Amazon、ウォルマート(Walmart)、インスタカート(Instacart)がそれぞれ独自の路線でコマース事業の強化に取り組んでいる。eコマースアクセラレーションプラットフォームのパックビュー(Pacvue)によると、業績をコロナ禍以前の水準に戻す、あるいは主要な業績指標を大きく伸ばすなど、各社とも一定の成果を上げているようだ。

パックビューはこのほど、このオンライン小売大手3社について、多様な業種の広告主数千社から集めたパフォーマンスデータをもとに、第2四半期の広告事業の業績を報告した。年初から続く経済の先行き不透明感にいまだ苦しむ広告業界だが、パックビューの報告書を見る限り、今四半期、ブランドの動向にはこれら3社のリテールプラットフォームでスポンサード広告やターゲティング広告への投資を拡大する動きが見られる。

エージェンシーたちはリテールメディアネットワークの台頭を確実に感じ取っている。コンテンツショップのトレードスクール(Trade School)で戦略と変革を統括するブランドン・マーフィ氏は、WARCメディア(WARC Media)とグループエム(GroupM)の調査を引用しながら、「リテールメディアに支出される広告費の総額は、検索、リニアTV、ソーシャルメディアに次ぐ第4のメディアチャネルとして急成長を遂げている」と指摘する。

メタ(Meta)およびGoogleに代わる選択肢



「インフレ圧力は弱まりつつあり、消費者は再び支出モードに入るだろう」とマーフィ氏は話す。「リテールメディアネットワークは広告費を大きく取りに来る構えだ。消費者が買い控えから消費再開に転じるに伴い、この繰越需要を取り込むのにオンラインほど最適な場所はない」。

とくに、Amazon、ウォルマート、インスタカートの3社は、テクノロジー大手のメタ(Meta)およびGoogleに代わる選択肢を提供するものだ。独立系エージェンシーのオーシャンメディア(Ocean Media)でメディア投資を統括するシニアバイスプレジデントのジャレッド・レイク氏は、「広告主に2強からの投資分散を促す、実行可能で完全なソリューションだ」と評価する。「しかも、リテールメディアプラットフォームは彼ら固有のショッピングデータを豊富に提供してくれる。広告主は、新規顧客のターゲティングや過去の顧客の呼び戻しをはじめ、購入に至るファネル全域でこのデータを活用できる」。

しかし、リテールメディアの競争が過熱するに伴い、ブランドには小売企業と直接取引すべきというプレッシャーがかかる。リテールメディアネットワークの保有するデータが彼らの成長に貢献するとしても、小売企業、マーケター、メディアエージェンシーの関係は複雑化せざるを得ない。

パックビューの報告書をもとに、リテールメディアネットワーク大手3社の広告事業における業績を以下にまとめる。

Amazon



Amazonの広告事業では、第2四半期にスポンサーブランド広告への1日の広告支出が増加した。一方、スポンサープロダクト広告(Amazonに出品されている個々の商品を宣伝するCPC広告)の現在の平均クリック単価(CPC)は1.21ドル(約175円)で、このタイプの広告商品に使われる平均広告費は前年比で7.1%増加した。

第2四半期、Amazonで支出される1日当たりの広告費は、通年では前年より減少したものの、四半期ベースでは前年同期より3.2%増加した。ここ最近、この広告タイプへの投資が増えていることを反映した数字と思われる。顧客獲得単価(CPA)は前年比2.6%増の9.85ドル(約1431円)で、広告の費用対効果(ROAS)は前年比1.5%減だが、四半期ベースでは6.1%増となった。

「より効率的なキャンペーンや、より優れた広告クリエイティブが広告の投資効果を引き上げた結果かもしれない」と報告書では指摘している。

とくに、スポンサープロダクト広告のROASは前年比3.2%増で、2020年第2四半期にコロナ禍が勃発して以来、最高の数字を計上した。美容およびパーソナルケアのカテゴリーも、前年比69.4%増という好調ぶりだった。食料品カテゴリーも2022年以降、毎月一貫して増加しているが、成長の一部にはやや先細りも見られる。広告費は平均で前年比65.6%増、ROASは前年比6.4%増だった。

ウォルマート



広告プラットフォーム事業の「ウォルマートコネクト(Walmart Connect)」の成長が順調に推移しており、今第2四半期はクリック率(CTR)が前年比125%増、ROASが前年比40%増となった。パックビューはこの成長の要因として、最近行われたアルゴリズムや入札ルール、推奨の入札機能の変更を挙げている。

昨年、ウォルマートコネクトは広告主の「払い過ぎ」を防ぐ一助として、検索アルゴリズムを変更し、入札プロセスにセカンドプライスモデルを導入した。新システムでは、最高額を入札した買い手が落札することに変わりはないが、入札した最高価格を支払う代わりに、2番目に高い価格を入札した人の入札価格で購入できる。

こうした変更の結果、ウォルマートのCPCは前年比18.3%減の58セント(約60円)に下落した一方、ROASは6.93ドル(約1007円)に上昇した。広告主がウォルマートコネクトで支出する広告費も増えており、前年比で平均14.5%、前年同期比(四半期ベース)で2.2%伸びている。

エクスヴェラスメディア(Exverus Media)のパフォーマンスソリューション部門アソシエイトマネジャーで、リテールメディアに詳しいモニーク・ヒメネス氏はこう話す。「新しい広告ユニットやレポート指標の追加など、ウォルマートコネクトで行ったこうした変更により、客足の増加とそれに伴うCTRの向上が期待できる。というのも、新しい消費者の関心を求めて、より多くの広告主がこのサイトに集まるためだが、一方でROASの低下も見られる」。

ヒメネス氏は、この場合の消費者行動は「商品の発見」モードにシフトするだろうと指摘し、「消費者は商品の購入前に、下調べのためにこのサイトに向かう。買い物客はファネルのやや上層に位置し、購入に先だって何度かサイトを訪れ、商品をチェックするかもしれない」と語った。

インスタカート



インスタカートのCPCは安定的に推移し、ROASは前年よりも上昇しているが、その反面、今第2四半期は競合プラットフォームの広告費とコストの増加傾向が見られた。報告書は、2022年12月以降の広告支出の効率改善に言及する一方、2023年4月以降は広告売上高比率(ACOS)の上昇とROASの下落が「効率性の低下傾向」を示唆しているとも指摘している。

パックビューの報告書によると、「夏休みや冬休みのピーク前には、食品と日用品分野で注目と競争が高まるが、前述の傾向はこの季節性の需要増と連動しているようだ」という。

第2四半期、インスタカートの平均CPCはほぼ横ばいで、1.1%増の91セント(約90円)だった。平均広告費は前年比8.2%減だったが、この減少の大部分は4月に集中している。広告費は夏に向けて毎月増加しており、平均ROASは前年比9.86%増の5.57ドル(約809円)だが、2023年第1四半期の5.80ドル(約842円)からは若干下落している。

有効CPM(eCPM)は一貫して増加しているが、1000人の潜在顧客にリーチするためのコストは2022年4月以来、約30%、月ベースでは約2%増えているとして、パックビューは注意を促している。

[原文:Amazon, Walmart, Instacart continue to compete as agencies add more commerce media ad dollars to their carts]

Antoinette Siu(翻訳:英じゅんこ、編集:島田涼平)