痛みと睡眠の関係は密接で、痛みが原因で寝付けないというケースもあれば、睡眠不足によって頭痛や全身の痛みが引き起こされることもあります。マウスを用いた研究により、慢性的な睡眠不足が痛みに関連した脳の部位に悪影響を及ぼすことがわかりました。

The endocannabinoid N-arachidonoyl dopamine is critical for hyperalgesia induced by chronic sleep disruption | Nature Communications

https://www.nature.com/articles/s41467-023-42283-6

Research reveals how sleep disruption can exacerbate pain

https://www.massgeneral.org/news/press-release/research-reveals-how-sleep-disruption-can-exacerbate-pain

There's an Important Reason Disturbed Sleep Makes Everything Hurt More : ScienceAlert

https://www.sciencealert.com/theres-an-important-reason-disturbed-sleep-makes-everything-hurt-more



痛みが慢性的に続く「慢性疼痛(とうつう)」は全成人の11〜40%が経験しているといわれており、不安や抑うつ、そして睡眠障害などさまざまな合併症と関連しています。また、アメリカでは成人の3分の1が睡眠障害や睡眠不足に悩まされており、慢性疼痛を抱える人は睡眠障害を経験する可能性が特に高いとされています。

以前、痛みの感覚には「視床網様核」という脳の部位が関わっていることを突き止めたマサチューセッツ総合病院のShiqian Shen氏らの研究チームは、マウスを使った今回の研究で睡眠不足がどんな痛みに関連しているのかについて調べました。



実験では、5日間連続して睡眠を遮断されたマウスは、痛みに対する反応を測定するテストで高い感度を示しました。そして、そのマウスの脳波を測定したところ、視床網様核内にある痛みや接触、温度などの感覚を伝達するニューロンが過剰に活性化していることが判明しました。

さらに、睡眠不足になったマウスの脳の代謝を調べたところ、N-アラキドノイルドーパミン(NADA)という物質が比較対照となったマウスより少ないことがわかりました。

NADAとは、体内で合成されるマリファナに似た神経伝達物質である「内因性カンナビノイド」の一種です。

研究チームが、NADAを睡眠不足のマウスに投与したところ、異常に増加していた視床網様核のニューロンの働きが正常化し、痛みに関する反応も元に戻りました。また、内因性カンナビノイドを感知する受容体をブロックすると、NADAの有益な効果が打ち消されてしまうことも確かめられました。



内因性カンナビノイドは多発性硬化症、パーキンソン病、アルツハイマー病、てんかんなど多くの神経疾患に関与していると考えられており、今回の研究で睡眠不足に伴う慢性疼痛にも重要な役割を果たしていることが示唆されています。

研究を主導したマサチューセッツ総合病院のShen氏は「私たちは、睡眠の阻害がどのようにして痛みを強めるのかというメカニズムを明らかにしました。今後、内因性カンナビノイドを利用することで痛みと睡眠不足の悪循環を断ち切ることができるかもしれません」と話しました。