国立科学博物館(写真:アフロ)

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国立科学博物館(科博)は、標本・資料を集めたり保管したりする資金がコロナ禍や光熱費、原材料費の高騰によって危機的状況にあるとして、2023年8月7日から1億円を目標額としたクラウドファンディングを始めた。同日夕方には目標額の1億円が集まり、14日時点では6億円以上が集まっている。

なぜ科博を所管する文部科学省は資金援助をしなかったのか。J-CASTニュースは科博と文科省に詳しい話を聞いた。

「国立なのになんでクラファンなの?」

科博のクラファン達成をめぐってツイッター(現・X)上では「とても嬉しいニュース」といった声があがる一方、「国立なのになんでクラファンなの?」「一億円、国が出せないの?こういうところに税金使えばいいのに」「本当に残念な国だ...」といった声が多くあがっている。

10日、科博にクラファンをすることになった経緯や目的を尋ねた。

かねて余裕がない運営体制だったところ、コロナ禍によって、入館料収入が大きな影響を受けたという。さらに昨今の物価高による光熱費や保管容器・溶液などの高騰、現在建築中の収蔵庫建築資材や人件費などの高騰による費用の大幅な増加が続き、自助努力や国からの補助だけでは対応ができず、様々な活動が縮小・停止を余儀なくされたとする。

クラウドファンディングは、資金的な支援だけでなく、取り組みを応援してくださる新たな仲間と出会える機会になるということも、私たちは今までのプロジェクトで強く感じ ています。今回は過去最大の挑戦だからこそ、このプロジェクトを通してより多くの方に当館の取り組みやビジョン、ナショナルコレクションの多様性や研究者の熱量を知っていただく機会にしたい、そして当館を身近に感じてくださる方が一人でも増えたらと願っています」

クラファンの反響や館内での受け止めについては

「想定をはるかに上回るわずか9時間での目標達成と、3日間での5億円の到達。ご支援いただいた全国の皆様方に心からの感謝の気持ちでいっぱいです。3万人を超える方々に、博物館の標本・資料の収集・保管の重要性にご理解、ご賛同いただいたことは、当館のみならず、全国の博物館にも大いに励みになると思います」

文科省に運営費交付金を増やしてもらうという案はなかったのか尋ねると「年間を通して現状をお伝えし、必要となる予算要求を行ったところです」と回答した。

クラファンは必ずしもマイナスの要因だけではない

科博の財源の内訳は、2020年度は運営費交付金が約82%、残りが入場料などの自己収入などとなっている。21年度は運営費交付金が約70%、残りが自己収入などだ。22年度は運営費交付金が約50%、残りが自己収入などとなっている。

8月9日、文科省文化庁の担当者に科博の運営費交付金の推移を尋ねると、18年〜20年度は27億円、21年度は29億円、22年度は25億円、23年度は28億円だとした。

運営費交付金自体は、年度によってばらつきはあるが、一定程度必要な額を国として措置しているという。

科博は独立行政法人だが、独立行政法人の制度として5年間の中期目標があり、その間の予算の総額をあらかじめ設定する。それに基づいて毎年の予算を措置しているという。

政策的に必要だと判断した場合は、独立行政法人と相談しながら、毎年の交付金に予算を追加するケースがあるとする。

今回のクラファンの受け止めを尋ねると、次のように回答した。

「1億円でもチャレンジだと思っていたところ、これだけご寄付をいただけたことに国としても感謝を申し上げます。クラウドファンディングは、必ずしもマイナスの要因だけではありません。科博がこれから様々な活動にチャレンジしていくことと合わせて、より国民の皆様に自分たちの活動を知っていただく機会にしたいという思いがあると科博から相談を受けています。

科博が取り組んでいる科学自然史についてもご理解を深めていただいている、もしくは応援していただく方々が増えたのかなと受け止めています」

クラファン成功により支援の在り方に変化はあるか?

クラファンが決定した段階で、運営費交付金を増やした方が良いという案はなかったのか。担当者によると、その時点で23年度の予算は国会のプロセスを経て見込みとして決まっており、増やすのが難しかったという。今後のリスク要因を考え、科博と相談したとする。

今後の運営費交付金については、来年度の予算になるため、これから準備を始める。今の状況や今後の見込みを科博と相談して決めるとした。

「海外では寄付金を多く集めている博物館もあります。今の法人は、柔軟に多様な財源を確保することができるように制度化されたものです。自分たちで収入として得る財源を増やしていくチャレンジという風にも捉えています」

科博は、寄付金が財源全体の数パーセントしかない状態のため、法人制度を活用して伸ばすこともできるのではないかという。

ツイッター上では「クラウドファンディングが成功したら運営費交付金を増やさなくても、自分たちでなんとかできると思われて予算が減らされるのでは」という旨の懸念が上がっていた。資金調達の成功によって科博の支援の在り方は変化するのか尋ねると、担当者は「大きく変わらず、これまで通り運営費交付金の算定ルールに則って算出していきます」と回答した。

寄付金は算定ルールから除外されており、寄付金を多く集めたら交付金が減るわけではないとした。

「科博は、必要に応じて、もしくは、今後やりたい活動が生じた時に、一時的にでも資金を集めるために、クラウドファンディングをしていました。今回は寄付金をプロジェクトベースではなく、少し用途を広げて使うために集めました。プロジェクトベースというのはこれからも続けるのではないかと思います。今回科博の活動を知っていただけた方々が、これからプロジェクトベースの資金を集める時に、科博に注目してもらう機会にもなったと思います」