この記事をまとめると

■スーパーハイト軽ワゴンモデルにはSUV風のクルマが多数存在する

■しかしミニバン系本格SUVは三菱デリカD:5以外存在しない

■その人気の高さやライバル車種が登場しない理由を詳しく解説

軽自動車にはSUVもSUV風もラインアップが豊富

 最近発売された新型車のなかで、デリカミニが注目されている。eKクロススペースの改良版だが、フロントマスクの刷新と車名の変更で人気を高めた。軽自動車ながら、外観をSUV風に仕上げたことが特徴だ。

 そして、軽自動車にはSUV風の車種が多い。本格的な悪路向けSUVのジムニーに加えて、背の高い車種にも後席側のドアをスライド式にした前述のデリカミニ、タントファンクロス、スペーシアギア、横開きドアのハスラーやタフトもある。

 ところが、小型/普通乗用車で背の高いミニバンでは、SUV風のモデルが大幅に減る。販売が堅調な車種はデリカD:5だけだ。フリードにもクロスターがあるが人気は高くない。このほか、先代シエンタが外観をSUV風にアレンジした特別仕様車のグランパーを設定したり、かつてはセレナが「キタキツネ」を用意したこともあったが、いずれも売れ行きを伸ばせず後継車種も用意されていない。

 この背景には複数の理由がある。まず背の高い軽自動車は、販売台数が多いことだ。2023年上半期(1〜6月)の1カ月平均は、タントが1万3348台、スペーシアも1万台に達する。ハスラーはSUV風の仕様のみで、1カ月平均が5693台だ。このように軽自動車は販売が堅調だから、SUV風のタイプを設定すれば利益も高まる。ところがフリードの2023年上半期は、1カ月平均が7252台だ。小型/普通車では人気の高い部類に入るが、クロスターに限ると売れ行きが低迷する。

デリカはミニバンをSUV化したのではなくSUVミニバンとして作られた

 それならなぜデリカD:5だけはSUV風のミニバンとして存続しているのか。2023年上半期の1カ月平均は1576台で、販売台数自体は多くないが、三菱は販売店舗数も限られて約550店舗に留まる。トヨタの約4600店舗に比べたら10分の1だ。そうなると1カ月平均が1576台なら、トヨタでは1万5000台に相当するから、十分に成り立つ。

 デリカD:5が堅調に売れているのは、クルマ作りがほかのミニバンとは根本的に異なるからだ。デリカD:5は、プラットフォーム、サスペンション、4WDシステム、外観デザインまで、すべてが悪路に対応している。最低地上高(路面とボディのもっとも低い部分との間隔)にも185mmの余裕を持たせ、ミニバンスタイルのSUVといえるだろう。

 ただし、三菱以外のメーカーがデリカD:5のようなミニバンのSUV仕様を手がけるのは難しい。他社の開発者は以下のように返答した。「ワイドなフェンダーを装着して外観をSUV風仕上げ、最低地上高も高めると下まわりを擦りにくいから、お客様が本格的な悪路を走る可能性が生じる。その用途に対応するには、シャシーや足まわりに十分な耐久性を与えねばならない。横滑り防止装置や衝突被害軽減ブレーキの設定も、すべてやり直す必要が生じる。」

 このような事情があるから、フリードのクロスターは最低地上高を高めていない。ほかの4WDと同じ150mmだ。軽自動車なら販売台数が多いから、最低地上高を高めないSUV化でも相応の台数を販売できるが、小型/普通乗用車では難しい。デリカD:5のように、本格的に手を入れないとダメなのだ。

 ちなみにスバルのクロストレックは、以前のXVを含めて、インプレッサをベースにしながら最低地上高を200mmまで高めた。悪路走破力も高く販売も堅調だが、このクルマ作りを可能にした理由は、スバル車がインプレッサをなどを含めて悪路に対応していることだ。「SUVが人気なら、いろいろな車種に、最低地上高を高めて大径タイヤを装着したSUV風のグレードを用意すれば良いのに……」と思うが、メーカーがそれを行うにはさまざまな困難がある。そのためにSUV風のグレードは、どれも中途半端に見えて、なかなか人気を高められないのだ。