマースだ。アニメとマンガに関するあらゆるものを扱うオンラインストアがあり、何年にもわたって独占商品の販売や体験の提供を行ってきた。

今度は、クランチロールファンショップ(Crunchyroll Fan Shop)という4フィートのポッド(販売ブース)を通して、さらに多くのアニメ愛好家とつながろうとしている。このショップは、2400を超える店舗で近日中に運用開始され、DVDや、フィギュア、バイナルなどのグッズを扱う。また、ストリーミング数をさらに増やすための新しい試みとして、サービスに対する定額制ギフトカードも販売する。

アニメとマンガに特化しているという優位性



クランチロールのビジネスにおいてコマースは何年も前から行われてきたが、これはまったく新しい分野だと、グローバルコマース担当シニアバイスプレジデントのミッチェル・バーガー氏は語る。「小売でこのような試みをしたのは初めてだ」と同氏は述べる。過去には個別のマーチャンダイズについて、小売業者やオンラインショップと提携したことはあるものの、ブランド独自の店舗内ストアのコンセプトをこのような規模で立ち上げるのは初めてのことだ。

バーガー氏によると、このパートナーシップは、ウォルマートがアニメ体験で協力できるパートナーを探していたことから生まれた。「ウォルマートはこれに大きな機会を見出した」と、同氏は述べる。両社は共同で店内ポッドのコンセプトをまとめ、ウォルマートによるトレンド分析と総合的な需要データに基づいてグッズを製作した。

ブルームバーグ(Bloomberg)によると、アニメコミュニティは200億ドル(約3兆円)の業界であり、その熱烈な性質を考えると、ポッドのデザインとフィーリングがもっとも重要だったとバーガー氏は語る。そのスペースは「クランチロールらしさが感じられなければならない」と、同氏は述べている。

ガートナー(Gartner)で小売業を担当するディレクターアナリストのブラッド・ジャシンスキー氏によると、これはウォルマートにとって必ずしも新しいタイプのコラボレーションではないという。大手小売業者である同社は昨年、Netflixと提携し、2000を超える店舗に商品やギフトカードを販売する実店舗を設置した。「これも同様のアイデアだと思われる」と、同氏は述べている。

しかし、クランチロールはその専門性で優位に立つ可能性がある。Netflixは現在2億4700万人を超える有料会員を抱えているが、複数のジャンルにまたがる番組を持つ幅広いストリーミング企業だ。これに対してアニメとマンガを専門としているクランチロールは、「はるかに特化している」と、ジャシンスキー氏は述べる。

ウォルマートにとって、アニメに焦点を当てることは、若い買い物客を引き付ける可能性がある。CBRによると、Z世代はほかのどの世代と比べても、アニメファンの数がもっとも多い。「アニメは全世界で伸びているが、若い層において人気が高まっている傾向がある」と、ジャシンスキー氏は述べている。

メディアビジネスの辿る道



このパートナーシップは多くの点で、メディアビジネスの自然な流れだ。フォレスター(Forester)のバイスプレジデント兼プリンシパルアナリストを務めるスカリタ・コダリ氏は、「これは、成功した多くのメディアフランチャイズが辿る道であると思われる」と米モダンリテールへのメールに記した。「メディアが成功すれば、消費者向け商品に進出し、多くの場合はライセンス化されたアパレル、学用品、家庭用品などに拡大する」。

コダリ氏は、将来的にこのような種類のIP(知的財産)パートナーシップが大手店舗で行われると見ている。同氏は、「バービー(Barbie)やディズニー(Disney)映画と同じだ。キャラクターの絵が付いたソックスのような商品を売る方が、知らないブランドの一般的な商品を売るよりも簡単だ。クランチロールは単なる『ストリーミングサービス』ではない。マーベル(Marvel)やディズニーと同様のメディア企業だ」と述べる。

バーガー氏は、2024年中はこのような配置をテストし、様子を見る予定だとしている。同氏は、定額制ギフトカードを販売することにもっとも期待している。これは、今までに行ってこなかったものだ。「これはおもしろいコンセプトだと思う。結果が楽しみだ」と同氏は述べる。

ベストバイ(Best Buy)のような小売業者がDVDのようなエンターテイメント商品から離れつつある一方で、クランチロールのような業者はファンダムに直接リーチすることにチャンスを見いだしている。これは、アニメの世界では特に重要だ。

「アニメファンにとって、アニメはライフスタイルだ。我々は、単にファンにストリーミングのプラットフォームを提供するだけでなく、ファンダムを表現する機会を与えることに全力で取り組んでいる」と、バーガー氏は述べている。

[原文:Anime streaming service Crunchyroll partners with Walmart on in-store pods]

Cale Guthrie Weissman(翻訳:ジェスコーポレーション、編集:戸田美子)
Image via Crunchyroll