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埼玉で1公演、東京と大阪で2公演ずつ行われた『30th Anniversary Yuki Kajiura LIVE vol.#18 〜The PARADE goes on〜』。そのタイトル通り、梶浦由記による「Yuki Kajiura LIVE」(以降「YK LIVE」)の18回目にあたり、また、1993年に「See-Saw」としてメジャーデビューを果たして以降、数々の映画・ドラマ・アニメで劇伴や主題歌を担当してきた梶浦の30周年記念ライブの位置づけにもあり、さらには去る4月にFictionJunction名義でリリースされた3rdアルバム『PARADE』のリリースツアーにもなっている。“goes on”(〜は続く)の言葉が示すように、音楽を積み上げてきた梶浦由記のさらなる邁進を宣言するかのように、YK LIVEとしても集大成といえる5公演であった。そのうちの東京公演二日目を題材に、YK LIVEが生み出す極上の時間をあらためて見つめてみたい。ようこそ、この素晴らしきパレードへ。

TEXT BY 清水耕司



暗闇の中、アルバム『PARADE』の1曲目である「Prologue」がovertureとして流れる。ステージ上にライトで描かれる色とりどりの円。バンドメンバーと梶浦がそれぞれのポジションにつき、歌姫がステージ前方に立つ。始まったのは「Prologue」とセットで作られた「ことのほかやわらかい」。もっとも上手にいるバイオリンの今野均がソロを奏でたあと、ステージ全体が明るく照らされると、下手からJoelle、YURIKO KAIDA、KAORI、KEIKOが、デザインは違えども白、黒、ピンクで統一された衣装で立つ姿を見ることができる。そしてステージ中央でピアノの前に座る梶浦。その衣装は背中側にテールが長く流れ落ちており、そのワインレッドが強く目に飛び込んできた。歌い出しは4人で。そこからKEIKOが引き継ぎ、KAORIが加わり、Kaidaが重なり、その後もJoelleとKAIDA、KEIKOとKAORI、4人が歌声で組み合い、離れていく。主従を問わず愛情表現豊かなJoelle、有無を言わせぬハイトーンで空間を魅了するKAIDA、欠かせない低音をミドルボイスで支配するKEIKO、ハイからローまで変幻自在で強靭なKAORI。4人はときにセッションを見せ、あるいはソロを担当する。仏教で地水火風を四つの蛇(よつのへみ)と言い表すことがあるが、四つの歌声が絡み合うように結びついて、次々と歌を紡いでいく。

2曲目は、SEと、単音を響かせるギターからの「夜光塗料」。アルバム『PARADE』ではボーカルにASCAを迎えたが、ここではritoがまた異なる寂しさをまとい、それでいて瑞々しい歌声で愛らしさも加えながら表現していく。ステージ後方にある階段上で、白一色の衣装に黒いベストを合わせたritoは手を大きく動かして歌う。ステージ前方に立つ歌姫は3人に。ときに目線を合わせながらritoの歌声にそれぞれが寄り添い、ritoも背中を押されるように伸びやかなソロを聴かせてくれた。



「storytelling」の始まりを担ったのはKAORIだった。躍動感と安定感を備えた歌声をリズミカルに繰り出され、梶浦の楽しそうなクラップにつられて客席も手を打ち始める。KAORIはAメロの終わりから入ったKEIKOを良き相棒に大きくボーカルを上下させ、KAIDAが時折交わり、会場を大きく盛り上げてから1度目のMCを迎えた。梶浦はフロアへの挨拶、すでに登場した5人の歌姫とここまでの3曲を手短に紹介し、いつものように「お水飲みまーす」「お水飲みました」と気の置けない感じで客席との距離を縮める。MC後は「もう君のことを見たくない」。ドラムがハイハットでカウントを刻むと、ピアノとボンゴ、バイオリンによる冒頭が流れ出す。今回はritoとKEIKOでのスタート。ピアノパートに休息が訪れると梶浦は手を休めて二人を幸せそうに見つめる。ritoのソロで始まった2番から歌声の感情はさらに高まり、KEIKOは、表情と全身でも歌詞の意味を表現しながら歌い上げていた。一方、間奏やコーラスで聴こえるKAIDAとJoelleの歌声は水面に広がる波紋のごとく染みわたり、楽曲の持つ表情を濃いものとしていた。

次の「凱歌」について梶浦は、曲名に反して「あまり勝ち誇っていない」と称したが、まさにKEIKOが不穏に、Joelleが緊迫感ある歌声での始まりだった。KAORIがさらに圧を加えて進む中、KAIDAが星空まで届きそうなコーラスを響かせる。ギターのひずんだソロに乾いたボンゴ、地底を流れるバスドラ、繰り返される一定のリズムの上で羽ばたく歌声に酔いしれていると一瞬、Dメロを歌うところでKAORIとKEIKOだけが真紅のライトによって浮かび上がる。そしてJoelleとKAORIのボーカルに対し、KEIKOが下を走り、KAIDAが上を漂い、最後は勝利に向かう野性味あふれる歌声で終えた。次曲と次々曲は共にアルバム『FICTION』からの英語曲、「cynical world」と「key of the twilight」だ。前者は、フロアタムとボンゴが響く中でJoelleの歌声から。間奏では、ステージの階段上にフルートの赤木りえが現れる。その音色とメロディに加え、とんがり帽子を目深にかぶって頭の先からつま先まで魔法使いが着るようなローブ、という様相(梶浦曰く「カジー・ポッター」)に不穏な空気は増していくようだ。間奏での、KAIDAのハイトーン+赤木のフルートという幻想的なコンビネーションに魂を奪われたあと、他3人のボーカルを受けたJoelleが弦と溶け合うように歌声を鳴り響かせ、次の「key of the twilight」へ連なる。元々は『.hack//SIGN』の挿入歌として書かれ、アコースティックギターやバイオリンの音色が民族的な空気を漂わせる一曲。この夜も原始的なリズムに呼ばれ、会場からはイントロから自然とクラップが発生していった。楽曲をリードするのはJoelleとKAIDA。落ち着いた二声にKEIKOとKAORIが連なっていく。間奏でバイオリンソロが軽やかに舞い、ボンゴが歌ったあとにJoelleとKAIDAとKAORIの三声と化し、そこにKEIKOが加わる。曲が佳境を迎えた頃、JoelleとKAIDAは互いを見つめながら世界に光が差し込むような歌声を響かせていた。



次のMCでは、ここまでの3曲の曲名を告げたあと、ツアーの演奏を支えるバンド陣の「Front Band Member」の紹介に。梶浦はメンバーに対して、その人となりを観客に知ってもらうため、事前にアンケートを実施。紹介と合わせてその回答を読み上げていった。アンケートのテーマは「あなたがあなた自身に定めている三つのルール」。梶浦によると、デビュー30周年(梶浦は自身でこの言葉を口にするとき、照れて両手で顔を覆っていた)ということで探していたら見つけた「三従」という言葉から、このお題を考えたらしい。問われたバンドメンバーが毎日欠かさない三つとして挙げたものは、ストレッチ(高橋 “Jr.” 知治、赤木りえ)や腹筋150回(是永巧一)といった身体的なもの、あるいは、自宅周りのほうき掛けや自宅仕事場の整理整頓(高橋)、車では裏道を使わず・エスカレーターを使わず・遅刻をせず常に余裕をもっての行動(佐藤強一)、人の噂話に口を出さない(今野均)といった心がけが多く、各メンバーは健やかなる心身の維持に努めていることがわかる。是永巧一と赤木りえが挙げた、愛猫と戯れるも同様だろう。

MCの最後に梶浦は次の曲を紹介。それはセルフカバーバージョンを『PARADE』に収録した、「それは小さな光のような」。原曲は現代少年少女感のある編曲だったが、カバーは梶浦らしく幻想的にアレンジ。その曲を自らのピアノソロでスタートさせた。メインでボーカルをとるのはKEIKO。ソロシンガーとしても走り出した彼女はこの日も、下支えしながら大きなパフォーマンスで観客を盛り上げてきたが、ここではさらにステージに華やかさを与えていた。KAIDAとKAORIを従えながら突き進んだあと、終盤ではその二人に受け渡し、KAIDAのソロが歌のフィニッシュを決めた。最後は梶浦のピアノソロで締めた。続く「八月のオルガン」はLINO LEIAにあて書きされた曲。その彼女が階段上にピンクのスカーフマフラー、膝上ワンピースで姿を現すと、バイオリンに合わせて弾けるような高音を惜しみなく聴かせていく。KAORI、Joelle、KAIDAが入れ替わりながらLINO LEIAと競演し、KEIKOも激しい展開の中でしっかりと彼女を追従する。

強く歌い終えたLINO LEIAが階段を降りてステージの最前端に並ぶと、『Everlasting Songs』収録の「cazdor del amore」が。この日以外では大宮と大阪の二日目で披露され、他方、東京と大阪の1公演目では同じくFictionJunction YUUKAの楽曲「荒野流転」をカバー(rito歌唱)。軽やかだが焦燥感あるバイオリンソロが迫るイントロの中、可愛い振付で動いてみせるLINO LEIAとKAIDA。今回のライブにおける最少人数構成で届けられる楽曲だ。衣装をつまんで踊り、ピンクを振りまくLINO LEIAのファルセットにファルセットで応えるKAIDAなど、素晴らしい共演に大きな拍手がフロアから贈られた。



楽曲終了後、梶浦が代表しての「ありがとうございます!」を経て、ステージ上には6人の歌姫が揃った。今度は、歌姫たちの人となりを知ってもらうMCコーナーへ。歌を終えたばかりのLINO LEIAから「三つのルール」に答えていく。彼女の三種の神器は、ストレッチ、ハーブティー、納豆。のちにKAIDAもストレッチとピラティスを、織田がライブ前夜と当日朝の入浴でのどの状態を確かめるなど、やはりアーティストの資本である体を意識した答えが並ぶ一方、ritoは家族と必ず連絡を取る(実際には毎日どころか1日10回以上も連絡を取るらしい)、KEIKOは起床するとすぐに右手に電動歯ブラシ&左手にダ○ソン掃除機を持って活動し始めるという独特の答えも。KEIKOはKalafina時代にHikaruと大変なことになったので前日にカレーは食べないという回答も寄せていた。またKAIDAが、やらずの後悔は嫌なので周囲を気にせずに思ったことはすぐに行動する、というルールを宣言したとき、梶浦は自身を顧みて「めちゃめちゃ想像して、やった気になるところがある」ので、見習いたい旨の発言もあった。

MC明けにはFictionJunction YUUKA楽曲の「暁の車」を用意。再び、LINO LEIAによるカバーを届け、し、ライブをMC前のルートに戻す。ピアノソロによるイントロ、そしてLINO LEIAの歌い出しをスポットライトが照らし、二人だけの時間がしばらく続く。「哀しみに染まらない白さで」からはKAORIが入るがあくまでもサポートに徹する。梶浦楽曲の中ではメインボーカルを際立たせた、シンプルでストレートな「暁の車」をLINO LEIAは自分らしく、あたたかみのある歌として送り出す。そんなLINO LEIAと入れ替わる形で階段上にはJoelleが登場し、次なる「優しい夜明け」に。上手側にいる赤木がフルートを利かせ、Joelleと共演するAメロ。続くBメロからはピアノ前のKAIDAが両者を取り持つように加わり、歌姫二人の声は吸いつくように重なっていく。間奏で階段を下りたJoelleがKAIDAと向かい合わせの位置へ立ち、2番のBメロでは二人が向かい合って歌う姿を客席は見つめる。ラストは、ピアノとフルートとバイオリンの3者がそれぞれにメロディを奏で、並んだJoelleとKAIDAは並んで手と体を大きく揺らす中で楽曲は終わった。



聴こえてきたのはハイハットのカウント。ステージ前方にはJoelle、KAIDA、KEIKO、階段上にKAORIというポジションで迎えたのは「君がいた物語」。JoelleとKEIKOによる高低に力のあるコーラスワークを聴きながら高みからKAORIが力強いソロでAメロを歌い始める。高音から低音まで自由自在な歌声を聴かせたあと、サビでは満を持してKEIKOと声を合わせる。終盤でのKAORIのロングトーン、JoelleとKEIKOによるコーラス、聴きどころをいくつも迎えるとKAIDAが異なる次元からのハイトーンですべてを覆い、2連続のSee-Saw楽曲が終わる。

続く曲がわかるとフロアはすぐさま総立ちに。「zodiacal sign」だ。だが、この曲で客席以上にいつも心たぎらせているのは梶浦だ。手振りを交えながら力強くファンに向けて指先を示し、コーラスにも力強く声を乗せていく。そんな梶浦に負けじと歌姫は全員でステージの前方、際の際まで足を進め、観客に触れそうな距離で歌を聴かせる。KEIKOはコーラスながら大きく縦ノリを見せ、会場はボンゴのソロに手拍子を合わせる。体を揺らしていた赤木がソロを決め、下手にいたKAIDAも上手のスピーカー前まで来てからの美声、と縦横無尽に駆け回る歌声とパフォーマンスに、会場は期待以上の盛り上がりを受け取っていた。

だが曲が終わっても、間髪入れずにハイハットがカウントを刻んでクラッシュシンバルを鳴らす。今度は「stone cold」だと察知した観客は一層高揚感をあらわにする。「key of the twilight」と同じく15年前の『YK LIVE vol.#1』でも演奏された曲でもある。長く自分たちを楽しませてくれる楽曲にファンは笑顔を見せ、ファンを愛する梶浦はさらに笑顔満面となり、ステージ上の誰よりも力強く手振りを見せた。客席への指差しも力強く、確実に特定の「あなた」に向けられていた。梶浦に指差された」「目が合った」と感じたファンも多かっただろう。気が付けばKEIKOもしゃがんで客席との距離をさらに縮めていた。ステージの上下を問わず盛り上がる中、主メロを担うKAORIにスポットライトが当たる。さらに客席を一押しする歌声を発し、続いてKAIDAのラストファルセットを迎え、歌姫たちはセンターで大きくジャンプして楽曲を閉じた。

万感の拍手の中「ありがとうございます」を繰り返す梶浦。観客の一人が発した「最高!」の声にも反応し、「ありがとうございます! みんなも最高!!」と声を上げる。その後、「今回のセットリストは熱々で早いんですよ」と告げると、次曲の「moonlight melody」について少し言葉を続けた。アルバム『PARADE』には「ちょっとお姉さん」のアレンジで収録し直したことを話し、それから「みんなで歌いたい曲だなって思いながら作っていたんですよ。(コロナ禍以前の)何年か前は一緒に歌ってはいたんだけど。もしできたら、ワルツのリズムを感じながら歌ったり、踊ったり、一緒にしていただけると嬉しいな」とささやかなお願いをする。

ウインドベルとバイオリン、フルート、そしてピアノの音で作られるイントロのあと、Joelleが歌い出す。KEIKOが、KAORIが重なり、歌声でできたワルツの輪は徐々に広がっていく。サビに入った歌姫たちが軽やかにステップを踏むと、直前のMCで音楽に参加してほしい気持ちを伝えられたフロアも体を揺らしていく。ラストの「La la la」からはYK LIVEの真骨頂である、大きく広がる四声を感じ取る時間。歌姫4人がそれぞれに異なる優しい気持ちが込めた歌声は、永遠に続いてほしいと思わせる癒しの時間を作り出す。幸せな気持ちが会場全体へ広がっていったあと、始まりと同じくバイオリンとフルートとピアノソロにウインドベルでワルツのステップは足を止めた。



感激の拍手をフロアから受けとった梶浦がすぐにピアノソロを奏でる。そこにバイオリンが重なり、ドラムがゆったりと8ビートを刻む。そしてJoelleが今まで以上に聴く者を想って、「PARADE」を歌い始める。華やかなタイトルに比して切ないメロディは、パレードが永遠ではないことを伝えてくれる。Joelleと歌声を重ねるKEIKO、KAIDA。サビの前半でKAORIの声が訪れると身を引くKEIKO。サビのラストでKAORIとKEIKOが「君のparade」「僕のparade」と、そしてKAORIが「華やかに」と歌声を打ち込むところではいつも酔いしれてしまう。2番もJoelle、KEIKOが加わり、そこへKAIDAが清冽なハイトーンを注ぎ込んでくる。今度のサビは4人の歌声が重なり隊を組んでコーラスとなって会場を進んでいく。混じり合い、重なり合い、聴く者の間をすり抜ける歌姫のソロ、コーラス。4人の祝祭を讃えた歌声が、会場にいるすべての人々の胸の奥底まで染みわたっていった。



曲を終えると梶浦は「今日は本当にありがとうございました!」と声を上げ、ステージ上の全員が舞台を去る。だがすぐに再登場を待ち望む大きな拍手が。舞台上に据えられた街並みのセットがレインボーに彩られ、浮かび上がっていた。しばらくして幻想的なSEが流れ、センチメンタルな管楽器やピアノの音が鳴り、ステージに人の姿が戻ってくる。シェイカーや鈴の音が聴こえる中、階段の上に現れたのはKEIKO。Aメロ途中から穏やかなベースが加わる。「PARADE」は終わるけれどもまた次の「Beginning」につながる。「Beginning」は『PARADE』にも収録された、千葉紗子への提供楽曲のカバー。女性が持つ芯の強さを彼女の低音からひしひしと感じる。ひとときの無音のあとで泣きのギターが入り、Joelleから始まる2番へ。KEIKOは階段を降りてステージセンターへ向かいながら、Joelleと二声を作ってピアノの横へたどり着く。するとサビからはKAORIがソロを担う。そうして迎えたKEIKO、Joelle、KAORIによるラストサビのあとには、満を持してKAIDAの「La la la……」が。ゆっくりとステージから高みへと飛翔していく歌声。導かれて他3人の声も飛び立ち、融合した四声は会場全体を包み込んでいく。KAORIが「未来へ」、JoelleとKAIDAが「未来へ」、4人が歌声で「未来へ」想いを馳せる。聴いていた我々も、いつまでもYK LIVEというパレードに参加できる未来を思い描いた。

アンコール2曲目は「Parallel Hearts」。ここも日替わりで大宮と大阪の1公演目は「eternal blue」、東京と大阪2公演目が「時の向こう 幻の空」。別れを惜しむように客席を沸かせるターンだ。4人がカンタービレに歌い始めたあと、歌姫たちはパートナーを次々と変える。2番はKAORIのソロにKAIDAが加わり、BメロではJoelleにKEIKOが混ざり合い、サビ前はKAIDA・KAORI・KEIKO、サビに入るとJoelle・KAIDA・KEIKO、のようにさまざまな組み合わせで歌声を展開し、時折見つめ合い、歌が進んでいく。

YK LIVEがもたらしたものは大きい。ここまで駆け足で記述してきたように、次々とボーカリストがそれぞれの特色を生かしながら声を重ねることで生み出される「歌」。その素晴らしさに目覚めさせてくれたのがYK LIVEである。ときには演奏と交わり、ときには演奏の下に潜り込み、演奏の上に置かれるだけではなくセッションのように広がる歌声は、優れた料理のように豊かであると味わわせてくれる。また、これも記述してきたように、1番、2番と歌い手の組み合わせを変えることで楽曲の表情を豊かに変化することも教えてくれた。

最後、歌姫4人が力強く手を振り上げて楽曲の結末にたどり着くと、当然客席は拍手で受け入れ、それに応えて梶浦が「ありがとうございます」と口にする交流が生まれていた。梶浦は続けざまに思い出を語ってくれた。

「そういえば、Yuki Kajiura Liveは1stライブが渋谷だったんですよ。忘れもしない、O-WESTで。あそこもいい箱なんですよね、で、500人のキャパで。スタンディングでやって。1回目のライブのくせに日本語封印ライブというよくわからないことをして(笑)。日本語の曲を一切しませんって言って、私のブログでしか宣伝しなかったし、もう絶対埋まらないと思ってたの。そのときから、ライブが始まると『これ、夢なんじゃないかしら』っていっつも思うんですよ」

梶浦がMCで語る言葉に必ず含まれる言葉だ。客席に座る一人一人の誰が欠けてもライブはできなかったという想い。だから言う。

「さっき、(前半のMCで)ステージ上のメンバーはみんなが主役だって言ったじゃないですか? それと同じように実は今日の主役はあなたなんですよね、だって自分のstoryの主役って一人じゃないですか?」「今日ね、私たちが奏でた音楽が、歌ってくれたあなた、演奏してくれたあなた、そして、その席で聴いてくださったあなたの上に降り注ぐのに相応しい音楽であったことを祈っています」

客席の誰かが欠けたらYK LIVEの内容は変わるかといえば、そうではないことは聴く者の誰もが承知している。プロフェッショナルたちによる、研ぎ澄まされた音楽の祭典だからだが、ただ、劇伴楽曲を聴かせたり、日本語歌詞を歌わなかったりというYK LIVEがあまり前例のないものであり、それが15年も続けられたのは、梶浦の音楽を愛したファンのおかげでもある。YK LIVEだから、梶浦だから生み出せた音楽がファンを引き寄せ、ファンがその愛を形にしてきた共存関係。それを常に胸に抱いている梶浦は言う。

「やっぱりいつも思うのは、『みんな』っていないんだよね。『あなた』なんですよね。あの頃、私のブログだけ見て、たった一人やってきてくれたあなたと、今日この席に座ってくれたあなたと、私たちのアルバムを聴いてくださったあなたがいたから、今日、私たちはここでライブができています」「私たちのパレードに加わってくださって本当にありがとうございました」

と。だから、客席にいた者もライブに立ち会ったことを、パレードに参加したことを誇りに思う、そんな一夜が終わろうとしていた。ラストソングについて梶浦は、

「今日は六声バージョンでお届けしちゃいます」

とYK LIVEの魅力を最大級で届けることを宣言し、パレードの最後を告げるファンファーレを鳴らした。客席に向かって手を振るKAORI、照れるようなしぐさを見せるKEIKO、落ち着いて客席を見つめるKAIDAとJoelle。KEIKOが口火を切った歌にKAIDAが混じり、Joelleが加わって3人での歌となる。BメロでKAORIとKEIKOの二声にJoelle、KAIDAが入ってきたあと、上手と下手の両端に立っていたLINO REIAとritoがサビから加わる。2番はritoの可憐な歌声で始まり、KAIDAの高音で奥行きを増していく。サビ前からKAIDA・KEIKO・KAORIで紡ぎ、KEIKOが低音を編み込んだ歌をJoelleとKAIDAが受け取り、全員でサビを歌い上げる。Dメロを経て、KAIDAとKAORIのロングトーンは力強く道を示す。そして最後に6人が横並びになって歌声を疾走させ、KAORI・Joelleが新しいページを開き、全員が一つとなった歌声は、遥かな「向こうへ」と達した。ライブの終焉をもって、輝かしい未来への扉を開かれた。

梶浦が本日参加のメンバーを紹介していく。ミュージシャンと歌姫全員の名前を読み上げ、そして客席を向いて「あなた!」と。そのあと、歌姫たちの「そして……!」に続き、会場全体が「梶浦由記!」と叫んで、この日の公演は終焉を迎えた。それでも「goes on」と名付けられたように、これからも音楽を生み、奏で、喜びを与えるパレードは続いていく。共にしたものがすべて、この幸せな列からいつまでも離れないことを心に誓った夜だった。

『30th Anniversary Yuki Kajiura LIVE vol.#18 〜The PARADE goes on〜』

東京公演 DAY 2

2023年8月16日(水)東京・LINE CUBE SHIBUYA

<SET LIST>

overture

ことのほかやわらかい [PARADE / FictionJunction]

夜光塗料 [PARADE / FictionJunction]

storytelling [elemental / FictionJunction]

− MC −

もう君のことを見たくない [PARADE / FictionJunction]

凱歌 [elemental / FictionJunction]

cynical world [FICTION / 梶浦由記]

key of the twilight [FICTION / 梶浦由記]

− MC −

それは小さな光のような [PARADE / FictionJunction]

八月のオルガン [PARADE / FictionJunction]

cazdor del amore [Everlasting Songs / FictionJunction]

− MC −

暁の車 [Destination / FictionJunction YUUKA]

優しい夜明け [Dream Field / See-Saw]

君がいた物語 [Dream Field / See-Saw]

zodiacal sign [FICTION / 梶浦由記]

stone cold [elemental / FictionJunction]

− MC −

moonlight melody [PARADE / FictionJunction]

Parade [PARADE / FictionJunction]

− EN −

Beginning [PARADE / FictionJunction]

時の向こう 幻の空 [elemental / FictionJunction]

− MC −

蒼穹のファンファーレ [PARADE / FictionJunction]

関連リンク



梶浦由記オフィシャルサイト

https://fictionjunction.com/

Kaji Fes.特設サイト

https://fictionjunction.com/kajifes2023/

デビュー30周年記念サイト

https://fictionjunction.com/yk30th/

「PARADE」特設サイト

https://www.fictionjunction-parade.com/