マーケティング活動に利用できるデータやチャネルの種類が増えている。ブランドのパフォーマンス測定の分野でも、標準的なKPI以外の指標が新たに開発され、レポートに記載されるようになった。

米DIGIDAYが今回、4つの組織(エージェンシーおよび業界団体)に取材したところによると、関係者は、クリエイターやインフルエンサーの影響力、総合的なブランド好感度といった指標に注目しているようだ。

ブランド愛着度の測定



独立系エージェンシーのザ・シップヤード(The Shipyard)は今年2023年、ブランド愛着度を総合的に測定するための新たなデータ分析ツール、「パルス(Pulse)」を発表した。同社がオハイオ州立大学(Ohio State University)のフィッシャー経営大学院(Fisher College of Business)と提携して開発したこのツールは、カスタマージャーニーにおけるブランドとの接点として、ブランド認知からロイヤルティ到達までに経験する4つの段階(Attraction、Affection、Passion、Commitment)を設けている。

「ブランド愛着度を測る既存の指標は、ソーシャルメディアや意識調査など、消費者による情報発信やコメントにもとづいて、ブランドの全体的印象(センチメント)を判断するものだ」と、ザ・シップヤードでデータ戦略ディレクターを務めるブレーク・ウィリアムズ氏はいう。「その方法で収集した情報はパズルの1ピースに過ぎず、誤った認識につながるおそれがある」。

ウィリアムズ氏はこう説明する。「リード創出、営業活動、消費者によるブランドへの愛着の表現といった具体的な行動が、ブランドの利益を押し上げる原動力となる。パルスの活用により、ブランド・センチメントだけでなく、人々の行動の背景を探り、消費者が特定のブランドにどれほど愛着があるか、愛着心がどんな行動で示されているか、総合的に把握できる」。

また、パルスによる分析には、ペイドメディア、オウンドメディア、アーンドメディアのパフォーマンスの測定も含まれる。ブランドとの接点4段階のそれぞれに指標が設定され、ファーストパーティデータ、セカンドパーティデータ、サードパーティデータを組み合わせてスコアを算出する。

クリエイターの影響力



インフルエンサーを活用した施策を展開するブランドやエージェンシーが増えるなか、インフルエンサーマーケティング投資収益率の測定・分析方法の必要性が高まっている。クリエイターマーケティングプラットフォームを運営するクリエイターIQ(CreatorIQ)は今年7月、広告主向けに、クリエイターを登用したマーケティングと従来型のデジタルマーケティングによるキャンペーン効果測定を容易にする新たな指標を導入した。同社は調査会社アバディーン・ストラテジー・アンド・リサーチ(Aberdeen Strategy and Research)との提携により、1000社に上るブランドおよびエージェンシーを対象にマーケティング効果の調査を実施し、インフルエンサー/クリエイターマーケティング投資収益率の測定に取り組んでいる。

インフルエンサーマーケティング専門のリーチ・エージェンシー(Reach Agency)の共同創業者、ゲイブ・ゴードン氏によると「クリエイターマーケティングの効果はすでに証明されており、この分野への投資も進んでいるが、業界全体でみると、各社のプランニングの方法はあまり変わっていない」という。

インフルエンサーマーケティングエージェンシーのスウェイ・グループ(Sway Group)のダニエル・ワイリーCEOが以前、DIGIDAYの取材に応えて語ったように、インフルエンサーマーケティングの測定指標はここ数年で進化し、ソーシャルメディアプラットフォームからリアルタイムのデータを取得するためクリエイターに依頼して統計データのスクリーンショットを送ってもらっていた時代とは大きく変わった。

「しかし、インフルエンサー/クリエイターマーケティングの扱いがブランドやエージェンシーにより異なるため、各社が採用する測定基準が共通でない」とワイリー氏は説明する。

だからこそ、マーケティングの費用対効果という観点からの現状把握が広告主にとって重要になると、ワイリー氏は指摘し、「分析ツールは、ソーシャルメディアへの投稿の影響力をリアルタイムで表示してくれるため、契約クリエイターのパフォーマンスの推移や、マーケティング施策が目に見える成果を上げているか否かを確認する助けになる」とつけ加えた。

ブランドの包摂性とDE&Iの推進



業界団体も、調査/測定ツールの開発に乗り出している。独立系業界団体でマーケティング分野のDE&I(多様性、公平性、包摂性)を推進するブリッジ(Bridge)は、グローバルブランド約20社の経営幹部を対象にインクルージョン(包摂性)の調査を実施し、それぞれの組織における現状のギャップを洗い出した。

「従来の測定指標には明らかに限界がある」と、ブリッジの創設者兼CEOのシェリル・デイジャ氏はいう。「ブランドごと、企業ごとのビジネス慣行を踏まえたインクルージョンの成熟度を測る枠組みが存在しない」。

ブリッジの「Inclusion Maturity Assessment and Capability Building Program」は、企業の業務活動における72の側面を取り上げて「インクルージョン成熟度(inclusion maturity)」を評価するプログラムで、キャンベル(Campbell’s)やセフォラ(Sephora)など複数のブランドでテストを実施中だ。

またブリッジの学術部門では、ソーシャルメディア投稿に表れたブランドのダイバーシティに着目し、トップブランド200のアカウントで人種、頭髪、健常者、障害者などに関するトピックがどの程度言及されているかを分析している。たとえば、視覚障害に関する情報はほぼ皆無だという。

こうした取り組みが長期的には、企業がDE&I推進において特定の人物や部門への依存から脱却するための一助となるはずだと、デイジャ氏は語る。「ダイバーシティ担当、マーケティング担当、CDO、CMO、CEOなど経営幹部が力を合わせれば強固な体制ができあがる。企業やブランドは、よりインクルーシブな組織の確立に向けて前進するだろう」。

[原文:How agencies are measuring impact for brands beyond the classic core metrics]

Antoinette Siu(翻訳:SI Japan、編集:分島翔平)