住宅ローンの先行きをめぐり、住信SBIネット銀と楽天銀とで判断が割れている(記者撮影)

ネット銀行で双璧を成す住信SBIネット銀行と楽天銀行は11月7日、そろって今2024年3月期の上期(2023年4〜9月期)決算を発表した。経常利益は住信SBIが163億円(前年同期比14%増)、楽天銀が225億円(同25.4%増)と、ともに快走を続ける。

好調の影で浮き彫りとなったのが、「住宅ローン」に対する両極端の姿勢だ。3月末と比較した9月末時点での残高は、住信SBIネット銀が10%超増加したのとは対照的に、楽天銀は微減となった。低金利政策が転換しつつある中、住宅ローンの先行きをめぐる銀行の判断が割れ始めた。

金利上昇は得か損か

「今後の金利上昇を考えると、アセットの伸び(運用資産の増加)はとても重要だ」。

住信SBIネット銀の円山法昭社長は7日の決算説明会で、力を込めてそう語った。同行の9月末時点における住宅ローン残高は5.8兆円で、3月末から5749億円増加した。

先高感のある国内金利の先行きにも、期待をにじませる。「(現状マイナス水準の)短期金利が0.25%まで上昇すれば、(利ザヤの拡大を通じて)収益が45%増える。0.25%程度の上昇であれば、住宅ローンの需要が減ったり、貸し倒れが増えたりすることは想定しない」(円山社長)。

他方、金利上昇に対して身構えるのが楽天銀だ。

「金利が上がれば、住宅ローン関連の貸し倒れが増える可能性が高い。もともと、中所得・高所得の顧客に絞って住宅ローンを提供していたが、今後はターゲットとする所得層をもう一段上げる」と、楽天銀行の永井啓之社長は同日の決算説明会でこう説明した。

同行の9月末時点の住宅ローン残高は8394億円と、3月末から46億円減少した。カードローンや法人融資、買入金銭債権などそれ以外の残高が伸びる中で、唯一の減少だった。「金利が上がったとしても確実に返済できる顧客に絞った結果、住宅ローンの実行件数が減った」(永井社長)。

住宅ローンは金利競争が激しいため、利ザヤの拡大をもたらす金利上昇については、銀行にとっては本来歓迎すべき出来事だ。貸し倒れが増えたとしても、担保物件を売却して資金を回収しやすく、大きなリスクになるとは考えられていない。

それでも、住信SBIネット銀が今後も住宅ローン実行額を拡大させる構えに対して、楽天銀はそれとは真逆となる、住宅ローンの絞り込みを全社方針として掲げる。

住宅ローンに対する戦略の相違

方針が対照的となった背景には、住宅ローンに対する戦略の相違がある。

住信SBIネット銀は、貸出金の8割を住宅ローンが占める。申し込み手続きを代理店に委託することで、事務コストを削減。審査にはAI(人工知能)を駆使し、貸し倒れの発生を抑制している。薄い利ザヤを見越して、経費圧縮や信用リスクの低減を図りながら、貸出残高を拡大させて収益を上げているというわけだ。

対する楽天銀は、住宅ローン金利の過度な引き下げには消極的で、2022年頃から住宅ローン残高の伸び率が鈍化していた。代わりに注力するのが、投資用マンションローンやカードローンといった「ミドルリスク」資産だ。貸し倒れリスクは高いが、厚い利ザヤが見込める。


利ザヤを重視する楽天銀の方針を象徴するのが、カードローンの保証(金を借りた人が返済できなくなったとき、第三者が借主に代わり返済する保証)を2020年に外したことだ。

楽天銀のカードローンには、元々楽天カードが保証を付けていた。楽天銀が楽天カードに保証料を支払う代わりに、万が一貸し倒れた場合は楽天カードが損失を肩代わりするリスクヘッジ策だった。カードローンの利回りは10%程度で、楽天カードへの保証料は5%。つまり、楽天銀の手残りは5%となる。

2020年4月からはその保証を外し、自ら貸し倒れリスクを負うことを選んだ。楽天銀によれば、カードローンの貸倒率が足元では3%以下で推移している。5%の保証料を支払うよりも、自らリスクを追って3%の貸し倒れを甘受するほうが得だと踏んだ。

運用利回りと資金調達利回りの差である総資金利ザヤを比較すると、9月末時点で住信SBIネット銀は0.13%に対して楽天銀は0.53%。低利の住宅ローン市場で覇権を握ろうとする住信SBIネット銀と、ミドルリスク・ミドルリターンを求める楽天銀の姿勢が数値に表れている。

楽天銀の住宅ローン離れには、別の事情も見え隠れする。あるネット銀関係者は「融資手数料への依存度が異なる」と指摘する。

昨今の住宅ローンは金利が低い代わりに、顧客が借り入れ時に融資手数料を支払う商品が主流だ。住信SBIネット銀の手数料は借り入れ額の2.2%で、5000万円の融資を受ける場合は110万円を支払う。対する楽天銀は借り入れ額にかかわらず、一律30万円。手数料への依存度が低い楽天銀は、住宅ローンを絞る抵抗が薄かったと言える。

楽天銀のほうが先に金利が上がる?

日本銀行は早ければ来春にも、マイナス金利を解除する観測がある。国内金利が本格的に上昇に転じた場合、楽天銀の住宅ローン金利の方が先に反応しそうだ。

住宅ローン金利は、基準金利から顧客属性に応じて優遇幅を引き下げた水準が実際の適用金利となる。住信SBIネット銀、楽天銀の両行とも変動金利型が大半を占めるが、優遇幅は契約時点で決まっているため、実行済みの住宅ローン残高の金利水準は基準金利の動向が左右する。

基準金利は住信SBIネット銀が最優遇貸出金利を指す短期プライムレート(短プラ)、楽天銀が市場金利にあたるTIBOR(東京銀行間取引金利)を参照している。

一般に、金利上昇局面ではTIBORが迅速に追随する一方、2009年から横ばいの短プラは、現状マイナスの短期金利がゼロないし2009年当時の0.1%水準に戻っても反応しない可能性がある。つまり住信SBIネット銀よりも、楽天銀のほうが基準金利が先に上がりそうなのだ。

はたして住宅ローンの貸し倒れは増えるのか。住信SBIネット銀と楽天銀のどちらの見立てが正しいか、早ければ来年にも明らかになりそうだ。

(一井 純 : 東洋経済 記者)