「保存はすべて紙で」「チェック&承認地獄」……こんなムダ業務に悩まされていませんか?(写真:すとらいぷ/PIXTA)

労働者人口の減少やコロナ禍に伴い、働き方に対する改革のニーズは高まり続けている昨今。業務改善、DX、AI活用など数々の手法・ツールが出てきていますが、今だに多くの企業・組織・自治体にはムダな仕事が蔓延っています。

「保存は紙の原本で」「上司と部下の印鑑リレー」……。こんなムダ業務にあなたとあなたの会社は悩まされていませんか?

富士通で業務改善のキャリアをスタートし、現在も数多くの企業への業務改善支援を行う、業務コンサルタント・元山文菜氏の書籍『無くせる会社のムダ作業100個まとめてみた』から一部抜粋し、今日からできるムダ作業の無くし方を紹介します。

紙を重視し、わざわざ出力

とにかく「紙」であることを重要視する職場があります。

これはハンコ文化とセットで日本企業に染めついた文化的な背景にもあります。仕事やプライベートにかかわらず、私たちは長らく公的な文書や重要な書類を交わすときには「偽装がしにくいように朱肉の押印が必要だ」と言われてきました。

資料に機密事項の書類が混ざっている場合には、1日かかって準備した資料を今度は1つひとつシュレッダーにかけて廃棄させている職場も多く存在します。

紙代、印刷代、印刷機器の費用、保管するためのスペース費用、ファイル代にホッチキス代に、郵送費、印紙税、そしてそれらを作成したり購入するのにかかる私たちの人件費……。多大なコストがかかっています。そして、いつでもどこでも閲覧できない働き方への制約も無視できません。

そこでまずは「紙」への郷愁に浸るのはやめましょう。

紙の文書を電子化する意識を持ってください。従来は紙に印刷していた情報を電子ファイルやデータで保管し利用するようにします。会議資料は事前にデータ共有、当日は自身のPCを持ち込んだりプロジェクターに投影させる。現代の会議準備とは、美しく揃った紙と華麗なるホッチキス留めではありません。

また、紙でやっていた承認や決裁をスマホやPCで実施する「ワークフローシステム」。契約書の印刷や袋とじに時間をかけなくても「電子契約システム」があれば電子上で契約を完了することができます。これにより、印紙税のコスト削減はもちろんですが契約締結までにかかる時間が短縮できます。

また「わざわざ出力」のムダ作業を効率化すると、大量のデータが集められるようになります。

例えば、名刺情報をデジタルデータ化している企業はそのデータをどのように活用するのかを考えられます。営業日報(商談の進み具合、誰と連絡を取り合ったのか、どんな資料を見せたのか)、売上管理(受注金額、売上、利益)、メルマガやDM履歴などのデータを組み合わせながら分析して、最適な商談方法を検討したり、部下の育成につなげることも可能です。

「紙」からの卒業で日々の仕事を楽にして、新しい仕事の価値を創っていきましょう。


(『無くせる会社のムダ作業100個まとめてみた』より)

「なんでもルール化」の弊害

日々仕事をしていると職場の中にたくさんのルールが存在することに気付きます。ルールがあることで、混乱やトラブルが回避されたりチームメンバーが一貫した方法で仕事を進められるので一定の品質を保ったサービスの提供が成り立ちます。

だからこそ、ルールは守られなければ意味がありません。

職場全体に浸透させて、そこで働く人たちに覚え続けてもらう必要があります。その上で、 ルールが破られた場合には罰則や対策が必要になるので、ルールが守られているかの監視の手間がずっとかかります。

そもそも、ルールを作ること自体にも莫大な時間がかかります。

ルールがたくさんあればあるほど、それを管理して覚えてもらい、守っているのか監視し続け、破られたら罰則を適用。一度ルールを作ると、そのルールを守るためのルールが作られ、またそのルールを守るためのルールが作られ……と、気が遠くなるほどのハイコストなのです。

それにもかかわらず、何か新しいことを始めようとしたときに「まずは、しっかりとルールを作りましょう」となるのは珍しいことではありません。

このように「なんでもルール化」は、地縛霊のように生き続けて組織全体に閉塞感をもたらします。思考停止で「ルールを作りましょう!」と安易に言うのは危険です。

それでも覚悟を持ってルールを作ると決めた場合には、ルールを問題児に合わせるのはやめましょう。

「こういう人の場合はどうするか」「こんなリスクもあるのでは」と言い出してしますと、どんどん増えて細かくなってしまいます。まずは、あるべき姿を思い浮かべ、それを目指すためのルールを作るのが大切です。


(『無くせる会社のムダ作業100個まとめてみた』より)

チェック地獄でスタンプラリー状態

提出した見積書にミス、再発防止にダブルチェックを徹底!

既にダブルチェックしてるならトリプルチェック!

信じられないかもしれませんが本当の話です。

日本企業は、このようなムダな確認作業が大好きで、あらゆる業務を沢山の段階でチェック&承認する仕組みを作りたがります。

有給取得を依頼するだけなのに課長や部長までの承認が必要だったり、数千円の経費の承認に対して、複数の上司や部門の承認が必要な場合など、仕事を進めるのにたくさんの押印が必要になることから「スタンプラリー」と皮肉られることもあります。

このようにチェックが増えるキッカケは何かしらのトラブルが生じた場合や、法改正が起こって対応を迫られた場合など理由はさまざまです。

そのようなときに「再発防止策としてダブルチェックを始める」と言えば、深く考えたり仕組を改善しなくてもひとまず対策したことになるので気楽なのです。

また、チェックする人数が増えると「ミスが起こったときに自分だけの責任にならない」安心感もあります。無意識にも「みんなでやっている」「みんなで決めた」そんな連帯感を満たしてくれるのです。

一方、皮肉なことにミスが起こる原因の9割は思い込みです。チェックする人数が増えると逆に、「たくさんの人が見ているから大丈夫だろう」「他のチェック担当はしっかり者だし、大丈夫だろう」という心理が働きます。

その上、前の人が終わらない場合に次の人は作業に取りかかれないという業務の流れに淀みを発生させます。

手間がかかる承認作業で業務停滞

そしてこれは承認作業も同じです。1つひとつの承認の観点が曖昧なため、職場にて同じような観点で何度も承認を繰り返しているだけのムダが発生しています。いくら回数を増やしても、統制機能を担っておらず手間ばかりかかる割に業務停滞(ボトルネック)を生みます。

そこで、まずは思考停止でチェックや承認を増やさない心構えが大切です。業務プロセスを見直したり仕組みに問題がないのかを考えない限り抜本的な解決はありません。

まずは気軽に業務ステップを追加しないでください。どうしてもプロセスの追加が必要なときには「見る範囲」を決めてください。


たとえば、最初の承認者は書いてある内容や添付されている領収書の証跡に間違いがないのか、内容が一致しているのかどうかだけを確認する。

次の承認者は、使用用途や場所に問題がないか、営業戦略の観点から取引先や金額が正当かを確認する。このように「見る範囲」をしっかりと決めると、判断をできる人が明確になります。そうすると、責任とその範囲が明確になるのです。

このような形で承認プロセスを作ると少ない承認者できちんと統制できるようになります。

その上で、もう一歩踏み込んで考えていただきたいのが、最初の承認者が行っている作業です。

このステップは単純な照合作業に過ぎません。これは人間がやるよりもロボットのほうが圧倒的に得意な仕事です。RPAを使っても良いでしょうし、Excelなどをプロセスに追加すれば簡単な関数で処理が完了します。

人間は感情の生き物です。悲しいことがあったり、眠たかったり、逆
にテンションが上がっていると集中力が散漫になります。だからこそ、思考停止で業務を増やさないでください。仕組みで解決をはかりましょう。


(『無くせる会社のムダ作業100個まとめてみた』より)

(元山 文菜 : リビカル代表取締役 業務コンサルタント)